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固有値の方法

拓生  行列$A$の累乗$A^n$を求めるのに,入試問題でも

\begin{displaymath}
P^{-1}AP=\matrix{\alpha}{0}{0}{\beta}\quad\cdots\maru{9}
\end{displaymath}

と対角化する方法を材料にしたものが見うけられます. しかし問題ではいつもヒントになることが個別に与えられ, 一般的な方法としてはよくわかりません.

南海  いわゆる固有値の方法というものだ. 固有値を本当に理解しようとすれば,一次変換とベクトル空間についての理解がいる.『線形代数の考え方』を見てほしい.

ここでは二次行列の変形という範囲に絞って固有値の方法を話そう. 行列$A$に対して$\maru{9}$の形に変形できるということはどういうことか. 行列$P$

\begin{displaymath}
P=\matrix{p}{q}{r}{s}
\end{displaymath}

とするとき,二つの縦ベクトル $\overrightarrow{u},\ \overrightarrow{v}$

\begin{displaymath}
\overrightarrow{u}=\vecarray{p}{r},\ \overrightarrow{v}=\vecarray{q}{s}
\end{displaymath}

とする. $\overrightarrow{u},\ \overrightarrow{v}$はどんな関係式を満たすか.

拓生  $\maru{9}$

\begin{displaymath}
A\matrix{p}{q}{r}{s}=\matrix{p}{q}{r}{s}\matrix{\alpha}{0}{0}{\beta}
=\matrix{\alpha p}{\beta q}{\alpha r}{\beta s}
\end{displaymath}

です.これから

\begin{displaymath}
A\overrightarrow{u}=\alpha\overrightarrow{u},\
A\overrightarrow{v}=\beta\overrightarrow{v}
\end{displaymath}

となります.ということは逆にいえば

\begin{displaymath}
A\overrightarrow{x}=t\overrightarrow{x}\quad\cdots\maru{10}
\end{displaymath}

となるベクトル $\overrightarrow{x}$が2個見つかれば対角化できる.

南海 そういうことだ.行列 $A=\matrix{a}{b}{c}{d}$とおく. $\maru{10}$

\begin{displaymath}
\matrix{a-t}{b}{c}{d-t}\overrightarrow{x}=0
\end{displaymath}

ということだ. これを満たす0でないベクトルが存在するための条件は何か.

拓生 左辺の行列の$\Delta$が0,つまり

\begin{displaymath}
(a-t)(d-t)-bc=0
\end{displaymath}

です.これを整理すると

\begin{displaymath}
t^2-(a+d)t+ad-bc=0
\end{displaymath}

これは$\maru{4}$の漸化式の固有方程式と同じものです.

南海  これが相異なる二つの解 $\alpha,\ \beta$をもつときは, それぞれの$t$の値に対して$\maru{10}$を満たすようなベクトル $\overrightarrow{u},\ \overrightarrow{v}$をとる. $\overrightarrow{u},\ \overrightarrow{v}$は, 0でない実数倍だけとり方はあるが,いずれをとってもよい.

この2つのベクトルを, それぞれ$\alpha$$\beta$に対応する固有ベクトルという. 実数倍しても同じことなので, 行列$A$固有な方向であると考えてもよい. これで$A^n$が求まり,連立漸化式などが解ける.

試しに次の連立漸化式を解いてほしい.

例 1.1.1   次の連立漸化式を解け.

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
a_{n+1}=4a_n+8b_n\\
b_{n+1}=a_n+6b_n
\end{array}\right.a_1=0,\ b_1=1
\end{displaymath}

拓生  $A=\matrix{4}{8}{1}{6}$とおきます.まず$A$を対角化し連立漸化式を変形する.

\begin{displaymath}
\Delta\matrix{4-t}{8}{1}{6-t}=t^2-10t+16=(t-2)(t-8)
\end{displaymath}

より,固有値は2と8.$t=8のとき$

\begin{displaymath}
\matrix{4-t}{8}{1}{6-t}=\matrix{-4}{8}{1}{-2}\vecarray{x}{y}
=\overrightarrow{O}
\end{displaymath}

より, $x$$y$の満たすべき関係式は$x-2y=0$. 同様に$t=2$のとき,$x$$y$の満たすべき関係式は$x+4y=0$である. したがって

\begin{displaymath}
\overrightarrow{u}=\vecarray{2}{1},\
\overrightarrow{v}=\vecarray{4}{-1}
\end{displaymath}

等がとれる.このとき

\begin{displaymath}
P=\matrix{2}{1}{4}{-1}
\end{displaymath}

とする. 検算をかねて計算すると, $P^{-1}=\dfrac{1}{6}\matrix{1}{4}{1}{-2}$なので,

\begin{eqnarray*}
P^{-1}AP&=&\dfrac{1}{6}\matrix{1}{4}{1}{-2}
\matrix{4}{8}{1}{6...
...6}\matrix{8}{32}{2}{-4}\matrix{2}{1}{4}{-1}
=\matrix{8}{0}{0}{2}
\end{eqnarray*}

です. これから $A=P\matrix{8}{0}{0}{2}P^{-1}$なので,連立漸化式

\begin{displaymath}
\vecarray{a_{n+1}}{b_{n+1}}=A\vecarray{a_n}{b_n}
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
\vecarray{a_{n+1}}{b_{n+1}}=P\matrix{8}{0}{0}{2}P^{-1}\vecarray{a_n}{b_n}
\end{displaymath}

となる.つまり

\begin{displaymath}
P^{-1}\vecarray{a_{n+1}}{b_{n+1}}=\matrix{8}{0}{0}{2}P^{-1}\vecarray{a_n}{b_n}
\end{displaymath}

これから

\begin{displaymath}
\matrix{1}{4}{1}{-2}\vecarray{a_{n+1}}{b_{n+1}}=\matrix{8}{0}{0}{2}\matrix{1}{4}{1}{-2}\vecarray{a_n}{b_n}
\end{displaymath}

つまり連立漸化式は

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
a_{n+1}+4b_{n+1}=8(a_n+4b_n)\\
a_{n+1}-2b_{n+1}=2(a_n-2b_n)
\end{array}\right.
\end{displaymath}

と,二つの等比数列に分解された.

\begin{displaymath}
∴\quad \left\{
\begin{array}{l}
a_n+4b_n=8^{n-1}(a_1+4b_1...
... a_n-2b_n=2^{n-1}(a_1-2b_1)=-2\cdot2^{n-1}
\end{array}\right.
\end{displaymath}

これから

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
a_n=\dfrac{4}{3}\left(8^{n-1}-2^{n-1}\rig...
...b_n=\dfrac{1}{3}\left(2\cdot8^{n-1}+2^{n-1}\right)
\end{array}\end{displaymath}

となる.

南海  もちろん$\alpha=\beta$となるときも考えなければならならない. また要するに固有値とは何か,についてもこのままではわからない. それらについてはまた後日話すことにしよう.


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