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空間での反転

太郎  ここで用いた反転は,点$\mathrm{P}$に対し, 半直線$\mathrm{OP}$上の点$\mathrm{P}'$

\begin{displaymath}
\mathrm{OP}\cdot\mathrm{OP}'=\rho^2
\end{displaymath}

となるものを対応させる変換でした. この定義は空間の点の対応にも用いることができませんか.

南海  それはいいところに気がついた. 反転は平面だけではなく,一般の$n$次元ユークリッド空間で定義される. そしてそれを用いて一般の空間で互いに接する球の諸性質を示すことができる.

ここでは三次元空間における反転をまとめ,その図形問題への応用を考えよう. そのために,平面の反転と根軸の部分を三次元に直してゆかなければならない.

太郎  空間の点$\mathrm{O}$を中心とする半径 $\rho\ (\rho>0)$の球がある. $\mathrm{O}$から半直線上に二点 $\mathrm{P},\ \mathrm{P}'$をとる.

\begin{displaymath}
\mathrm{OP}\cdot\mathrm{OP}'=\rho^2
\end{displaymath}

となるとき, $\mathrm{P},\ \mathrm{P}'$をこの球に関して互いに反転という. この球を反転の定球,$\mathrm{O}$を反転の中心, $\rho$を反転の半径という. 点$\mathrm{P}$がある図形を描くとき, それに対応して$\mathrm{P}'$もある図形を描く. それらの図形も互いに反転であるという.


\begin{displaymath}
X=空間-\{\mathrm{O}\}
\end{displaymath}

とすると,$X$から$X$への一対一写像である.

定理 8
     空間の球または平面$S$$\mathrm{O}$を中心とする反転で曲面$S'$になるとする. $S$の位置関係で$S'$は次のようになる.

\begin{displaymath}
\begin{array}{\vert l\vert l\vert}
\hline
\quad \quad ...
...amp;オ藹\
\mathrm{O}、鯆未詈震amp;平面\\
\hline
\end{array}
\end{displaymath}

証明      $S$の方程式を

\begin{displaymath}
a(x^2+y^2+z^2)+2px+2qy+2rz+b=0
\end{displaymath}

とおく.$a$が0かどうかで球になるか平面になるかが決まる. $b$が0かどうかで原点を通るかどうかが決まる.

反転の中心を原点におき,反転の定円の半径を$\rho$とする. 点 $\mathrm{P}(x,\ y,\ z)$と 点 $\mathrm{P}'(X,\ Y,\ Z)$がこの円に関して反転であるとする. すると

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OP}}=k
\overrightarrow{\mathrm{OP}'}
\ (k>0)
\end{displaymath}

とおくことができる.条件から

\begin{displaymath}
\left\vert\overrightarrow{\mathrm{OP}} \right\vert
\left\v...
...
k\left\vert\overrightarrow{\mathrm{OP}} \right\vert^2=\rho^2
\end{displaymath}

よって $k=\dfrac{\rho^2}{\left\vert\overrightarrow{\mathrm{OP}} \right\vert^2}$. これから

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OP}}
=\dfrac{\rho^2}{\left\vert\ov...
...ow{\mathrm{OP}} \right\vert^2}
\overrightarrow{\mathrm{OP}'}
\end{displaymath}

を得る. また も成り立つ. 点$\mathrm{P}$の方程式を, 定数$a,\ b$と定ベクトル $\overrightarrow{n}=(p,\ q,\ r)$を用いて

\begin{displaymath}
a\left\vert\overrightarrow{\mathrm{OP}}\right\vert^2+
2\overrightarrow{n}\cdot\overrightarrow{\mathrm{OP}}+b=0
\end{displaymath}

とおく.


$\left\vert\overrightarrow{\mathrm{OP}'} \right\vert^2\ne 0$なので


この方程式から次のことがわかる.
1)
$a\ne 0$で球の場合.
(i)
球が原点を通らないときは$b\ne 0$なので $\mathrm{P}'$の軌跡は球である. ただし $\overrightarrow{\mathrm{OP}'}=\overrightarrow{0}$を除く. この場合もとの球の中心$\mathrm{C}$ $-\dfrac{1}{a}\overrightarrow{n}$にあり, 反転した球の中心$\mathrm{C}'$ $-\dfrac{\rho^2}{b}\overrightarrow{n}$ にあるので, $\mathrm{O},\ \mathrm{C},\ \mathrm{C}'$ が同一直線上にあることも分かる.
(ii)
球が原点を通る場合は$b=0$なので方程式が1次式となり $\mathrm{P}'$の軌跡は平面である.
2)
$a=0$で平面の場合.
(i)
平面が原点を通らないときは$b\ne 0$なので $\mathrm{P}'$の軌跡は球である. ただし $\overrightarrow{\mathrm{OP}'}=\overrightarrow{0}$を除く.
(ii)
平面が原点を通る場合は$b=0$なので方程式が1次式となり $\mathrm{P}'$の軌跡は平面である.この場合同一の平面になる. □

南海  平面の場合の根軸に対応することも, 空間の場合に確認しておかなければならない.

太郎  二球$S_1,\ S_2$の方程式を $f(x,\ y,\ z)=0,\ g(x,\ y,\ z)=0$とする. ただし,$x^2$の係数は1にとっておく.このとき, 方程式

\begin{displaymath}
f(x,\ y,\ z)+(-1)g(x,\ y,\ z)=0
\end{displaymath}

は一次式となる.

南海  この一次式で定まる平面を二球$S_1,\ S_2$の根面という. 図形的な意味は,根面上の点$\mathrm{P}$から $S_1,\ S_2$に接線が引けるとき,接点を 接点 $\mathrm{T},\ \mathrm{T}'$とすれば

\begin{displaymath}
\mathrm{PT}=\mathrm{PT}'
\end{displaymath}

が成り立つ.$S_1$$S_2$が交わっていれば,根面は二球の共通平面である. この証明も平面の場合にさらに$z$座標を加えることでまったく同様に示せる.

太郎  また,二球$S_1$$S_2$の根面上に中心をもつ球$S$をとる. 球$S,\ S_1,\ S_2$の 中心が $\mathrm{A},\ \mathrm{A}_1,\ \mathrm{A}_2$, 半径が$r,\ r_1,\ r_2$であるとする. $\mathrm{A}(X,\ Y,\ Z)$とすると, $f(X,\ Y,\ Z)=g(X,\ Y,\ Z)$

\begin{displaymath}
\mathrm{AA_1}^2-{r_1}^2=
\mathrm{AA_2}^2-{r_2}^2
\end{displaymath}

を意味するが,$\mathrm{A}$から$S_1,\ S_2$に接線 $\mathrm{AT_1},\ \mathrm{AT}_2$をひくと

\begin{displaymath}
\mathrm{AA_1}^2-{r_1}^2=\mathrm{AT_1}^2=r^2,\ \quad
\mathrm{AA_2}^2-{r_2}^2=\mathrm{AT_2}^2=r^2
\end{displaymath}

が成り立つ. このとき,$S$$S_1$$S$$S_2$は それぞれ共有点における接平面が直交している, つまりそれぞれの接平面からとった二つのベクトルがつねに直交している.

南海  二球$S,\ S'$が共有点をもたないとする. この二球の根面と二球$S,\ S'$の中心を結ぶ直線$l$との交点を$\mathrm{K}$とする. $\mathrm{K}$から $S,\ S'$への接線の長さ $\mathrm{KT}=\mathrm{KT}'$に対して $l$上の点で

\begin{displaymath}
\mathrm{KT}=\mathrm{KF}
\end{displaymath}

となる点は二点ある.これら $\mathrm{F},\ \mathrm{F}'$を 2球$S,\ S'$焦点という.

以上の概念を準備すると平面の場合の諸定理が, 空間の反転と球の関連としてほぼそのまま成り立つ. すなわち,これまでに平面の反転をもとに示した次の諸定理は, 円を球になおしたうえで, 反転の中心と球の中心を含む平面を考えることで, 半径や中心間の距離の間の諸定理はすべて成立する. 共有点でのなす角のみは,一意ではないのでこのままでは意味をもたない. よって,

反転の基本性質を示す定理2は4)を除き成立. ただし直交する二球,直線と球の直交という直交性は, 三次元の反転においても保たれる.
複比の定理3
反転に関する不変量の定理4
はすべて成立する. また,
定理5は,円を球になおした命題「 互いに交わらない二球は,二球の焦点$\mathrm{F}$を中心とする反転で 同心球にうつる.」で成立する.


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