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対称式と基本対称式

耕介  行列が変数に何らかの変換をする. しかし,それでも変化しない整式を不変式というのですね. そうすると,置きかえで変わらない対称式も不変式ですか. あっ,置きかえも行列で表せましたっけ.

南海  いいところに気づいた. 不変式の観点から対称式を考えよう. 対称式とはどんなものであったか.

耕介  2変数の場合は $f(x,y)=x^2y+3xy+xy^2$のように, $x$$y$ を入れ替えても式が同一になるものです. この場合$f(x,y)$$x$$y$対称式という.とくに

\begin{displaymath}
x+y,\ xy
\end{displaymath}

基本対称式という. なぜ「基本」というのか.それは2変数の対称式はすべて $x+y,\ xy$ を用いて書き表すことができるからです.

2変数の基本対称式は,2次方程式の解と係数の関係に現れます. つまり, 2次方程式 $ax^2+bx+c=0$ の解を $\alpha,\ \beta$ とするとき,

\begin{displaymath}
\alpha+\beta=-\dfrac{b}{a},\ \alpha \beta=\dfrac{c}{a}
\end{displaymath}

3変数の場合は, $f(x,y,z)$の整式で $x,y,z$ をどのように入れ替えても式がかわらないものを対称式という. 3変数の基本対称式は,

\begin{displaymath}
x+y+z,\ xy+yz+zx,\ xyz
\end{displaymath}

です.

南海  さて,一般に$n$個の文字変数の対称式を定義しよう.

$x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n$の 単項式で各文字に関する次数の和をその単項式の次数という. 単項式の次数の最大値を,その整式の次数という.

$f(x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n)$ $x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n$の対称式であるとは 文字変数 $x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n$のどのような置きかえに対しても, 整式が不変であることをいう. 文字の置きかえはいくつあるか.

耕介  $x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n$の並べ替えだけあります. つまり$n!$個です.

南海  これらの置きかえも,$GL(n)$の要素で表せる.

$n=3$のとき,

\begin{displaymath}
\left(
\begin{array}{ccc}
x_1&x_2&x_3\\
x_2&x_3&x_1
\end{array}\right)
\end{displaymath}

のような置きかえはどのような行列に対応するか.

耕介 

\begin{displaymath}
\left(
\begin{array}{c}
x_2\\ x_3\\ x_1
\end{array}\right...
...
\left(
\begin{array}{c}
x_1\\ x_2\\ x_3
\end{array}\right)
\end{displaymath}

ですから,行列 $\sigma=\left(
\begin{array}{ccc}
0&1&0\\
0&0&1\\
1&0&0
\end{array}\right)$が対応します.

$n$変数でも,変数の置換は 各行各列の一カ所ずつのみが1で後は0の$n$次行列で表せる. それが$n!$個ある.

南海  つまり,$n$個の文字の置きかえは, 要素の個数が$n!$個の$GL(n)$の部分群になる. 普通これを$S_n$等と表し,$n$次対称群という.

耕介  そうか. 対称式とは対称群$S_n$に関する不変式なのですね.




 


 

南海  この証明は,$n$次方程式には$n$個の根が存在するという, 代数学の基本定理を用いた. 基本定理を用いないで,計算だけで示すこともできる. また考えてみておいてほしい.

この定理の系として,次のことが示される. なお, というのは, 定理からただちに本質的な証明を経ずに得られる結果をいう.

系 1
$f(x)$$n$次式としその判別式を$D$とする. $D$$f(x)$の係数 $a_0,\ a_1,\ \cdots,\ a_n$を文字変数とする $2(n-1)$次の既約な整式である.

証明

\begin{displaymath}
D=a_0^{2(n-1)}\prod_{1\le i<j \le n}(\alpha_i-\alpha_j)^2
\end{displaymath}

において, $\displaystyle \prod_{1\le i<j \le n}(\alpha_i-\alpha_j)^2$は 明らかに $\alpha_i\ (i=1,\ 2,\ \cdots,\ n)$の対称式である. したがってこれらの基本対称式で表される. また一つの$\alpha_1$に関しては$2(n-1)$次である.

\begin{eqnarray*}
f(x)&=&a_0x^n+a_1x^{n-1}+\cdots +a_n\\
&=&a_0(x-\alpha_1)(x-\alpha_2)\cdots(x-\alpha_n)
\end{eqnarray*}

なので,根と係数の関係から

\begin{eqnarray*}
\alpha_1+\alpha_2+\cdots+\alpha_n&=&-\dfrac{a_1}{a_0}\\
\alph...
...cdots\\
\alpha_1\alpha_2\cdots\alpha_n&=&(-1)^n\dfrac{a_n}{a_0}
\end{eqnarray*}

定理2によって, $\displaystyle \prod_{1\le i<j \le n}(\alpha_i-\alpha_j)^2$ $\dfrac{a_1}{a_0},\ \dfrac{a_2}{a_0},\ \cdots,\ \dfrac{a_n}{a_0}$$2(n-1)$次式で表され, $D$は係数 $a_0,\ a_1,\ \cdots,\ a_n$$2(n-1)$次の整式である.

$D$が係数 $a_0,\ a_1,\ \cdots,\ a_n$の整式として $D=D_1D_2$と因数分解されたとする. ところが,$D_1$$D_2$ $a_0,\ a_1,\ \cdots,\ a_n$の整式ということは, $\alpha_1,\ \cdots,\ \alpha_n$の対称式ということである. $D=D_1D_2$$\alpha_1$の整式と見れば$\alpha_1$$\alpha_2$を代入すれば0になるので, このとき,$D_1$$D_2$のいずれかが0である. $D_1=0,\ D_2\ne 0$とすれば$D_1$ $\alpha_1-\alpha_2$を因数にもち, $D_2$はもたない. $D_1=0,\ D_2=0$とすれば $D_1,\ D_2$ $\alpha_1-\alpha_2$を因数にもつ.

対称性から第一の場合は,$D_1$ $(\alpha_i-\alpha_j)$ と因数をすべてもち$D_2$が定数である. つまり$D_2$$a_0$のべきであるが, これは$D$$a_0$を因数にもつことを示している. ところが$D_1$ $\prod_{1\le i<j \le n}(\alpha_i-\alpha_j)^2$ の定数倍で, これは $\dfrac{a_1}{a_0},\ \dfrac{a_2}{a_0},\ \cdots,\ \dfrac{a_n}{a_0}$$2(n-1)$次式であるから, $D$ $a_0,\ a_1,\ \cdots,\ a_n$の整式として$a_0$を因数にもつことはあり得ない.

第二の場合は$D_1,\ D_2$がともに $\displaystyle \prod_{1\le i<j \le n}(\alpha_i-\alpha_j)$ を因数にもつが,これは$\alpha_i$の対称式ではない. □

演習 2 (95上智大)   解答2
$f(x,y)$ を2変数 $x,\ y$ に関する実数を係数にもつ多項式とする. $s=x+y,\ t=xy,\ u=x-y,\ v=x^2$ とおく. このとき, 以下の問いに答えよ.
    1. $f(x,\ y)=x^2+xy+y^2$ のとき $f(x,y)$$s$$u$ を用いて表せ.
    2. 一般に$f(x,y)$$s$$u$ との多項式で表されることを示せ.
    3. 恒等的に $f(x,\ y)=f(-x,\ y)$ が成り立つならば $f(x,y)$$y$$v$ との多項式であることを示せ.
    4. 恒等的に $f(x,\ y)=f(y,\ x)$ が成り立つならば $f(x,y)$$s$$t$ との多項式であることを示せ.
    1. 恒等的に $f(x,\ y)=f(x+y,\ x-y)$ が成り立つならば $f(x,\ y)=f(2x,\ 2y)$ が成り立つことを示せ.
    2. 上の性質をもつ多項式はどのようなものか.


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