東大理 I 後期総合科目II 1 解答 解説 2001年入試に戻る


 昆虫の増殖や人口問題を扱う,数理生態学という学問分野がある.ベルハルスト(1845) は, 生物の増殖に関する有名な方程式を提案している.その内容の概略は以下の通りである.
 ある生物の個体数を x,単位時間あたりの増加数を y とする.$x,\ y$ の間には, $y=\gamma x$ なる関係がある.ここで,$\gamma$ を増殖率と呼ぶ. ある生態系における生物の増殖を長時間観察すると増殖率 $\gamma$ は一定ではなく, 個体数の変化に伴って 1次関数的に変化することが分かっており,これを考慮すれば, $\gamma=a(1-bx)$と表せる.これより,個体数の時間的な変化を表す次の式が得られる.

 \begin{displaymath}\dfrac{dx}{dt}=a(1-bx)x
\end{displaymath} (1)

 ただし,$a,\ b$ は正の定数である.これをロジスティック方程式と呼ぶ.

A

 式(1)を解いて, x を時刻 t=0における初期値 $x_0\ (x_0>0)$ と時間 t の関数として表す手続きに関する以下の設問に答えよ.

B

 式(1)の左辺の微分を,次の式で近似する.ただし, ${\it\Delta}t$は正とする.

 \begin{displaymath}\dfrac{dx}{dt}=\dfrac{x(t+{\it\Delta}t)-x(t)}{{\it\Delta}t}
\end{displaymath} (2)

 式(2)を式(1)の左辺に代入すると $x(t+{\it\Delta}t)-x(t)$x(t) の関係式が得られる. なお,式(1)の右辺の x には, x(t) を代入するものとする.
 さて,この生物は 一定の時間間隔で一斉に生殖し,世代交代するものと仮定する. ここで,連続的な時間 t について考察する代わりに,自然数で表される「世代」を考える.
 式(2)の分母の ${\it\Delta}t$ を1つの世代の時間間隔,また,分子の $x(t+{\it\Delta}t)-x(t)$を第 n+1 世代の個体数 xn+1 と第 n 世代の個体数 xn の差と見なし,

 \begin{displaymath}A=1+a{\it\Delta}t,u_n=\dfrac{ab{\it\Delta}t}{A}x_n
\end{displaymath} (3)

と置けば,ロジスティック写像と呼ばれる次の方程式が得られる.

 
un+1=f(un)=A(1-un)un (4)

 ここで, f(un) は un から un+1 を求める関数であり,これを写像 f と呼ぶ.
 いま,un の定義域を閉区間 $0\le u_n \le 1$ とし,$1<A\le 4$であるとする.このとき un から un+1 ヘの写像fによって得られるun+1の値域は閉区間 $0\le u_n \le 1$ に入る.この写像からun+1の様々な挙動が発生する.以下では,図式を用いて A の値を小さ い方から大きい方ヘと変化させた時のun+1の挙動を求めることにする.
 図式解法の手順を示す.図1の放物線は,式(4)を un を横軸,un+1を縦軸として 表したものである.ただし,A=3.2である.第 0 世代に対応する初期値を u0 とし, この値を出発点とし,写像 fn 回繰り返すことで un が求められる.
 縦軸上で得られた値を横軸に折り返し,写像 f を逐次繰り返すと図 2(分かりやすく するために隣り合う点を直線で結んである)のような un の時間的変化が求められる. この操作によって求められる $u_0,\ u_1,\ u_2,\ \cdots$ を時系列と呼ぶ.この操作の手順は, 写像 f を表す放物線と縦軸の値を横軸の値に写す写像を表す un+1=unを用いて, 図式的に示すことができる.まず,横軸上の初期値 u0から出発して,縦方向に移動して 放物線と交わる点 u1を求める.その後,横方向に移動して直線と交わる点を求める. この点を出発点として,同じ操作を行う ことにより u2が求まる. この操作を繰り返すことにより,時系列が求められる.

C

  図2のようなケースを2周期的変化(注 : 1回おきに同じ値をとるような変化のこと)と呼ぶ. さらに大きな A についてこのような検討を行えば,4周期的変化,8周期的変化,…が得られ, $A>3.5699456\cdots$では,非周期的変化に変わる.
 非周期的変化を示すA=4 の場合

\begin{displaymath}u_n=\sin^2(\pi \theta_n) \quad (ただし\ 0 \le \theta_n \le 1 \ である)
\end{displaymath} (5)

と置いて式(4)に代入すれば,un+1un との関係は, $\theta_{n+1}$$\theta_n$ の関係に帰着できる.