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微分作用素

耕介  それはいいかえると,$a,\ b,\ c$の整式 $f(a,\ b,\ c)$で,上の変換を施した

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
f(\alpha^2a,\ b,\ \alpha^{-2}c)\\...
...\ t^2a+2tb+c)\\
f(a+2ub+u^2c,\ b+uc,\ c)
\end{array}\right.
\end{displaymath}

が,任意の $\alpha,\ t,\ u$に対して$f(a,\ b,\ c)$と一致する, ということです.

南海  これらの変換は$a,\ b,\ c$の1次式で定まるので, 単項式$a^ib^jc^k$の次数$i+j+k$を変えない. だから$f(a,\ b,\ c)$がこれらの変換で不変なら, その同次数の項を集めた部分が不変である. だからはじめから$f(a,\ b,\ c)$は3変数の同次式であるとしてよい.

$f(\alpha^2a,\ b,\ \alpha^{-2}c)$は 単項式$a^ib^jc^k$を単項式 $\alpha^{2(i-k)}a^ib^jc^k$ に変える. $f(\alpha^2a,\ b,\ \alpha^{-2}c)$$a,\ b,\ c$ の整式として恒等的に$f(a,\ b,\ c)$と等しいのなら, 各単項式の係数が一致しなければならない. したがって $\alpha^{2(i-k)}=1$. つまり$i=k$である. よってこの変換 $f(\alpha^2a,\ b,\ \alpha^{-2}c)$で不変な同次式は, $a^ib^jc^i$という形をした次数の等しい単項類からなることが必要である. つまり,不変式は$a$$c$で対称である.

したがって 群$T$$U_+$で不変なら,必然的に$U_-$でも不変である. もちろん 群$T$$U_-$で不変なら,必然的に$U_+$でも不変である. といってもよい.

耕介  少しずつわかってきました. $f(a,\ b,\ c)$$SL(2)$のこの作用で不変であるためには 変数$a$$c$は必ず$ac$という形で入っていなければならない. だから$U_+$$U_-$で不変であればよい.

ところで, $f(a,\ ta+b,\ t^2a+2tb+c)$が 任意の$t$$f(a,\ b,\ c)$に等しいということは, $f(a,\ ta+b,\ t^2a+2tb+c)$$t$で微分した 導関数が0,つまり文字係数$a,\ b,\ c$をもつ$t$の整式として

\begin{displaymath}
\dfrac{d}{dt}f(a,\ ta+b,\ t^2a+2tb+c)=0
\end{displaymath}

ということではありませんか.

南海  いいところに気がついた.

耕介  この微分は合成関数の微分ですが, 変数が3個あるので難しいです.

南海  $a,\ b,\ c$3変数の関数$f(a,\ b,\ c)$を その中の$a$について微分することを $\dfrac{\partial}{\partial a}$と書く.

\begin{displaymath}
\dfrac{\partial}{\partial a}f(a,\ b,\ c)=f_a(a,\ b,\ c)
\end{displaymath}

とおこう.

耕介  $f(a,\ ta+b,\ t^2a+2tb+c)$の項

\begin{displaymath}
a^i(ta+b)^j(t^2a+2tb+c)^i
\end{displaymath}

$t$で微分すると

\begin{eqnarray*}
&&\dfrac{d}{dt}a^i(ta+b)^j(t^2a+2tb+c)^i\\
&=&
a^i\cdot aj(ta...
...j-1}(t^2a+2tb+c)^i+
a^i(ta+b)^j\cdot (2ta+2b)i(t^2a+2tb+c)^{i-1}
\end{eqnarray*}

となります.ですから
    $\displaystyle \dfrac{d}{dt}f(a,\ ta+b,\ t^2a+2tb+c)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle af_b(a,\ ta+b,\ t^2a+2tb+c)+2(ta+b)f_c(a,\ ta+b,\ t^2a+2tb+c)$ (7)

となります.これがつねに0になるのですね. この式をよく見ると,

\begin{displaymath}
af_b(a,\ b,\ c)+2bf_c(a,\ b,\ c)
\end{displaymath}

$a,\ b,\ c$に, $\left(
\begin{array}{ccc}
1&0&0\\
t&1&0\\
t^2&2t&1
\end{array}\right)$によって変換した $a,\ ta+b,\ t^2a+2tb+c$を 代入したものに他なりません.

南海  任意の$t$で0になるのだから$t=0$でも0になることが必要. これから恒等的に

\begin{displaymath}
af_b(a,\ b,\ c)+2bf_c(a,\ b,\ c)
=\left(a\dfrac{\partial}{\partial b}
+2b\dfrac{\partial}{\partial c}\right)f(a,\ b,\ c)
=0
\end{displaymath} (8)

が必要. 一方,これは$a,\ b,\ c$の恒等式でもあるので, $a,\ b,\ c$ $a,\ ta+b,\ t^2a+2tb+c$を代入しても0. よって,(7)が成立. つまり(8)の成立は十分条件でもある. 以上を整理して次の定理が示された.

定理 6
3変数の整式$f(a,\ b,\ c)$が不変式であるためには,
(i)
各単項式の$a$$c$の次数が等しい.
(ii)
$\left(a\dfrac{\partial}{\partial b}
+2b\dfrac{\partial}{\partial c}\right)f(a,\ b,\ c)=0$
が必要十分条件である.

注意     先に注意したように$a$$c$について対称なので次の条件でもよい.

(i)
各単項式の$a$$c$の次数が等しい.
(iii)
$\left(2b\dfrac{\partial}{\partial a}
+c\dfrac{\partial}{\partial b}\right)f(a,\ b,\ c)=0$

かっこ内の微分の組合せは, 3変数の関数に作用するので微分作用素という. これらの微分作用素を次のように置く.

\begin{eqnarray*}
&&D=a\dfrac{\partial}{\partial b}
+2b\dfrac{\partial}{\partial...
...ta=2b\dfrac{\partial}{\partial a}
+c\dfrac{\partial}{\partial b}
\end{eqnarray*}

耕介  これは何にせよ, $a,\ b,\ c$3変数の整式を同じ3変数の整式に写します. つまり$K[a,\ b,\ c]$の要素を同じ$K[a,\ b,\ c]$に写します.

南海  さらに2つの整式 $f,\ g\in K[a,\ b,\ c]$, および数定数$p,\ q\in K$に対して

\begin{eqnarray*}
D(p f+q g)=p (Df)+q (Dg)\\
\Delta(p f+q g)=p (\Delta f)+q (\Delta g)
\end{eqnarray*}

が成り立つ.

耕介  ベクトル空間の線型写像のようです.

南海  まさにそうだ.


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