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ハミルトン・ケイレイの定理

南海  ハミルトン・ケイレイの定理は高校数学Cにも載っている.

耕一  $A=\matrix{a}{b}{c}{d}$のとき

\begin{displaymath}
A^2-(a+d)A+(ad-bc)E=O
\end{displaymath}

です. この式は固有方程式そのものです.

南海  いいところに気づいた.実は次の事実が成り立つ.

定理 6 (ハミルトン・ケイレイの定理)
$f$を線型写像とし,ある基底で$f$が行列$A$で表されたとする. $f$の固有多項式を$P_f(t)$とすると

\begin{displaymath}
P_f(A)=O
\end{displaymath}

証明

\begin{displaymath}
P_f(t)=a_nt^n+a_{n-1}t^{n-1}+\cdots+a_0
\end{displaymath}

とおく. また,行列$A-tE$の余因子行列を$B$とおく. $B$の各成分は$t$$n-1$次以下の多項式である. $B$の各成分の$t$$j$次の項の係数を成分とする行列を$B_j$とおくと

\begin{displaymath}
B=t^{n-1}B_{n-1}+t^{n-2}B_{n-2}+\cdots+B_0
\end{displaymath}

と書ける. 行列$A-tE$の余因子行列が$B$なので,第3節の等式 (1.2) より

\begin{displaymath}
(A-tE)B=P_f(t)E
\end{displaymath}

これから

\begin{eqnarray*}
&&(A-tE)(t^{n-1}B_{n-1}+t^{n-2}B_{n-2}+\cdots+B_0)\\
&=&a_nt^nE+a_{n-1}t^{n-1}E+\cdots+a_0E
\end{eqnarray*}

を得る.

\begin{eqnarray*}
&&(A-tE)(t^{n-1}B_{n-1}+t^{n-2}B_{n-2}+\cdots+B_0)\\
&=&-t^nB_{n-1}+t^{n-1}(AB_{n-1}-B_{n-2})+\cdots+t(AB_1-B_0)+AB_0
\end{eqnarray*}

なので,

\begin{eqnarray*}
&&-t^nB_{n-1}+t^{n-1}(AB_{n-1}-B_{n-2})+\cdots+t(AB_1-B_0)+AB_0\\
&=&a_nt^nE+a_{n-1}t^{n-1}E+\cdots+a_1tE+a_0E
\end{eqnarray*}

これが任意の$t$で成立するので,$t$の各次数の行列の各成分が両辺一致する.つまり,$t$の各次数の行列が一致する.

\begin{eqnarray*}
&&-B_{n-1}=a_nE\\
&&AB_{n-1}-B_{n-2}=a_{n-1}E\\
&&\cdots\\
&&AB_1-B_0=a_1E\\
&&AB_0=a_0E
\end{eqnarray*}

第1式の両辺に$A^n$を,第2式の両辺に$A^{n-1}$を左から乗じ,以下同様にすると. 右辺は数と$E$の積なので $A^ja_jE=a_jA^j$等が成り立つ.よって

\begin{eqnarray*}
&&-A^nB_{n-1}=a_nA^n\\
&&A^nB_{n-1}-A^{n-1}B_{n-2}=a_{n-1}A^{n-1}\\
&&\cdots\\
&&A^2B_1-AB_0=a_1A\\
&&AB_0=a_0E
\end{eqnarray*}

これをすべて加えると


を得る.□

耕一  2次行列のときに確認してみます. 前と同様に直交座標の$x$$y$軸方向の単位ベクトルを基底にして $f$ $A=\matrix{a}{b}{c}{d}$で表されるとします.

\begin{displaymath}
P_f(t)=\vert A-tE\vert=t^2-(a+d)t+(ad-bc)
\end{displaymath}

です.ここで行列$A-tE$

\begin{displaymath}
\matrix{a-t}{b}{c}{d-t}
\end{displaymath}

なので,その因子行列は

\begin{displaymath}
\matrix{d-t}{-b}{-c}{a-t}=\matrix{d}{-b}{-c}{a}-tE
\end{displaymath}

です. $B_0=\matrix{d}{-b}{-c}{a}$とします.

\begin{eqnarray*}
(A-tE)(B_0-tE)&=&
\matrix{a-t}{b}{c}{d-t}\matrix{d-t}{-b}{-c}{...
...{0}{0}{t^2-(a+d)t+(ad-bc)}\\
&=&\{t^2-(a+d)t+(ad-bc)\}E=P_f(t)E
\end{eqnarray*}

そうか. 要するに $\{t^2-(a+d)t+(ad-bc)\}E$ $(A-tE)(B_0-tE)$と因数分解されるのですね. $t$$A$を代入すると

\begin{displaymath}
A^2-(a+d)A+(ad-bc)E=O
\end{displaymath}

です. 教科書では単なる計算として書かれていますが, この余因子を作る方法の方が納得できます.

南海  一般の場合も積の順序の問題を明確にするため, いったん分けてから代入して加えたが, 因数分解できている行列の式に代入したことに変わりない.

演習 10       解答10

次の行列の最小多項式を求め, 各行列の8乗を計算せよ.

\begin{displaymath}
(1)\quad
A=\left(
\begin{array}{cc}
3&2\\
2&1
\end{...
...{array}{ccc}
3&3&3\\
-1&1&3\\
0&-1&-2
\end{array}\right)
\end{displaymath}



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