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円環の諸定理

南海  それでは最初に掲げた定理を証明していこう.

定理 6
     交わらない二円$O_1$$O_2$があり半径は$R$$r$で, $O_2$$O_1$の内部にある. $O_1$に内接し$O_2$に外接し,互いに外接する$n$個の円 $C_1,\ \cdots,\ C_n$ よりなるシュタイナーの円環が構成できたとする.
1)
最初の円$C_1$をどこにとっても順に外接させて円を描いてゆくと$C_n$$C_1$に外接する.
2)
二円$O_1$$O_2$の中心間の距離を$d$とする.

\begin{displaymath}
d^2=(R-r)^2-4Rr\tan^2\dfrac{\pi}{n}
\end{displaymath}

が成り立つ. ■

証明
1)    図のように$O_1$$O_2$の焦点$\mathrm{F}$をとり, $\mathrm{F}$を中心とする反転をおこなう. 定理5によって,Iの状態からIIの状態に反転される.

同心円の間に$n$個の円が互いに外接してはさまれるときは, 半径だけが問題で,$n$個の円環が一つできればどこからはじめても$n$個で円環ができる. 最初$O_1$$O_2$の間に$C_1$をかく. その反転${C_1}'$からはじめて同心円の方で$n$個の円環をつくる. これを反転の逆をおこないもとに戻せば$C_1$からはじまる円環ができている.



2)    $O_1$$O_2$を反転した円の半径を$R',\ r'$とする. この場合${C_1}'$等の半径は $\dfrac{R'-r'}{2}$で, ${C_1}'$${C_2}'$の中心 ${\mathrm{C}_1}'$ ${\mathrm{C}_2}'$${O_1}'$の中心 ${\mathrm{O}_1}'$となす角が $\dfrac{2\pi}{n}$${O_1}'$の中心 ${\mathrm{O}_1}'$${C_1}'$${C_2}'$の接点$\mathrm{A}$${C_1}'$の中心 ${\mathrm{C}_1}'$が作る直角三角形の辺長を考えることにより

\begin{displaymath}
\tan^2\dfrac{\pi}{n}=\dfrac{\left(\dfrac{R'-r'}{2} \right)^...
...^2-\left(\dfrac{R'-r'}{2} \right)^2}=\dfrac{(R'-r')^2}{4R'r'}
\end{displaymath}
ところがこの場合,中心間の距離は0なので,定理4の記号を用いると

\begin{displaymath}
D({O_1}',\ {O_2}')=\dfrac{0^2-(R'-r')^2}{4R'r'}=-\tan^2\dfrac{\pi}{n}
\end{displaymath}

である.一方,定理4によって $D({O_1}',\ {O_2}')=
D(O_1,\ O_2)$であるから

\begin{displaymath}
\tan^2\dfrac{\pi}{n}=-D(O_1,\ O_2)=\dfrac{-d^2+(R-r)^2}{4Rr}
\end{displaymath}

これから所期の等式を得る. □


太郎  これを用いて冒頭の和算の問題を解いてみます. 丁円の半径を$r$,丙円の半径を$s$とする. まず対称性から甲,丁,丙各円の中心は一直線上にある.

\begin{displaymath}
5+2r+2s=20
\end{displaymath}

である.外円と丁円の中心間の距離$d$

\begin{displaymath}
d=10-(5+r)=5-r
\end{displaymath}

なので,$n=4$で定理6を用いると

\begin{displaymath}
\dfrac{-(5-r)^2+(10-r)^2}{4\cdot 10r}=\tan^2\dfrac{\pi}{4}=1
\end{displaymath}

これから $r=\dfrac{3}{2}$. よって丙円の径$2s$

\begin{displaymath}
2s=20-(5+3)=12\ (寸)
\end{displaymath}

です.

南海  文献『日本の幾何』には多くの問題が載っている. シュタイナーの円環に関するその他の定理を紹介しよう.

定理 7
     偶数個の円がシュタイナーの円環をなしているとき, 向かい合っている円環の円の半径の逆数の和は一定である. ■

証明      まず状況を確定する. 円$O_1$が円$O_2$を含んで定まり,半径が$R$$r$とする. そして円 $C_1,\ C_2,\ \cdots,\ C_{2n}$ が円環をなしている.

     点$\mathrm{O}$を中心とする半径$\rho$の反転で 円$O_1$$O_2$が同心円${O_1}'$${O_2}'$になりその半径が$R',\ r'$とする. ${C_i}',\ i=1,\ 2,\ \cdots,\ 2n$の半径はすべて等しいのでこれを${r_0}'$とする.

\begin{displaymath}
R'-r'=2{r_0}'
\end{displaymath}

である. そして,このとき${C_1}'$${C_{n+1}}'$の中心 ${\mathrm{C}_1}'$ ${\mathrm{C}_{n+1}}'$ および${O_1}'$${O_2}'$の中心 ${\mathrm{O}_1}'$は同じ直線上にある.

    定理2の5)より

\begin{displaymath}
\dfrac{r_1}{{r_0}'}=\dfrac{\rho^2}{\mathrm{O{C_1}'}^2-{r_0'...
...n+1}}{{r_0}'}=\dfrac{\rho^2}{\mathrm{O{C_{n+1}}'}^2-{r_0'}^2}
\end{displaymath}

よって中線定理を用いると

\begin{eqnarray*}
\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_{n+1}}&=&
\dfrac{1}{{r_0}'\rho^2}...
...
\dfrac{4}{(R'-r')\rho^2}\left(\mathrm{O{O_1}'}^2+r'R' \right)
\end{eqnarray*}

一方,定理2の5)を $R,\ r,\ R',\ r'$に用いて

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{r}-\dfrac{1}{R}=
\dfrac{\mathrm{O{O_1}'}^2-{r'}^...
...rho^2}
=\dfrac{(R'-r')(\mathrm{O{O_1}'}^2+r'R')}{r'R'\rho^2}
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
∴\quad \dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_{n+1}}=
\dfrac{4r'R'\left(\dfrac{1}{r}-\dfrac{1}{R} \right)}{(R'-r')^2}
\quad (一定)
\end{displaymath}

となる. □

南海  定理6より$O_1,\ O_2$の中心間の距離を$d$とすれば

\begin{displaymath}
\dfrac{(R-r)^2-d^2}{rR}=
\dfrac{(R'-r')^2}{r'R'}
\end{displaymath}

これから

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_{n+1}}=\dfrac{4(R-r)}{(R-r)^2-d^2}
\end{displaymath}

となる.

これは1826年に池田貞一が示した定理である(文献『幾何学』による). 特に$n=4$のときは

\begin{displaymath}
\dfrac{(R-r)^2-d^2}{rR}=4
\end{displaymath}

なので

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_3}=
\dfrac{1}{r_2}+\dfrac{1}{r_4}=\dfrac{1}{r}-\dfrac{1}{R}
\end{displaymath}

である.


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