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こころ

【こころ(心)】[kokoro]

■「くくる(括る)[kukuru])働きがなりたつ根拠が「こころ」である。この[o]は乙類である。「くくる」は「食う」ことのくりかえしであり、人が生きることそのものをいう。

◆したがって「こころ」は人が生きることの根拠そのものであり、人間の証でもある。これが基層の意味である。 ◇「心ある人に訴える」

これより展開して、人間がこの世界で生きていくにあたってもつ内面のはたらきの総体を指し示す。「おもい」が「もの」によってひきおこされ内にこもるのに対して、「こころ」は外に向かって働きかけていこうとする人間の内面のあり方をさす。「こころ」はもともとは内臓とくに心臓を意味し、それから生命活動の根元的な臓器としての心臓の鼓動の働きを意味するようになり、人間が生きていることの内実としての「こころ」を意味するように展開してきた。

▼心臓そのものを指す用例が伝えられている。 ◇記紀歌謡「大猪子(おほゐこ)が腹にある肝向ふ心」

▼人間が生きていることの内実としての「こころ」 ◇『古事記』・下・歌謡「大君の許許呂(ココロ)をゆらみ」 ◇『万葉集』三四六三「ま遠くの野にも逢はなむ己許呂(ココロ)なく里のみ中に逢へる背なかも」 ◇『古今集』仮名序「やまと歌は、人のこころを種として、よろづのことの葉とぞなれりける」 ◇『古今集』四二「人はいさ心もしらずふるさとは」 ◇『伊勢物語』二「その人、かたちよりは心なんまさりたりける」 ◇『源氏物語』夕顔「我がいとよく思ひ寄りぬべかりし事を、譲り聞えて、心広さよ」 ◇『新古今集』三六二「心なき身にもあはれは知られけり」 ◇暖かい心。心が騒ぐ。心を鬼にして叱る。心が動く ◇心ここにあらず

▼何か目的を持ってしようとする「こころ」。思いやりをいうことも、外に隠した本心をいうこともある。 ◇『万葉集』五三八「心あるごとな思ひ吾が背子」 ◇『古今集』三八七「命だに心にかなふ物ならば」 ◇『土左日記』「この来たる人々ぞ、こころあるやうには言はれほのめく」 ◇二心。下心。水くさい心。異(こと)心。あだし心。 ◇気心が知れない ◇旅心が騒ぐ、絵心がある ◇心構え、心づもり

▼内面の傾向としての「こころ」。気分、感情、誠意、機嫌、等。 ◇『万葉集』三三一四「そこ思ふに心し痛し」 ◇『古今集』五三「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」

▼ことわりする「こころ」。知的なはたらき。 ◇『枕草子』八三「よも起きさせ給はじとてふし侍りにきと語る。心もなの事や、と聞く程に」 ◇心当たりがない ◇「その心は」

▼比喩的に「もの」の「こころ」をさす。 ◇『源氏物語』絵合「四方(よも)の海の深き心を見しに」 ◇『古今集』仮名序「古へのことをも、歌のこころをも知れる人」 ◇『古今集』仮名序「言の心わきがたかりけらし」

※「気持」や「気分」など「気」で表されるのは「心」の現象であり状態である。「こころ」はそのような状態の土台、本質、である。



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