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け(笥、食、日、褻)

【け(食、笥、日、褻)】[ke]

■万葉仮名で[e]の音は甲乙二種ある。これらの漢字を当てる「け」はすべて同じ音で乙類である。一方、「異(け)」は上代仮名遣いでは甲類であって、「日(け)」とは音が異なり別語である。

[k]は日常の衣食住に関わることを意味し、[e]は何らかの行為と因果関係があること示す。それに対して[i]は動きを意味する。「き(来)[ki]」は獲物が動いてくることであり、また田の神が来て穀物がなることである。その行為の結果として食ができる、つまり「け(食)」である。それを入れ置く容器が「け(笥)」である。ちなみに「けもの(獣)」は[ke-mono]であって食糧の意味である。「け(食)」を「くう(食う)[ku-u]」営みのくりかえしが「け(日)」である。よって「け(日)」は二日以上の日の意味で、「日々」、つまり日常ということ。「ふつか(二日)」などの「か」、「こよみ(日読)」の「こ」と同源である。さらに神の祭や公の政など儀式や祝いごとを晴(はれ)というのに対して日常的な私ごとを「け(褻)」という。「晴れと褻」と対比するとき、正式でないこと。よそいきでないこと。また、そのような状態の時や所。ふだん。常(つね)などをいみする。

◆「う」が余剰の食糧を意味するのに対し、「け」は日々食べる食料を意味し、それに関連する言葉を生んだ。

▼け(食) ◇『万葉集』三八「やすみしし、吾が大王、神ながら、神さびせすと、芳野川、たぎつ河内に、高殿を、高しりまして、上り立ち、国見を為せば、たたなはる、青垣山、山神の、奉る御調と、春べば、花かざし持ち、秋立てば、黄葉かざせり(一云、黄葉かざし)、逝き副ふ、川の神も、大御食に、仕へまつると、上つ瀬に、鵜川を立ち、下つ瀬に、小網さし渡す、山川も、依りて奉れる、神の御代かも」

▼け(笥) ◇『万葉集』一四二「家にあれば笥(け)に盛る飯(いひ)を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る」(有間皇子)

▼け(日) ◇『古事記』下・歌謡「君が行き気(ケ)長くなりぬ」 ◇『万葉集』三七七「青山の嶺の白雲朝に食(け)に常に見れども」

▼け(褻) ◇『平中物語』三四「上にもけにも心にまかせてまじり歩く人なれば」



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