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酔歩の確率2

次の入試問題を考えてみよう.

例題 1 (2017昭和大医)  

次の問いに答えよ.

公平なサイコロを1回振るごとに,偶数の目が出たら1(万円)獲得し,奇数の目が出たら1(万円)損失するという賭けを行う.所持金0でこの賭けを$n$回繰り返した際の損益額の合計を$Z_n$(万円)とする.ただし,$Z_0=0$とする.

(1)  $\displaystyle M_n=\max_{0\le i \le n}Z_i$とするとき,確率$P(M_4=k)$ $k=0,\ 1,\ 2,\ 3,\ 4$の値をそれぞれ求めよ.ただし, $\displaystyle \max_{0\le i \le n}Z_i$$0\le i\le n$における$Z_i$の最大値を表す.

(2)  $T_n=\char93 \{i\vert i=0,\ 1,\ 2,\ \cdots,\ n-1,\ (Z_i=0\cap Z_{i+1}=1)\cup(Z_i=1\cap Z_{i+1}=0)\}$とするとき,確率$P(T_4=k)$ $k=0,\ 1,\ 2,\ 3,\ 4$の値をそれぞれ求めよ.ただし,$\char93  A$は集合$A$の要素の個数を表す.

(3) 任意の$k$に対して$P(M_5=k)$$P(T_5=k)$の間に成り立つ関係を求めよ.

解答
(1)     1と$-1$の値をとる確率変数$X_i$は,$0\le i$に対し、

\begin{displaymath}
P(X_i=1)=P(X_i=-1)=\dfrac{1}{2}
\end{displaymath}

であるとする.このとき

\begin{displaymath}
Z_i=X_1+X_2+\cdots+X_i
\end{displaymath}

である.$0\le i\le n$に対し,$(i,\ Z_i)$を座標平面上にとる.

$n=4$のとき. 試行の総数は$2^4$である. 左垂もとに,条件を満たす$(0,\ 0)$からの経路の総数を数えることにより,次の結果を得る. \begin{eqnarray*}
M_4=4&:&
\nearrow \nearrow \nearrow \nearrow \\
P(M_4=4)&=...
...row \nearrow \searrow\\
P(M_4=1)&=&\dfrac{4}{16}=\dfrac{1}{4}
\end{eqnarray*}

そして,

\begin{displaymath}
\sum_{k=0}^4P(M_4=k)=1
\end{displaymath}

より,

\begin{displaymath}
P(M_4=0)=1-\left(\dfrac{1}{16}+\dfrac{1}{16}+\dfrac{1}{4}+\dfrac{1}{4} \right)=\dfrac{3}{8}
\end{displaymath}


(2)      同様に考える.

\begin{eqnarray*}
T_4=4&:&
\nearrow \searrow \nearrow \searrow \\
P(T_4=4)&=...
...row \nearrow \nearrow\\
P(T_4=1)&=&\dfrac{4}{16}=\dfrac{1}{4}
\end{eqnarray*}

そして,

\begin{displaymath}
\sum_{k=0}^4P(T_4=k)=1
\end{displaymath}

より,

\begin{displaymath}
P(T_4=0)=1-\left(\dfrac{1}{16}+\dfrac{1}{16}+\dfrac{1}{4}+\dfrac{1}{4} \right)=\dfrac{3}{8}
\end{displaymath}

(3)     (2)と同様に,$P(M_5=5)=1$$P(T_5=5)=1$である. また,$P(M_5=0)$$P(T_5=0)$が他の事象の和の余事象であることも同様である.

そこで,$1\le k \le 4$に対して,$P(M_5=k)$$P(T_5=k)$を それぞれ, $P(M_4=k-1),\ P(M_4=k+1)$ $P(T_4=k-1),\ P(T_4=k+1)$で表す.

$P(M_5=k)$について. $M_5=k$となる事象は,

$X_1=1$なら,そこからはじめて残る4回の試行で$y=1$からの正方向の最大偏位が$k-1$となり,

$X_1=-1$なら,そこからはじめて残る4回の試行で$y=-1$からの正方向の最大偏位が$k+1$となるような事象である.

よって,

\begin{displaymath}
P(M_5=k)=\dfrac{1}{2}P(M_4=k-1)+\dfrac{1}{2}P(M_4=k+1)
\end{displaymath}

が成り立つ.

$P(T_5=k)$について. $T_5=k$となる事象は,

$X_1=1$のとき.2回目からはじめて残る4回の試行で, $(Z_i=1)\cap(Z_{i+1}=2)$ $(Z_i=2)\cap (Z_{i+1}=1)$$k-1$回起こるとする. このとき,その$n\ge 1$の部分での$X_i=\pm 1$$X_i=\mp 1$に置きかえて得られる試行を考えると, 1回目の試行とあわせて$T_5=k$となる事象が得られる.

逆に,$X_1=1$$T_5=k$となる事象から逆の置きかえで, $(Z_i=1)\cap(Z_{i+1}=2)$ $(Z_i=2)\cap (Z_{i+1}=1)$$k-1$回起こる事象が得られる.

$X_1=-1$なら,2回目からはじめて残る4回の試行で, $(Z_i=-1)\cap(Z_{i+1}=0)$ $(Z_i=0)\cap (Z_{i+1}=-1)$$k+1$回起こるとする. 最初に $(Z_j=-1)\cap (Z_{j+1}=0)$となる$j+1$に対し, $n\ge j+1$の部分での$X_i=\pm 1$$X_i=\mp 1$に置きかえて得られる試行を考えると, これによって$T_5=k$となる事象ががつ得られる.

逆に,$X_1=-1$$T_5=k$となる事象から逆の置きかえで, $(Z_i=-1)\cap(Z_{i+1}=0)$ $(Z_i=0)\cap (Z_{i+1}=-1)$$k+1$回起こる事象が得られる.

したがって,

\begin{displaymath}
P(T_5=k)=\dfrac{1}{2}P(T_4=k-1)+\dfrac{1}{2}P(T_4=k+1)
\end{displaymath}

が成り立つ.

$n=4$のときは

\begin{displaymath}
P(M_4=k)=P(T_4=k)
\end{displaymath}

であったので,この漸化式と$k=0,\ 5$のときの考察から

\begin{displaymath}
P(M_5=k)=P(T_5=k)
\end{displaymath}

が任意の$k$に対して成り立つ.

これを一般化してみよう. 以下,$P(A)$で事象$A$の確率を表し,$\char93  A$は集合$A$の要素の個数を表すものとする.

例題 2       1と$-1$の値をとる確率変数$X_i$を,$0\le i$に対し、

\begin{displaymath}
P(X_i=1)=P(X_i=-1)=\dfrac{1}{2}
\end{displaymath}

で定める.そして,

\begin{displaymath}
Z_i=X_1+X_2+\cdots+X_i
\end{displaymath}

とおく.
  1. $\displaystyle M_n=\max_{0\le i \le n}Z_i$とするとき, 確率$P(M_n=k)$$n$$k$を用いて表せ.
  2. $T_n=\char93 \{i\vert i=0,\ 1,\ 2,\ \cdots,\ n-1,\ (Z_i=0\wedge Z_{i+1}=1)\vee (Z_i=1\wedge Z_{i+1}=0)\}$とする. このとき,任意の自然数$n$$0\le k \le n$に対して

    \begin{displaymath}
P(M_n=k)=P(T_n=k)
\end{displaymath}

    が成り立つことを示せ.

解答
(1)      $1 \le k$を固定し,$k\ge b$となる$b$をとる.

\begin{displaymath}
P(M_n \ge k,\ Z_n=b)
=
P(Z_n=2k-b)
\quad \cdots\maru{1}
\end{displaymath}

が成り立つ.

なぜなら,

$M_n \ge k,\ Z_n=b$となる一つの事象に対して, 最初に$M_i=k$となる$i$を定め,$j\ge i$の範囲の$j$に対し $X_j=\pm 1$なら,これを$X_j=\mp 1$におきかえた事象をとると, これは,$Z_n=2k-b$を満たす.

逆に, $Z_n=2k-b$となる一つの事象に対して, $2k-b\ge k$より最初に$M_i=k$となる$i$がある. $j\ge i$の範囲の$j$に対し $X_j=\pm 1$なら,これを$X_j=\mp 1$におきかえた事象をとると, これは, $M_n \ge k,\ Z_n=b$を満たす.

この対応は一対一であるので$\maru{1}$が成り立つ. したがって,

\begin{displaymath}
P(M_n \ge k)
=P(Z_n\ge k+1)+\sum_{b=0}^{k}P(Z_n=2k-b)
=P(Z_n\ge k+1)+P(Z_n\ge k)
\end{displaymath}

である.よって,

\begin{eqnarray*}
P(M_n=k)&=&P(M_n \ge k)-P(M_n \ge k+1)\\
&=&P(Z_n\ge k+1)+P(Z_n\ge k)-P(Z_n\ge k+2)-P(Z_n\ge k+1)\\
&=&P(Z_n=k,\ k+1)
\end{eqnarray*}

$n$回中,$X_i=1$となる$i$$p$個,$X_i=-1$となる$i$$q$個とする. $Z_n=k$ということは $p+q=n$かつ$p-q=k$なので,$n+k=2p$である.したがって $P(Z_n=k),\ P(Z_n=k+1)$の一方は0である.

したがって,$n+k$が偶数のとき.

\begin{displaymath}
P(Z_n=k,\ k+1)=\dfrac{1}{2^n}{}_n \mathrm{C}_{\frac{n+k}{2}}
\end{displaymath}

$n+k$が奇数のとき.

\begin{displaymath}
P(Z_n=k,\ k+1)=\dfrac{1}{2^n}{}_n \mathrm{C}_{\frac{n+k+1}{2}}
\end{displaymath}

である.これをまとめて,

\begin{displaymath}
P(M_n=k)={}_n \mathrm{C}_{\left[\dfrac{n+k+1}{2}\right]}\cdot 2^{-n}
\end{displaymath}

と表すことができる.ここに$[x]$$x$を超えない最大の整数を表す.

(2)      すべての$n$に対して, $P(M_n=n)=2^{-n}$ $P(T_n=n)=2^{-n}$なので, $P(M_n=n)=P(T_n=n)$である.

また,

\begin{displaymath}
\sum_{k=0}^nP(M_n=k)=1,\
\sum_{k=0}^nP(T_n=k)=1
\end{displaymath}

である.

これから$n=1$のとき題意は成立する.

自然数$n\ge 2$に対して, $1\le k \le n-1$のとき,

\begin{displaymath}
P(M_n=k)=P(T_n=k)
\end{displaymath}

が成り立つことを示せば, $0\le k \le n$のとき成立する.

自然数$n\ge 2$に対して, $1\le k \le n-1$のとき,

\begin{displaymath}
P(M_n=k)=P(T_n=k)
\end{displaymath}

が成り立つことを数学的帰納法で示す.

そこで, $1\le k \le n-1$に対して,$P(M_n=k)$$P(T_n=k)$を それぞれ, $P(M_n=k-1),\ P(M_n=k+1)$ $P(T_n=k-1),\ P(T_n=k+1)$で表す.

$P(M_n=k)$について,$M_n=k$となる事象は,

$X_1=1$なら,そこからはじめて残る$n-1$回の試行で$y=1$からの正方向の最大偏位が$k-1$となり, $X_1=-1$なら,そこからはじめて残る$n-1$回の試行で$y=-1$からの正方向の最大偏位が$k+1$となるような事象である.

$P(T_n=k)$について,$T_n=k$となる事象は,

$X_1=1$のとき.2回目からはじめて残る$n-1$回の試行で, $(Z_i=1)\cap(Z_{i+1}=2)$ $(Z_i=2)\cap (Z_{i+1}=1)$$k-1$回起こるとする. このとき,その$n\ge 1$の部分での$X_i=\pm 1$$X_i=\mp 1$に置きかえて得られる試行を考えると, 1回目の試行とあわせて$T_n=k$となる事象が得られる.

逆に,$X_1=1$$T_n=k$となる事象から逆の置きかえで, $(Z_i=1)\cap(Z_{i+1}=2)$ $(Z_i=2)\cap (Z_{i+1}=1)$$k-1$回起こる事象が得られる.

$X_1=-1$なら,2回目からはじめて残る$n-1$回の試行で, $(Z_i=-1)\cap(Z_{i+1}=0)$ $(Z_i=0)\cap (Z_{i+1}=-1)$$k+1$回起こるとする. 最初に $(Z_j=-1)\cap (Z_{j+1}=0)$となる$j+1$に対し, $n\ge j+1$の部分での$X_i=\pm 1$$X_i=\mp 1$に置きかえて得られる試行を考えると, これによって$T_n=k$となる事象が1つ得られる.

逆に,$X_1=-1$$T_n=k$となる事象から逆の置きかえで, $(Z_i=-1)\cap(Z_{i+1}=0)$ $(Z_i=0)\cap (Z_{i+1}=-1)$$k+1$回起こる事象が得られる.

上から,漸化式

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
P(M_{n+1}=k)=\dfrac{1}{2}P(M_n=k-1)+\df...
...)=\dfrac{1}{2}P(T_n=k-1)+\dfrac{1}{2}P(T_n=k+1)
\end{array}
\end{displaymath}

が成り立つ.$n=1$のときの成立から,$n=2,\ k=1$が成立し, $k=0,\ 2$のときの考察とあわせて,$0\le k \le 2$に対して 成立する.

$n$のとき,$0\le k \le n$に対して成立するとすると,漸化式が等しいので, $n+1$のとき,$1\le k \le n$について成立し, $k=0,\ n+1$のときの考察とあわせて, $0\le k \le n+1$について成立する.

よって,

\begin{displaymath}
P(M_n=k)=P(T_n=k)
\end{displaymath}

が成り立つことが示された.


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Aozora  2017-10-22