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酔歩の確率1

次の問題を考えてみよう.

例題 3  

南北に走る幅10mの車道がある. 車道の西側には歩道があり,東側には川が流れている. 歩道を歩く酔っ払いが,歩道から1mのところに飛び出した. 歩道に戻ろうとしているが,酔っ払っているので, 毎秒,$\dfrac{2}{3}$の確率で西の歩道の方へ1m, $\dfrac{1}{3}$の確率で東の川の方へ1m,動いている. 川に落ちればそこで動けない.歩道に戻ればもう動かない.

歩道から $n\ (0 \leqq n \leqq 10)$mのところにいて,歩道に戻る確率を$p_n$, 川に落ちて動けなくなる確率を$q_n$とする.ただしどれだけ時間がかかってもよいとする.

(1)
$1\leqq n \leqq 9$に対して, $p_n$ $p_{n-1},\ p_{n+1}$で表せ.
(2)
$p_n$, $q_n$$n$で表せ.

解答 (1)    

$n$mにいて歩道に戻れるのは, 次の一歩が歩道向かうか川に向かうかで場合に分けられる.

歩道に1m近づいて,そこから確率$p_{n-1}$で戻れるか, 川に1m近づいて,そこから確率$p_{n+1}$で戻れるか,いずれかである.

これから

\begin{displaymath}
p_n=\dfrac{2}{3}p_{n-1}+\dfrac{1}{3}p_{n+1}
\end{displaymath}

が成り立つ.$q_n$も同様に

\begin{displaymath}
q_n=\dfrac{2}{3}q_{n-1}+\dfrac{1}{3}q_{n+1}
\end{displaymath}

が成り立つ.

(2)     $p_n$は定義から

\begin{displaymath}
p_0=1,\ p_{10}=0
\end{displaymath}

であり, $q_n$は定義から

\begin{displaymath}
q_0=0,\ q_{10}=1
\end{displaymath}

である.

$p_n$の漸化式は

\begin{displaymath}
p_{n+1}-3p_n+2p_{n-1}=0
\end{displaymath}

となり,これより

\begin{eqnarray*}
&&p_{n+1}-2p_n=p_n-2p_{n-1}\\
&&p_{n+1}-p_n=2(p_n-p_{n-1})
\end{eqnarray*}

と変形される.これより

\begin{eqnarray*}
&&p_{n+1}-2p_n=p_1-2p_0\\
&&p_{n+1}-p_n=2^n(p_1-p_0)
\end{eqnarray*}

この結果

\begin{displaymath}
p_n=2^n(p_1-p_0)-p_1+2p_0
\end{displaymath}

である.$q_n$についても同様に

\begin{displaymath}
q_n=2^n(q_1-q_0)-q_1+2q_0
\end{displaymath}

が成り立つ.よって

\begin{eqnarray*}
&&p_n=2^n(p_1-1)-p_1+2\\
&&q_n=2^nq_1-q_1
\end{eqnarray*}

$n=10$のときの条件から

\begin{eqnarray*}
&&p_{10}=2^{10}(p_1-1)-p_1+2=0\\
&&q_{10}=2^{10}q_1-q_1=1
\end{eqnarray*}

となるので,

\begin{displaymath}
p_1=\dfrac{2^{10}-2}{2^{10}-1},\ q_1=\dfrac{1}{2^{10}-1}
\end{displaymath}

である.これより

\begin{eqnarray*}
&&p_n=\dfrac{2^{10}-2^n}{2^{10}-1}\\
&&q_n=\dfrac{2^n-1}{2^{10}-1}
\end{eqnarray*}

である.

このような確率は酔歩の確率などといわれる. 試行の回数はいくら多くてもよく,その意味で無限回試行の確率の典型的な例となる.

$n$m のところにいて$k$回で歩道に戻る確率を$P_n(k)$とすると,

\begin{displaymath}
p_n=\sum_{k=1}^{\infty}P_n(k)
\end{displaymath}

となる.このとき,$P_n(k)$は求めなくても, その和の極限値は求まることが出来ることが多い. $p_n$の位置$n$に関する漸化式は, 有限回の試行の回数$k$に関する漸化式を立てるのとはまったく別の考え方であり, この違いをよく認識しておくことが重要である.

また,本問の場合$p_n+q_n=1$は自明なことではなく,このようにそれぞれを求めてはじめて示されることである.

問題 9       [95京大理系後期]    解答9

AとBの2人が次のようなゲームを行う. $n$ を自然数とし,Aはそれぞれ $0,1,2,\ \cdots \ ,n$ と書かれた $(n+1)$ 枚の札をもっている.Bはそれぞれ $1,2,\ \cdots \ ,n$ と書かれた $n$ 枚の札をもっているとする.第1回目にBがAの持札から1枚の札をとり,もし番号が一致する札があればその2枚をその場に捨てる.番号が一致しない札はそのまま持ち続ける.次にBに持札があれば,AがBの持札から1枚の札をとり,Bと同じことをする.こうして先に札のなくなったほうを勝とする.Aが勝つ確率を $p_n$ ,Bが勝つ確率を $q_n$ とする.ただし相手の札を取るとき,どの札も等しい確率でとるものとする.

  1. $p_1,\ p_2,\ q_1,\ q_2$を求めよ.
  2. $p_n+q_n=1$ $(n+2)p_n-np_{n-2}=1\ (n=3,\ 4,\ 5,\ \cdots)$であることを示せ.
  3. $p_n$を求めよ.


次の問題は,酔歩ではない無限回試行の確率である.

問題 10       [97慶応大]    解答10

太郎君は硬貨を2枚,花子さんは硬貨を3枚もっている.いま,次のようなゲームをする.ジャンケンをし,太郎君が勝ったならば花子さんから1枚もらえ,太郎君が負けたならば花子さんに1枚渡す.ただし,太郎君がジャンケンに勝つ確率は $\dfrac{2}{5}$ であり,どちらかのもっている硬貨の枚数が0となったときにその者が敗者となってゲームは終わる.

$A_n$ を,太郎君が $n$ 枚もっている状態においてそれ以降に太郎君が勝つ確率とする.

  1. $n \ge 1$として $A_{n+1}$$A_n$$A_{n-1}$ の間に成り立つ関係式を求めよ.
  2. このゲームで太郎君の勝つ確率を求めよ.


次の問題は,平面上を動く酔歩の例である.

問題 11       解答11

     図のような,横3m,縦4mのいかだがある. 点線の区画は幅が1mである.点Aの位置に柱が立っている.

     いま酔っ払いが点Pにいる.この人は1歩が1mで上下左右に等しい確率で動く. ※印のところに行けば海に落ちてしまう. 柱の位置に行けばそこで柱につかまり助かる. この酔っ払いが海に落ちることなく,柱のある所に行く確率を求めよ.


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Aozora 2017-09-13