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恒等式[01京府医大]

問題     

次の実数係数の三次式を $f(x)$ とする.

\begin{displaymath}
f(x)=x^3+px^2+qx+r
\end{displaymath}

いま,二つの実数係数の整式 $g(x),\ h(x)$ が次を満たすものとする.

\begin{displaymath}
f(g(x))=f(h(x)) \quad : \quad 恒等的に等しい
\end{displaymath}

このとき次のいずれかが成り立つことを示せ.
  1. $g(x),\ h(x)\quad : \quad $恒等的に等しい.
  2. 二つの整式 $g(x),\ h(x)$ はともに定数である.


方針


解1

\begin{displaymath}
f(g)-f(h)=(g-h)\{g^2+gh+h^2+p(g+h)+q\}
\end{displaymath}

これがすべての $x$ で成立するので, $g-h=0$ $g^2+gh+h^2+p(g+h)+q=0$かのいずれかは無数の $x$ で成立する. $g-h=0$が無数の $x$ で成立するとすれば, $g(x),\ h(x)$$x$ の整式なので$g(x),\ h(x)$は恒等的に等しい. 同様に $g^2+gh+h^2+p(g+h)+q=0$が無数の $x$ で成立し,したがって恒等的に成立するとする.

$g(x),\ h(x)$の次数が異なる場合,大きい方の次数を $m>0$ とすると $g^2+gh+h^2+p(g+h)+q$$2m$ 次の整式である.恒等的に0ではあり得ない.

$g(x),\ h(x)$の次数が等しい場合,それを $m$ 次として $g(x)=ax^m+\cdots$ $h(x)=bx^m+\cdots$ と置く.このとき

\begin{displaymath}
g^2+gh+h^2+p(g+h)+q=(a^2+ab+b^2)x^{2m}+\cdots)
\end{displaymath}

となる. 実数 $a,\ b$ に対して $a^2+ab+b^2>0$ であるからもし $m\ge 1$ なら これが恒等的に0になることはない.

ゆえに$m=0$ で,$g(x),\ h(x)$はともに定数である.□


解2
$g(x)$ が定数でないとする. $g(x)$ は実数係数の整式なので,

\begin{displaymath}
\lim_{x \to \infty}\vert g(x)\vert=\infty
\end{displaymath}

 


である. これが$\vert x\vert$ が十分大きいすべての $x$ で成立する. $g(x)$ は整式なので,恒等的に成立する.

次に $g(x)=c\ (定数)$ とする.

\begin{displaymath}
f(g(x))=f(c)=f(h(x))
\end{displaymath}

したがって $h(x)$はすべての $x$ に対して $n$ 次方程式

\begin{displaymath}
f(c)=f(x)
\end{displaymath}

の解にいずれかに一致しなければならない.実数解は有限個なので 少なくとの一つの解で,$h(x)$が一致するような $x$ が無数にあるものがある.

$h(x)$は整式なので,恒等的にこの解に等しい,つまり$h(x)$も定数である.□


吟味
解2のように考えると,$f(x)$は任意の実数係数の整式で成立することがわかる.大切なことなので,恒等式の定義を書いておこう.

整式の一致と恒等式の定義

$f(x),g(x)$$x$ についての整式であるとき,次の3つの命題は同値である. またこのとき,等式 $f(x)=g(x)$恒等式 であるという. 2式の次数の小さくない方を$n$とする.

  1. $f(x)$$g(x)$ は同一の式である.つまり,次数が等しくかつ同じ次数の項の係数が等しい.
  2. 任意の$x$の値に対して$f(x),g(x)$は同一の値をとる.
  3. 等式$f(x)=g(x)$が異なる$n+1$個の$x$の値に対して成り立つ.
証明
  1. $(\mathrm{i}) \Rightarrow (\mathrm{ii}) \, : \, 明白である.$
  2. $(\mathrm{ii}) \Rightarrow (\mathrm{iii}) \, :\, 明白である.$
  3. $(\mathrm{iii}) \Rightarrow (\mathrm{i}) \, : \, h(x)=f(x)-g(x)$$n$ 次以下の整式である. $a_i(1 \le i \le n+1)$ のあい異なる $a_i$ に対して, $h(a_i)=0$ であるから,因数定理より,

    \begin{displaymath}
h(x)=(x-a_1)(x-a_2) \cdots (x-a_{n+1})Q(x)
\end{displaymath}

    と因数分解される. もし $Q(x) \ne 0$ なら,左辺の次数は $n$ 以下であり, 右辺の次数は $n+1$ 以上となる.よって矛盾が起こる. 従って $Q(x)=0$となり$h(x)$は式として0である. $f(x)$$g(x)$ は同一の式である.
3つの条件は互いに他の2つの必要十分条件になっていることが示されているので, 題意が示された.□

 


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