南海 まず整数論の入り口である,除法と,除法を用いた論証の復習だ.
この証明そのものは『数論初歩』を見てほしい. 重要なので概略を示す.
まず.整数 と正整数に対して
『数論初歩』ではさらに厳密に, 自然数の部分集合には最小の要素が存在することを根拠に証明した.
そこで とおく.
より で
あとはこのような が二通りあったとして,相等しいことを示せばよかった.
南海 どのように導かれるのか,確認しよう.
まず,整数がの倍数でるとは,となる整数が存在することと定める.
すると,割り算ができ,をで割った商と余りが一意に確定することによって,
がの倍数であることは, をで割った余りが0であることと同値である.
太郎 そこで質問ですが,例えば6の約数は普通2や3ということになりますが, やも約数ではないのですか.
南海 その通りだ.
素数は正のもので考えるのでを素因数分解とはいわないのだが, 因数分解であることには変わりない.
このように,約数や倍数,の自由さがあり, 整除に関することはの違いを除いて決まる. これを前提にして,正の方で代表させて考えるのである.
太郎 は特別な数なのですか.
南海 そう.整数のなかで逆数もまた整数であるのは,だけだ. このような数を単数というのだが,普通の整数では単数はだけだ.
太郎 「普通の整数」でないものとは『数論初歩』に少し書かれていた二次体の整数とかですか.
南海 そうだ.いわゆる「代数的整数」だ. この話はここではこれ以上はできないが, 実二次体の整数では単数が無数にある.
普通,整数といっているものは有理整数という.
太郎 有理整数では単数はだけなのですね. そして,割り切れるとか,因数分解とか, すべて,ある整数で成り立てば, それにをかけても,成り立つのですね.
南海 『数論初歩』でもそのことは書かれているが, 少しわかりにくかったかもしれない.
そこでいくつかの定義.
0およびでない整数は少なくともとを約数を持つ. および 以外の約数を「真の約数」ともいう.
真の約数を持たない正の整数を 素数 という.
真の約数を持つ整数を 合成数 という.
さらに,公約数,公倍数が定義される.
太郎 『数論初歩』に次のように公倍数,公約数の定義があります.
二つ以上の整数 に共通な倍数をそれらの整数の公倍数という. 0は常に公倍数である. それを除けば公倍数の絶対値は のいずれの絶対値よりも小さくはないので, 公倍数の中に正で最小のものがある. それを最小公倍数(least common multiple 略して L.C.M.)という.
二つ以上の整数 に共通な約数をそれらの整数の公約数という. 1は常に公約数である. 公約数の絶対値は のいずれの絶対値よりも大きくはないので, 公約数の中に最大のものがある. それを最大公約数(greatest common measure 略して G.C.M.)という.同様の理由で,公約数,公倍数は正のもので考えるのですね.
南海 最大公約数が1であるとき,その2数は互いに素であるという.
そこで,次の定理の(1)を示してほしい. 他はこれをもとに示される. それは『数論初歩』にある.
太郎 はい.
証明
の最小公倍数を
とし, を任意の公倍数とする.
を で割った商を ,余りを とすると
南海 この定理の証明において, 「除法の原理」が基本定理として用いられてることがわかる. 日頃当然のように論証で使っていることが, 「除法の原理」を基礎に厳密に示される.
南海
次に因数分解を考えよう.
先に見たように,因数分解は
整数をこれ以上分解できないところまで分解して,
は異なる素数, は正の整数である.
合成数は素数の積として順序を除けばただ一通りに表すことができる. これが素因数分解の一意性といわれる基本定理である.
南海 この証明は『数論初歩』をみてほしい. 概略をいえば,分解できることは数学的帰納法で示す. 一意性の証明は,整数の積を素数が割り切れば, はまたはを割り切る,ということを用いる. これは先の定理2の(4)からわかる.
太郎 なるほど.すべて除法が論証の根拠になっているのですね.
南海 最近,次のような除法を用いない因数分解の一意性の証明を『数学のたのしみ』 (2006年夏号,日本評論社)の「素数・ゼータ関数・三角関数」(黒川重信)で教えられた. ツェルメロによるものであるということだ.
それを紹介しよう. これは除法を用いていない. 自然数の集合には最小のものが存在することだけを用いている.
因数分解の可能性は同様なので,一意性のみ別証明をおこなう.
因数分解の一意性の別証明
異なる因数分解をもつ自然数の集合を考える. この集合に属する最小の自然数をとする. は相異なる2つの因数分解をもつ.それを
また, のいずれも のいずれとも異なる. なぜなら,もしなら, これを約せばより小さい数で,異なる因数分解をもつ自然数が得られ, がそのような数のなかで最小であることに反する.
とする. ここで自然数を
このの因数分解における因数はの倍数ではない. なぜならもしの倍数ならがの倍数となり互いに異なる素数であることに反する. よってこの因数分解には現れない.
一方は
よっての2つの因数分解は相異なる因数分解である.
なので, が異なる2つの因数分解をもつ最小の自然数であることと矛盾した.
したがって異なる2つの因数分解をもつ自然数は存在しない.□
太郎 わかりました.
除法の原理自身,除法が一意に出来ることを示すためには 自然数の集合には最小のものが存在することを用いるのでした.
だから,除法を使うか使わないかにかかわらず,自然数の性質が土台になっています.
南海 そうなのだ. だから,このツェルメロの証明は, 自然数の集合には最小のものが存在することをいったん除法の原理にまとめることをせず, 自然数の性質から直接示す,ともいえる.
これを参考にして, 後で整式の因数分解の一意性の証明もおこないたい.
南海 もう一つ,証明に除法が使われる基本定理を紹介しよう.
証明
条件からである. その結果,なら である.
また,自然数に対してのとき
そこでの要素のうち,正の要素からなる部分集合に属する最小の要素をとする. 自然数の集合には最小の要素が存在するので,はつねに存在する.
の任意の要素をとり,それをで割る.
ここでもしならが正で最小の要素であることに反する. よって,つまりの任意の要素はの倍数である.
逆に,の倍数がに属することはすでに示した.
したがって が示せた.□
南海 このように, 差と整数倍が再びに属するような部分集合をイデアルというのだが, 有理整数のイデアルは,ある整数の倍数全体になる,ことを意味している.
南海 これを用いると次のことが示される.
太郎 この事実は知っていますが,証明は部屋割り論法を用いるものです.
部屋割り論法による証明
南海 まづそれを復習しよう. 次の演習問題を解いてみてほしい.
太郎 (1) 対偶を示す.
(2) と が互いに素なので, に対して は の倍数とはならない. ゆえにこのとき である.
一方 ならば なので はすべて異なる 個の整数で, すべて をみたす.
ゆえに鳩の巣原理により
は
の各値を一つずつとる.
ゆえに となる
が存在する.
つまり が の倍数である.これを とおくと
南海 この演習問題も,入試問題の改題だが, 高校数学ではこのように(1)を用いていわゆる部屋割り論法で 証明するのが普通だ.
実は定理4を用いる次の証明法の方が一般的だ.
なぜなら,変数を増やしての最大公約数が1なら
,がに属せば
したがって定理4より は,に属するある整数の倍数の全体である. とする.
一方