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存在の直接証明

存在することを示すいちばんの方法は,実際に作ってみせることだ. 構成できるものは存在する.これが第一の存在証明の原理である. これは直接証明である. 「幽霊が存在することを示せ」といわれたら, 幽霊をつれてくるのがいちばんだ. 笑ってはいけない.西洋では神の存在証明というのが長い間,問題であった.神はつれてくることができるのか,できないのか. できないとしたら, にもかかわらず存在することを示すことはできるのか.

数学の存在証明においてもこれは大切な問題だ. 例えば「必要条件でしぼる」の例題3.6の十分性の証明を見てほしい.存在に関わる部分だけを取り出すと,

    $n$ が奇数または4の倍数なら $x^2-y^2=n$ には整数解が存在する.
これを証明せよということになる.これは次のように作ってみせた.

$n=2k+1,\ 4k$ とおく.すると

\begin{displaymath}
(k+1)^2-k^2=2k+1=n,\ \quad (k+1)^2-(k-1)^2=4k=n
\end{displaymath}

なのでそれぞれ, $(x,\ y)=(k+1,\ k),\ (k+1,\ k-1)$ という解がある!


ある条件の下で作ってみせることができれば,その条件が存在するための十分条件であることがわかる.構成すること,これが存在証明の基本である.これをまず銘記しよう.


例題 1.16       [04千葉大後期]

直角をはさむ2辺の長さがともに整数の直角三角形を「整直角三角形」という. 二等辺三角形でない二つの整直角三角形を$T_1,\ T_2$とし, それぞれの斜辺の長さを$l_1,\ l_2$とする. このとき, これらの積$l_1l_2$を斜辺の長さにもつ整直角三角形が存在することを示せ.


考え方     これは直接作ってみせることで存在を示す. 問題文中の条件を適切に使っているかよく注意しよう.

解答     $l_1,\ l_2$が整直角三角形$T_1,\ T_2$の斜辺なので

\begin{displaymath}
{l_1}^2=a^2+b^2,\ {l_2}^2=c^2+d^2
\end{displaymath}

となる正の整数$a,\ b,\ c,\ d$が存在する. このとき

\begin{eqnarray*}
(l_1l_2)^2&=&(a^2+b^2)(c^2+d^2)\\
&=&a^2c^2+a^2d^2+b^2c^2+b^2...
...uad \cdots\maru{1}\\
&=&(ac-bd)^2+(ad+bc)^2\quad \cdots\maru{2}
\end{eqnarray*}

ここで$ad-bc=0$かつ$ac-bd=0$ならば,$ad=bc$$ac=bd$の辺々をかけて

\begin{displaymath}
a^2cd=b^2cd
\end{displaymath}

これから$a=b$となり,$T_1$が二等辺三角形でないことに反する. したがって$ad-bc$$ac-bd$の少なくとも一方は0ではない.

よって@またはAの少なくとも一方は次のことを示している.

0でない二つの整数で,それらの平方の和が$l_1l_2$の平方に等しいものが存在する. つまり積$l_1l_2$を斜辺の長さにもつ整直角三角形が存在することが示された. □



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