次: ミンコフスキーの不等式と三角不等式
上: 凸関数と不等式
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南海
さて,この凸関数の方等式を用いて,よく知られている絶対不等式を証明していこう.
絶対不等式といわれる不等式にはどんなものがあったか.
拓生
相加相乗平均の不等式,コーシー・シュワルツの不等式,三角不等式です.これらは別個に習いました.
コーシー・シュワルツの不等式,三角不等式も凸関数の不等式から出るのですか.
南海
この二つをある程度一般化し,イェンセンの不等式、から順次導こう.
まず,コーシー・シュワルツの不等式とは.
拓生
\[
(a_1b_1+a_2b_2+\cdots+a_nb_n)^2
\leqq
({a_1}^2+{a_2}^2+\cdots+{a_n}^2)
({b_1}^2+{b_2}^2+\cdots+{b_n}^2)
\]
等号成立は
\[
a_1:b_1=a_2:b_2=\cdots=a_n:b_n
\]
のときです.
南海
両辺の平方をとると?
拓生
\[
|a_1b_1+a_2b_2+\cdots+a_nb_n|
\leqq
({a_1}^2+{a_2}^2+\cdots+{a_n}^2)^{\frac{1}{2}}
({b_1}^2+{b_2}^2+\cdots+{b_n}^2)^{\frac{1}{2}}
\]
です.ベクトルを $
\overrightarrow{a}=(\cdots,\ a_i,\ \cdots),\
\overrightarrow{b}=(\cdots,\ b_i,\ \cdots) $ とすると
\[
|\overrightarrow{a}\cdot \overrightarrow{b}|
\leqq \left| \overrightarrow{a}\right|\left|\overrightarrow{b}\right|
\]
等号成立は $ \overrightarrow{a}\parallel\overrightarrow{b} $
のとき,といいかえることができます.
南海
これが次のように一般化される.
絶対値の問題を後で解決する.まず負でない実数で考える.以下, $ n\geqq 2 $ とする.
系(ヘルダーの不等式)
$ n $ を自然数とし, $ a_i,\ b_i\ (i=1,\ 2,\ \cdots,\ n) $ を負でない実数とする.
$ p $ と $ q $ は $ \dfrac{1}{p}+\dfrac{1}{q}=1 $ を満たす正の実数とする.このとき
\[
a_1b_1+a_2b_2+\cdots+a_nb_n
\leqq
({a_1}^p+{a_2}^p+\cdots+{a_n}^p)^{\frac{1}{p}}
({b_1}^q+{b_2}^q+\cdots+{b_n}^q)^{\frac{1}{q}}
\]
が成立する.等号成立は $ a_i:b_i $ がすべて等しいときである.
これをヘルダーの不等式という.■
証明
\[
A=\sum_{i=1}^n{a_i}^p,\ \quad B=\sum_{i=1}^n{b_i}^q
\]
とおく. $ A=0 $ は $ a_i=0\ (i=1,\ 2,\ \cdots,\ n) $ を意味するので,
定理の等式の両辺は0で成立する. $ B=0 $ のときも同様.
以下 $ A> 0,\ B> 0 $ とする.
関数 $ f(x)=\log x $ は $ f''(x)=-x^{-2} < 0 $ であるから上に凸.
$ \dfrac{1}{p}+\dfrac{1}{q}=1 $ なので正の $ x $ と $ y $ に関して
\[
\dfrac{1}{p}\log x+\dfrac{1}{q}\log y \leqq \log\left(\dfrac{1}{p}x+\dfrac{1}{q}y \right)
\]
これから
\[
x^{\frac{1}{p}}y^{\frac{1}{q}}\leqq \dfrac{1}{p}x+\dfrac{1}{q}y
\]
この不等式は $ x=0 $ または $ y=0 $ でも成立する.
この不等式自体はヤングの不等式といわれる.
ここに
\[
x=\dfrac{{a_i}^p}{A},\
y=\dfrac{{b_i}^q}{B}
\]
を代入し $ i=1,\ 2,\ \cdots,\ n $ について加える.
\[
\sum_{i=1}^n\left(\dfrac{{a_i}^p}{A} \right)^{\frac{1}{p}}\left(\dfrac{{b_i}^q}{B} \right)^{\frac{1}{q}}\leqq\sum_{i=1}^n\left(\dfrac{{a_i}^p}{pA}+\dfrac{{b_i}^q}{qB}\right)
\]
両辺整理すると
\[
\dfrac{1}{A^{\frac{1}{p}}B^{\frac{1}{q}}}\sum_{i=1}^na_ib_i\leqq
\dfrac{1}{pA}\sum_{i=1}^n{a_i}^p+
\dfrac{1}{qB}\sum_{i=1}^n{b_i}^q=\dfrac{1}{p}+\dfrac{1}{q}=1
\]
これから
\[
\sum_{i=1}^na_ib_i\leqq A^{\frac{1}{p}}B^{\frac{1}{q}}
\]
となる.
等号成立は
$ \dfrac{{a_i}^p}{A}=\dfrac{{b_i}^q}{B} $ がすべての $ i $ で成り立つときである.
このとき
$ {a_i}^p:{b_i}^q=B:A $ で $ i $ によらず一定で, $ a_i,\ b_i\geqq 0 $ なので,
$ {a_i}^p:{b_i}^q $ が $ i $ によらず一定.逆にこのときは
$ \dfrac{{a_i}^p}{A}=\dfrac{{b_i}^q}{B} $ がすべての $ i $ で成り立つ.
以上で定理が示された.□
拓生
コーシー・シュワルツの不等式は $ p=q=2 $ のときなのですね.
でもコーシー・シュワルツの不等式は負の数でもよかった.
南海
一般の $p$ では負数があるとべきが定義されないときがあるので,
非負としている.$p=q=2$ なら,負でもよい.
$ a_i $ や $ b_i $ に負なものがあるときは
\begin{eqnarray*}
&&(a_1b_1+a_2b_2+\cdots+a_nb_n)^2
=|a_1b_1+a_2b_2+\cdots+a_nb_n|^2\\
&\leqq&
(|a_1b_1|+|a_2b_2|+\cdots+|a_nb_n|)^2\\
&\leqq&
({a_1}^2+{a_2}^2+\cdots+{a_n}^2)
({b_1}^2+{b_2}^2+\cdots+{b_n}^2)
\end{eqnarray*}
とすればよい.
そのうえで等号成立は,${a_i}^2:{b_i}^2$が$i$によらず一定,かつ
$a_ib_i$ がすべて同符号のときである.
ヘルダーの不等式は $ a_i,\ b_i $ の2系列でなくてもよい.
3系列のとき.
$ p,\ q,\ r $ は $ \dfrac{1}{p}+\dfrac{1}{q}+\dfrac{1}{r}=1 $ を満たす正の次数とする.このとき
\begin{eqnarray*}
&&a_1b_1c_1+a_2b_2c_2+\cdots+a_nb_nc_n\\
&\leqq&
({a_1}^p+{a_2}^p+\cdots+{a_n}^p)^{\frac{1}{p}}
({b_1}^q+{b_2}^q+\cdots+{b_n}^q)^{\frac{1}{q}}
({c_1}^r+{c_2}^r+\cdots+{c_n}^r)^{\frac{1}{r}}
\end{eqnarray*}
が成立する.これが $ m $ 系列になっても同じことである.
拓生
3系列のときは不等式
\[
x^{\frac{1}{p}}y^{\frac{1}{q}}z^{\frac{1}{r}}
\leqq \dfrac{1}{p}x+\dfrac{1}{q}y+\dfrac{1}{r}z
\]
に
\[
\dfrac{{a_i}^p}{{a_1}^p+{a_2}^p+\cdots+{a_n}^p},\
\dfrac{{b_i}^p}{{b_1}^q+{b_2}^p+\cdots+{b_n}^q},\
\dfrac{{c_i}^p}{{c_1}^r+{c_2}^p+\cdots+{c_n}^r}
\]
を代入して $ i $ について加えればできます.
$ p=q=r=3 $ とするとコーシー・シュワルツの不等式も
\begin{eqnarray*}
&&(a_1b_1c_1+a_2b_2c_2+\cdots+a_nb_nc_n)^3\\
&\leqq&
({a_1}^3+{a_2}^3+\cdots+{a_n}^3)
({b_1}^3+{b_2}^3+\cdots+{b_n}^3)
({c_1}^3+{c_2}^3+\cdots+{c_n}^3)
\end{eqnarray*}
で成立します.
学校ではベクトルの内積や二次関数の非負条件から導きます.
あの方法では3系列の場合はできません.
それが凸関数を応用すればできるのですね.
南海
3系列の場合は非負条件がいるが.
このように凸関数の不等式は,他の多くの絶対不等式を生みだす源泉だ.
ヘルダーの不等式はさらに広い応用があるが,
ここではそれを指摘するにとどめよう.
Aozora 2017-09-04