2016年入試問題研究に戻る同大理工〔1〕(2)の一般化問題解答
$ n $ 回目の試行を行うときの,箱の中の白球の個数を $ W_n $ , $ n $ 回目の試行で白球を取り出す事象を $ A_n $ とし, $ P(事象) $ でその試行における事象の確率を表す.
以下,各問について漸化式を導く方法を3通り示す.
問題1
これはポリヤの壺といわれる問題である. 推測して数学的帰納法で示すことは, 『新作/原型問題』の中の「ポリヤの壺」にある.
方法1 $ n+1 $ 回目の試行で取り出すのが, $ n $ 回目の試行で加わった玉からか, $ n $ 回目の試行のときにあった玉からかで場合に分ける.
$ n $ 回目の試行で加わった玉から取り出して,それが白球である確率は $ \dfrac{c}{a+b+nc}\cdot P_n $ である. $ n $ 回目の試行のときにあった玉から取り出す確率は $ \dfrac{a+b+(n-1)c}{a+b+nc} $ で,この条件の下でそれが白玉である確率は $ P_n $ であるから, $ n $ 回目の試行のときにあった玉から取り出して,それが白球である確率は $ \dfrac{a+b+(n-1)c}{a+b+nc}\cdot P_n $ である. よって, \[ P_{n+1}=\dfrac{c}{a+b+nc}\cdot P_n+\dfrac{a+b+(n-1)c}{a+b+nc}\cdot P_n=P_n \]方法2 和は $ k $ のとりうるすべての値にわたる和とする. \begin{eqnarray*} P(A_n \cap A_{n+1})&=&\sum_k P(W_n=k)\cdot\dfrac{k}{a+b+(n-1)c}\cdot\dfrac{k+c}{a+b+nc}\\ P({\overline{A_n}} \cap A_{n+1}) &=&\sum_k P(W_n=k)\cdot\left(1-\dfrac{k}{a+b+(n-1)c}\right)\cdot\dfrac{k}{a+b+nc}\\ &=&\sum_k P(W_n=k)\cdot\dfrac{k}{a+b+nc}-\sum_k P(W_n=k)\cdot\dfrac{k}{a+b+(n-1)c}\cdot\dfrac{k}{a+b+nc} \end{eqnarray*} であるから, \begin{eqnarray*} P_{n+1}&=&P(A_{n+1})=P(A_n \cap A_{n+1})+P({\overline{A_n}} \cap A_{n+1})\\ &=&\sum_k P(W_n=k)\cdot\dfrac{k}{a+b+nc}+\sum_k P(W_n=k)\cdot\dfrac{kc}{\{a+b+(n-1)c\}\{a+b+nc\}}\\ &=&\sum_k P(W_n=k)\cdot\dfrac{k\{a+b+(n-1)c+c\}}{\{a+b+(n-1)c\}\{a+b+nc\}}\\ &=&\sum_k P(W_n=k)\cdot\dfrac{k}{a+b+(n-1)c}=P_n \end{eqnarray*} である.
方法3 これは,期待値とその加法性を用いるので,数学Bの範囲の解である.
新しい確率変数 $ X_i $ を \[ X_i=\left\{ \begin{array}{ll} 1&(i回目が白)\\ 0&(i回目が黒) \end{array} \right. \] で定める. $ n-1 $ 回の試行の後の白玉の個数 $ W_n $ は \[ W_n=a+\sum_{i=1}^{n-1}cX_i \] である. $ E $ で期待値を表す. \begin{eqnarray*} P_n&=&\sum_k P(W_n=k)\cdot\dfrac{k}{a+b+(n-1)c}=\dfrac{1}{a+b+(n-1)c}\sum_k P(W_n=k)\cdot k\\ &=&\dfrac{1}{a+b+(n-1)c}E(W_n)\\ P_{n+1}&=&\dfrac{1}{a+b+nc}E(W_{n+1}) \end{eqnarray*} ここで, \[ W_{n+1}=W_n+cX_n \] より,期待値の加法性によって, \[ E(W_{n+1})=E(W_n)+cE(X_n) \] であり, \[ E(X_n)=1\cdot P_n+0\cdot (1-P_n)=P_n \] であるから, \[ P_{n+1}=\dfrac{1}{a+b+nc}\left\{E(W_n)+cP_n\right\} \] となる.ここで, $ E(W_n)=\{a+b+(n-1)c\}P_n $ であったから, \[ P_{n+1}=\dfrac{1}{a+b+nc}[\{a+b+(n-1)c\}P_n+cP_n]=P_n \] である. この結果, \[ P_n=P_1=\dfrac{a}{a+b} \] となり, \[ \lim_{n \to \infty}P_n=\dfrac{a}{a+b} \] である.
問題2
方法1 $ n+1 $ 回目の試行で取り出すのが, $ n $ 回目の試行で加わった玉からか, $ n $ 回目の試行のときにあった玉からかで場合に分ける.
$ n $ 回目の試行で加わった玉から取り出し,それが白球である確率は \[ \dfrac{c}{a+b+nc}\cdot \left(1-Q_n\right) \] である. $ n $ 回目の試行のときにあった玉から取り出す確率は $ \dfrac{a+b+(n-1)c}{a+b+nc} $ で,この条件の下でそれが白玉である確率は $ Q_n $ であるから, $ n $ 回目の試行のときにあった玉からか取り出してそれが白球である確率は \[ \dfrac{a+b+(n-1)c}{a+b+nc}\cdot Q_n \] よって, \begin{eqnarray*} Q_{n+1}&=&\dfrac{c}{a+b+nc}\cdot\left(1-Q_n \right)+\dfrac{a+b+(n-1)c}{a+b+nc}\cdot Q_n\\ &=&\dfrac{a+b+(n-2)c}{a+b+nc}\cdot Q_n+\dfrac{c}{a+b+nc} \end{eqnarray*}
方法2 和は $ k $ のとりうるすべての値にわたる和とする. \begin{eqnarray*} P(A_n \cap A_{n+1})&=&\sum_k P(W_n=k)\cdot\dfrac{k}{a+b+(n-1)c}\cdot\dfrac{k}{a+b+nc}\\ P({\overline{A_n}} \cap A_{n+1}) &=&\sum_k P(W_n=k)\cdot\left(1-\dfrac{k}{a+b+(n-1)c}\right)\cdot\dfrac{k+c}{a+b+nc}\\ &=&\sum_k P(W_n=k)\cdot\dfrac{k+c}{a+b+nc}-\sum_k P(W_n=k)\cdot\dfrac{k}{a+b+(n-1)c}\cdot\dfrac{k+c}{a+b+nc} \end{eqnarray*} であるから, \begin{eqnarray*} Q_{n+1}&=&P(A_{n+1})=P(A_n \cap A_{n+1})+P({\overline{A_n}} \cap A_{n+1})\\ &=&\sum_k P(W_n=k)\cdot\dfrac{k+c}{a+b+nc}-\sum_k P(W_n=k)\cdot\dfrac{kc}{\{a+b+(n-1)c\}\{a+b+nc\}}\\ &=&\sum_k P(W_n=k)\cdot\dfrac{(k+c)\{a+b+(n-1)c-c\}}{\{a+b+(n-1)c\}\{a+b+nc\}}\\ &=&\dfrac{a+b+(n-2)c}{a+b+nc}\sum_k P(W_n=k)\cdot k+\dfrac{c}{a+b+nc}\\ &=&\dfrac{a+b+(n-2)c}{a+b+nc}Q_n+\dfrac{c}{a+b+nc} \end{eqnarray*} である.
方法3 \begin{eqnarray*} Q_n&=&\sum_k P(W_n=k)\cdot\dfrac{k}{a+b+(n-1)c}=\dfrac{1}{a+b+(n-1)c}\sum_k P(W_n=k)\cdot k\\ &=&\dfrac{1}{a+b+(n-1)c}E(W_n)\\ Q_{n+1}&=&\dfrac{1}{a+b+nc}E(W_{n+1}) \end{eqnarray*} ここで, \[ W_{n+1}=W_n+cX_n \] より,期待値の加法性によって, \[ E(W_{n+1})=E(W_n)+cE(X_n) \] であり, \[ E(X_n)=1\cdot (1-Q_n)+0\cdot Q_n=1-Q_n \] であるから, \[ Q_{n+1}=\dfrac{1}{a+b+nc}\left\{E(W_n)+c(1-Q_n)\right\} \] となる.ここで, $ E(W_n)=\{a+b+(n-1)c\}Q_n $ であったから, \begin{eqnarray*} Q_{n+1}&=&\dfrac{1}{a+b+nc}[\{a+b+(n-1)c\}Q_n+c(1-Q_n)]\\ &=&\dfrac{a+b+(n-2)c}{a+b+nc}Q_n+\dfrac{c}{a+b+nc} \end{eqnarray*} である. この結果, \[ (a+b+nc)Q_{n+1}=(a+b+(n-2)c)Q_n+c \] なので, \begin{eqnarray*} &&(a+b+nc)\{a+b+(n-1)c\}Q_{n+1}-\{a+b+(n-1)c\}\{a+b+(n-2)c\}Q_n\\ && = c\{a+b+(n-1)c\} \end{eqnarray*} である.よって, \begin{eqnarray*} &&\{a+b+(n-1)c\}\{a+b+(n-2)c\}Q_n\\ &=&(a+b)(a+b-c)\cdot \dfrac{a}{a+b}+\sum_{k=1}^{n-1}c\{a+b+(k-1)c\}\\ &=&a(a+b-c)+(a+b)c(n-1)+\dfrac{(n-1)(n-2)c^2}{2}\\ &=&\dfrac{2a(a+b-c)+2(a+b)c(n-1)+(n-1)(n-2)c^2}{2} \end{eqnarray*} この結果, \[ Q_n=\dfrac{2a(a+b-c)+2(a+b)c(n-1)+(n-1)(n-2)c^2}{2\{a+b+(n-1)c\}\{a+b+(n-2)c\}} \] よって, \[ \lim_{n \to \infty}Q_n=\dfrac{1}{2} \] である.
問題3 同じ方法で考えると, \begin{eqnarray*} R_{n+1}&=&\dfrac{c+d}{a+b+n(c+d)}\left\{R_n\cdot\dfrac{c}{c+d}+(1-R_n)\cdot\dfrac{d}{c+d} \right\} +\dfrac{a+b+(n-1)(c+d)}{a+b+n(c+d)}R_n\\ &=&\dfrac{a+b+nc+(n-2)d}{a+b+n(c+d)}R_n+\dfrac{d}{a+b+n(c+d)} \end{eqnarray*} となり,漸化式はできるが一般項を求めることは難しい.