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三項間漸化式を解く

行列で解く

ではこれをもとに三項間漸化式を行列で求めよう.

三項間漸化式1に対し,連立二項間漸化式5を作る. 5の行列を $A=\matrix{p}{q}{1}{0}$ とする.

\begin{displaymath}
\vecarray{a_n}{b_n}=A^n\vecarray{a_0}{b_0}
\end{displaymath}

であるから,$A^n$ が求まればよい. 行列の $n$乗を求める方法はいろいろある.最も簡単で便利な方法を用いよう. $x$ を変数として $x^n$ $x^2-(a+d)x+(ad-bc)$ で割った余りを $u_nx+v_n$ とする.つまり

\begin{displaymath}
x^n=\{x^2-(a+d)x+(ad-bc)\}Q(x)+u_nx+v_n
\end{displaymath}

と表される.このとき$x$の所に $A$ を代入すれば

\begin{displaymath}
A^n=u_nA+v_nE
\end{displaymath}

となる. したがって

\begin{eqnarray*}
\vecarray{a_n}{b_n}&=&\{u_nA+v_nE\}\vecarray{a_0}{b_0}\\
&=&\...
...{q}}\\
∴ \quad a_n&=&(pu_n+v_n)a_0+u_n(a_1-pa_0)=u_na_1+v_na_0
\end{eqnarray*}

あとは $u_n,\ v_n$ を決めればよい.

$x^2-(a+d)x+(ad-bc)=0$ の2解を $\alpha,\ \beta$ とする.つまり

\begin{displaymath}
x^2-(a+d)x+(ad-bc)=(x-\alpha)(x-\beta)
\end{displaymath}

とする.

(1)      $\alpha\ne \beta$ のとき.


\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
\alpha^n=u_n\alpha+v_n\\
\beta^n=u_n\beta+v_n
\end{array}\right.
\end{displaymath}

より

\begin{displaymath}
u_n=\dfrac{\beta^n-\alpha^n}{\beta-\alpha},\
v_n=\dfrac{\alpha^n\beta-\alpha\beta^n}{\beta-\alpha}
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
∴ \quad a_n=\dfrac{\beta^n-\alpha^n}{\beta-\alpha}a_1
+\dfr...
...lpha^n\beta-\alpha\beta^n}{\beta-\alpha}a_0\quad\cdots\maru{6}
\end{displaymath}

(2)     $\alpha=\beta$ のとき.

\begin{displaymath}
x^2-px-q=(x-\alpha)^2
\end{displaymath}

であるから $p=2\alpha,\ q=-\alpha^2$ .よって

\begin{displaymath}
b_0=\dfrac{a_1-pa_0}{q}=\dfrac{a_1-2\alpha a_0}{-\alpha^2}
\end{displaymath}

であることに注意する.さて

\begin{displaymath}
x^n=(x-\alpha)^2Q(x)+u_nx+v_n
\end{displaymath}

の両辺を微分する.

\begin{displaymath}
nx^{n-1}=2(x-\alpha)Q(x)+(x-\alpha)^2Q'(x)+u_n
\end{displaymath}

それぞれに $x=\alpha$ を代入する.

\begin{displaymath}
u_n=n\alpha^{n-1},\ v_n=\alpha^n-(u_n\alpha)=(1-n)\alpha^n
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
∴ \quad a_n=n\alpha^{n-1}a_1+(1-n)\alpha^na_0\quad\cdots\maru{7}
\end{displaymath}

等比数列を作って解く

南海 これで三項間漸化式が解けたのだが,行列を使わない解法もまとめておこう.

拓生 はい.

三項間漸化式$\maru{1}$に対して,二次方程式

\begin{displaymath}
x^2-px-q=0
\end{displaymath}

をこの三項間漸化式の特性方程式という. 特性方程式の解を $\alpha,\ \beta$ とする.

\begin{displaymath}
p=\alpha+\beta,\ q=-\alpha\beta
\end{displaymath}

である.つまり三項間漸化式は

\begin{displaymath}
a_{n+2}-(\alpha+\beta)a_{n+1}+\alpha\beta a_n=0
\end{displaymath}

と表される.
  1. $\alpha\ne \beta$ のとき

    \begin{eqnarray*}
a_{n+2}-\alpha a_{n+1}&=&\beta(a_{n+1}-\alpha a_n)\\
a_{n+2}-\beta a_{n+1}&=&\alpha(a_{n+1}-\beta a_n)
\end{eqnarray*}

    と変形できる.ゆえに

    \begin{eqnarray*}
a_{n+1}-\alpha a_n&=&\beta^n(a_1-\alpha a_0)\\
a_{n+1}-\beta a_n&=&\alpha^n(a_1-\beta a_0)
\end{eqnarray*}

    この辺々を引けば

    \begin{displaymath}
(\beta-\alpha)a_n=\beta^n(a_1-\alpha a_0)-\alpha^n(a_1-\beta a_0)
\end{displaymath}

    これから

    \begin{displaymath}
a_n=\dfrac{\beta^n(a_1-\alpha a_0)-\alpha^n(a_1-\beta a_0)}{\beta-\alpha}
\end{displaymath}

    これはもちろん$\maru{6}$と同一の結果である.
  2. $\alpha=\beta\ (重解)$ のとき

    \begin{displaymath}
a_{n+1}-\alpha a_n=\alpha^n(a_1-\alpha a_0)
\end{displaymath}

    つまり

    \begin{displaymath}
\dfrac{a_{n+1}}{\alpha^{n+1}}-\dfrac{a_n}{\alpha^n}=\dfrac{1}{\alpha}a_1-a_0
\end{displaymath}

    したがって

    \begin{displaymath}
\dfrac{a_n}{\alpha^n}=a_0+n \left( \dfrac{1}{\alpha}a_1-a_0\right)
\end{displaymath}

    ゆえに

    \begin{displaymath}
a_n=n \alpha^{n-1}a_1+(1-n)\alpha^na_0
\end{displaymath}

三項間漸化式を満たす数列の集合

南海 上で求めた 数列 $\{a_n\}$ の一般項を少し違う立場で考えよう. 2数 $s,\ t$ と 二つの数列 $\{a_n \},\ \{b_n \}$ に対して数列 $\{ c_n \}$

\begin{displaymath}
c_n=s a_n+t b_n\ (n=0,\ 1,\ \cdots)
\end{displaymath}

で定めこれを $s\{a_n\}+t\{b_n\}$ と書く.つまり

\begin{displaymath}
s\{a_n\}+t\{b_n\}=\{s a_n+t b_n\}
\end{displaymath}

と定める. 数列 $\{a_n\}$ と 数列 $\{b_n\}$ がともに漸化式

\begin{displaymath}
x_{n+2}=px_{n+1}+qx_n
\end{displaymath}

を満たすとき $s\{a_n\}+t\{b_n\}$も同じ漸化式を満たす. 実際

\begin{eqnarray*}
&&(s a_{n+2}+t b_{n+2})-p(s a_{n+1}+t b_{n+1})-q(s a_n+t b_n)\\
&=&s(a_{n+2}-pa_{n+1}-qa_n)+t(b_{n+2}-pb_{n+1}-qb_n)=0
\end{eqnarray*}

だからである. そこで $p,\ q$ を実数の定数とし,一つの漸化式を満たす数列の集合を考える. ただし初期条件 $a_1,\ a_0$ の値は実数とする.

\begin{displaymath}
V=\{\{a_n\}\ \vert\ a_{n+2}=pa_{n+1}+qa_n ,\ a_1,\ a_0\in R \}\quad\cdots\maru{8}
\end{displaymath}

このとき $V$の要素 $\{a_n\}$に対して平面ベクトル $\overrightarrow{x}=(a_1,\ a_0)$ を 対応させることで $V$ は平面ベクトルの全体と一致する. $\{a_n\}$ $\overrightarrow{x}$に対応し$\{b_n\}$ $\overrightarrow{y}$に対応していれば $s\{a_n\}+t\{b_n\}$ $s\overrightarrow{x}+t\overrightarrow{y}$に対応する.

したがってこの対応で演算もそのまま対応する. ゆえに$V$ と平面ベクトルは同じものと見なすことができる. 平面ベクトルの集合を,実二次元ベクトル空間 $R^2$と書きあらわすと, $V$ は, ベクトル空間として $R^2$同型である. さて,任意の平面ベクトル $\overrightarrow{x}$は,平行でない二つのベクトル $\overrightarrow{a},\ \overrightarrow{b}$を用いて

\begin{displaymath}
\overrightarrow{x}=s\overrightarrow{a}+t\overrightarrow{b}
\end{displaymath}

と表され,しかもこの表し方は一通りであった.

とくに$xy$ 座標平面においては平行でない二つのベクトル $\overrightarrow{a},\ \overrightarrow{b}$のなかで $\overrightarrow{e}_1=(1,\ 0),\ \overrightarrow{e}_2=(0,\ 1)$を「基底ベクトル」と呼ぶ.

とすれば,8で定義された集合$V$ についても同じことが言える. $V$の任意の要素を二つの 数列 $\{a_n \},\ \{b_n \}$

\begin{displaymath}
s a_n+t b_n
\end{displaymath}

と表すためには,対応する $xy$ 平面のベクトルが平行でなければよい. そのような数列の組をいくつか求めよう.

  1. $\alpha\ne \beta$ のとき.

    二つの 数列 $\{ e_n \},\ \{ f_n \}$

    \begin{displaymath}
e_n=\dfrac{\alpha^n\beta-\alpha\beta^n}{\beta-\alpha},\
f_n=\dfrac{\beta^n-\alpha^n}{\beta-\alpha}
\end{displaymath}

    で定める.このとき $e_0=1,\ e_1=0$$f_0=0,\ f_1=1$ となるので, 一方が他方の定数倍ということはない. $V$のすべての数列は, 数列 $\{ e_n \},\ \{ f_n \}$ を用いて表される.

    \begin{displaymath}
V=\{s\{e_n\}+t\{f_n\}\ \vert\ s,\ t \in R\}
\end{displaymath}

  2. $\alpha,\ \beta$が実数で $\alpha\ne \beta$ のときはさらに次のようにもできる. $\alpha^2=p\alpha+q$ より

    \begin{displaymath}
\alpha^{n+2}=p\alpha^{n+1}+q\alpha^n
\end{displaymath}

    なので, 数列 $\{\alpha^n \},\ \{\beta^n\}$ も漸化式を満たす. $n=0,\ 1,\ 2,\ \cdots$ に対して数列 $\{\alpha^n \},\ \{\beta^n\}$ がともに $V$ の要素になり,対応する $xy$ 平面のベクトル

    \begin{displaymath}
(\alpha,\ 1),\ (\beta,\ 1)
\end{displaymath}

    が平行でないので数列 $\{\alpha^n \},\ \{\beta^n\}$$V$ を表すこともできる.

    \begin{displaymath}
V=\{s\alpha^n+t\beta^n\ \vert\ s,\ t \in R\}
\end{displaymath}

  3. $\alpha=\beta$ のとき. つまり $p=2\alpha,\ q=-\alpha^2$ のとき.

    二つの 数列 $\{ e_n \},\ \{ f_n \}$

    \begin{displaymath}
e_n=(1-n)\alpha^n,\
f_n=n\alpha^{n-1}
\end{displaymath}

    で定める.このときやはり $e_0=1,\ e_1=0$$f_0=0,\ f_1=1$ となり

    \begin{displaymath}
V=\{se_n+tf_n\ \vert\ s,\ t \in R\}
\end{displaymath}

    また, 数列 $\{ n\alpha^{n-1} \}$ を考えると

    \begin{displaymath}
p(n+1)\alpha^n+qn\alpha^{n-1}
=2(n+1)\alpha^{n+1}-n\alpha^{n+1}=(n+2)\alpha^{n+1}
\end{displaymath}

    なのでこの数列も漸化式1を満たす.

    数列 $\{ \alpha^n \}$と数列 $\{ n\alpha^{n-1} \}$に対応する $xy$ 平面のベクトルは

    \begin{displaymath}
(\alpha,\ 1),\ (1,\ 0)
\end{displaymath}

    なので平行でない.ゆえにこの二つで $V$ を表すことができる.

    \begin{displaymath}
V=\{s\{\alpha^n\}+t\{n\alpha^{n-1}\}\ \vert\ s,\ t \in R\}
\end{displaymath}

南海 最初の質問に関していえば,

(1) 拓生君の方法で求まる数列が最初の漸化式を満たすことと,

(2) 初期条件が同じものは一つしかないこと

をいえば,最初の定期テストの解答で解になっている.

またすでに気づいているとは思うが, 連立漸化式$\maru{2}$を解くことは,$\maru{2}$から定まる行列$A$の 累乗$A^n$を求めることと同値である. 関係式$\maru{3}$を, あたかも三項間漸化式を等比数列を作って解くのと同じように変形していけば,$A^n$を直接求めることもできる. その結果は

\begin{displaymath}
A^n=\dfrac{\beta^n-\alpha^n}{\beta-\alpha}A
+\dfrac{\alpha^n\beta-\alpha\beta^n}{\beta-\alpha}E
\end{displaymath}

となる.
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