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複素射影空間内での証明

南海  ポンスレの閉形定理を完結するためには, 媒介変数$t$と曲線の置かれた場である平面も,すべて射影空間で考えなければならない.

拓生  媒介変数を射影直線にすることで,例えば楕円の場合に$(-a,\ 0)$を除くという例外がなくなる. また,二次曲線を射影平面で考えることで,放物線と円の場合にあった, 「$x$座標が$\pm 1$と異なる$C_1$上の点」という例外がいらなくなる.

南海  そうだ.そこで話を進めよう.

射影直線$P^1(C)$を次のように定める. $(0,\ 0)$でない複素数の組$(t_0,\ t_1)$の集合を考え, $(t_0,\ t_1)=k(s_0,\ s_1)$となる複素数$k$が存在するとき, この二つの組は同じものとする. 複素数の組$(t_0,\ t_1)$の集合で, このようにして比が等しいものを射影直線といい,$P^1(C)$と表す. 一次元射影空間ともいう.

同様に 射影平面$P^2(C)$を次のように定める. $(0,\ 0,\ 0)$でない複素数の組 $(x_0,\ x_1,\ x_2)$の集合を考え, $(x_0,\ x_1,\ x_2)=k(y_0,\ y_1,\ y_2)$となる複素数$k$が存在するとき, この二つの組は同じものとする. 複素数の組 $(x_0,\ x_1,\ x_2)$の集合で, このようにして比が等しいものを射影平面といい,$P^2(C)$と表す. 今後, $(x_0,\ x_1,\ x_2)$を必要に応じて$\mathrm{X}$のような大文字で表そう.

拓生  二次曲線 $C$を射影座標で表す.「パスカルの定理」によれば,

\begin{displaymath}
f(\mathrm{X})=a{x_1}^2+b{x_2}^2+c{x_0}^2+2hx_1x_2+2lx_1x_0+2mx_2x_0
\end{displaymath}

を用いて方程式 $f(\mathrm{X})=0$ で二次曲線 $C$ が定まる.

このとき$C$上の点 $\mathrm{P}(p_0,\ p_1,\ p_2)$における接線の式は

L (P,X) = 


を用いて方程式 $L(\mathrm{P},\ \mathrm{X})=0$ で表される.

南海  そう.これをそのまま係数を複素数まで認めることにして拡張すればよい.

ちなみに行列

\begin{displaymath}
A=
\left(
\begin{array}{ccc}
c&l&m\\
l&a&h\\
m&h&b
\end{array}\right)
\end{displaymath}

を用いると

\begin{displaymath}
f(\mathrm{X})=\mathrm{X}A{}^t\mathrm{X},\ L(\mathrm{P},\ \mathrm{X})=\mathrm{P}A{}^t\mathrm{X}
\end{displaymath}

となる.ここで ${}^t\mathrm{X}$$\mathrm{X}$を縦に書いた $\left(
\begin{array}{c}
x_0\\
x_1\\
x_2
\end{array}\right)$を表す.

二次曲線 $C:f(\mathrm{X})=0$は適当な一次変換によって標準形になり, それらは二次式による媒介変数表示をもつ.つまり二次曲線$C$上の点$\mathrm{P}$

\begin{displaymath}
\mathrm{P}=(u_0(\mathrm{T}),\ u_1(\mathrm{T}),\ u_2(\mathrm{T}))
\end{displaymath}

と表される.ここで $\mathrm{T}=(t_0,\ t_1)$は射影直線上の点, $u_0,\ u_1,\ u_2$はそれぞれ$t_0,\ t_1$の二次式,つまり

\begin{displaymath}
u_i(\mathrm{T})=\alpha_i {t_0}^2+\beta_it_0t_1+\gamma_i{t_1}^2
\end{displaymath}

のように表される.


次に二次行列 $A=\left(
\begin{array}{cc}
a&b\\
c&d\\
\end{array}\right)$に対して$\vert A\vert=ad-bc$を行列式といい $\vert A\vert=\left\vert
\begin{array}{cc}
a&b\\
c&d\\
\end{array}\right\vert$と表す.

さらに三次行列 $A=\left(
\begin{array}{ccc}
a&b&c\\
d&e&f\\
g&h&i
\end{array}\right)$に対しその行列式$\vert A\vert$

\begin{displaymath}
\vert A\vert=\left\vert
\begin{array}{ccc}
a&b&c\\
d&e&f...
...ert
\begin{array}{cc}
d&e\\
g&h\\
\end{array}\right\vert
\end{displaymath}

で定める.

射影平面の2点 $\mathrm{P}(p_0,\ p_1,\ p_2)$ $\mathrm{Q}(q_0,\ q_1,\ q_2)$ を通る直線の式は

\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{ccc}
x_0&x_1&x_2\\
p_0&p_1&p_2\\
q_0&q_1&q_2
\end{array}\right\vert=0
\end{displaymath}

で表される. これは$\mathrm{X}$の一次式で, $\mathrm{X}=\mathrm{P},\ \mathrm{Q}$で成立することからわかる.

補題 5
二つの二次曲線$C_0$$C_1$がある.$C_1$上の2点 $\mathrm{P},\ \mathrm{Q}$が それぞれ媒介変数 $\mathrm{T},\ \mathrm{S}$で表されているとする.

このとき直線$\mathrm{PQ}$$C_0$に接するための必要十分条件は, $\mathrm{T},\ \mathrm{S}$のそれぞれに関する二次の等式で表される.

証明

二次曲線$C_0$$C_1$はそれぞれ行列$A$$B$をもちいて

\begin{displaymath}
\mathrm{X}A{}^t\mathrm{X}=0,\ \mathrm{X}B{}^t\mathrm{X}=0
\end{displaymath}

と表されるとする.

$\mathrm{P},\ \mathrm{Q}$はそれぞれ二次式によって $(u_0(\mathrm{T}),\ u_1(\mathrm{T}),\ u_2(\mathrm{T}))$, $(u_0(\mathrm{S}),\ u_1(\mathrm{S}),\ u_2(\mathrm{S}))$と表される.

よって直線$\mathrm{PQ}$

\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{ccc}
x_0&x_1&x_2\\
u_0(\mathrm{...
...{S})&u_1(\mathrm{S})&u_2(\mathrm{S})
\end{array}\right\vert=0
\end{displaymath}

となる.これは

\begin{displaymath}
\left(
\left\vert
\begin{array}{cc}
u_1(\mathrm{T})&u_2(\...
...\mathrm{S})\\
\end{array}\right\vert
\right){}^t\mathrm{X}=0
\end{displaymath}

とも書ける.

一方$C_0$上の点$\mathrm{M}$での接線は

\begin{displaymath}
\mathrm{M}A{}^t\mathrm{X}=0
\end{displaymath}

と表される.これが直線$\mathrm{PQ}$と一致するので,

\begin{displaymath}
\mathrm{M}A=
\left(
\left\vert
\begin{array}{cc}
u_1(\mat...
...\mathrm{S})&u_1(\mathrm{S})\\
\end{array}\right\vert
\right)
\end{displaymath}

である.つまり

\begin{displaymath}
\mathrm{M}=
\left(
\left\vert
\begin{array}{cc}
u_1(\math...
...m{S})&u_1(\mathrm{S})\\
\end{array}\right\vert
\right)A^{-1}
\end{displaymath}

この$\mathrm{M}$$\mathrm{T}$$\mathrm{S}$のそれぞれについて一次式である. この$\mathrm{M}$$C_0$上に存在することが,$\mathrm{PQ}$$C_0$に接することを意味する.

この$\mathrm{M}$$C_0$の方程式 $\mathrm{X}A{}^t\mathrm{X}=0$に代入すると, 確かに $\mathrm{T},\ \mathrm{S}$のそれぞれに関する二次の等式になっている.□

この双二次式を $T(\mathrm{T},\ \mathrm{S})$と表す. またこの式を $T(\mathrm{P},\ \mathrm{Q})$とも表す.

補題 6

二つの二次曲線$C_0$$C_1$がある.

$C_1$ 上の点$\mathrm{P}_1$ から $C_0$ にひとつの接線をひき, その延長が再び $C_1$ と交わる点を $\mathrm{P}_2$ とする. $\mathrm{P}_2$ から $C_0$ $\mathrm{P_2P_1}$とは異なる接線をひき, その延長が再び $C_1$ と交わる点を $\mathrm{P}_3$ とする. このようにして点$\mathrm{P}_n$を定める.

$\mathrm{P}_1$が媒介変数$\mathrm{T}$で表され, 点$\mathrm{P}_n$が媒介変数$\mathrm{S}$で表されるとすると $\mathrm{T}$$\mathrm{S}$の間には,それぞれについて二次の関係式

\begin{displaymath}
T_n(\mathrm{T},\ \mathrm{S})=0
\end{displaymath}

が成立し,これによって$\mathrm{S}$が決定する.

証明

数学的帰納法で示す.

$n=1$のとき.

$T_n(\mathrm{T},\ \mathrm{S})=T(\mathrm{T},\ \mathrm{S})$ なので成立する.

$n=2$のとき.

$\mathrm{P}_2(\mathrm{U})$として,連立方程式

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
T(\mathrm{T},\ \mathrm{U})=0\\
T(\mathrm{S},\ \mathrm{U})=0
\end{array}\right.
\end{displaymath}

から$\mathrm{U}$を消去する.補題2によって,$\mathrm{T}$$\mathrm{S}$ のそれぞれに関して四次の関係式が得られる.

$\mathrm{P}_2$は2個とれて,その各々から $C_0$ には $\mathrm{P_2P_1}$ともう一つの接線が引ける. よってこの関係式は $\mathrm{S}=\mathrm{T}$を重根にもつ.その二次関係式で約分される. その式を $T_3(\mathrm{T},\ \mathrm{S})$とすれば. $T_3(\mathrm{T},\ \mathrm{S})$$\mathrm{T}$$\mathrm{S}$のそれぞれに関して二次式で, $T_3(\mathrm{T},\ \mathrm{S})=0$の2根が$\mathrm{P}_3$を与える.

$n\ge 2$に対して $T_n(\mathrm{T},\ \mathrm{S})$が定まったとする. 連立方程式

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
T_n(\mathrm{T},\ \mathrm{U})=0\\
T(\mathrm{S},\ \mathrm{U})=0
\end{array}\right.
\end{displaymath}

$\mathrm{U}$を消去する.補題2によって,$\mathrm{T}$$\mathrm{S}$ のそれぞれに関して四次の関係式が得られる. この4次式は $T_{n-1}(\mathrm{T},\ \mathrm{S})$を因数にもつ. それで約した式を $T_{n+1}(\mathrm{T},\ \mathrm{S})$とすれば. $T_{n+1}(\mathrm{T},\ \mathrm{S})=0$の2根が $\mathrm{P}_{n+1}$を与える.

数学的帰納法によって証明が終わった.□

次に共役二次曲線を定義しよう.

$C$を二次曲線とし,その方程式を $\mathrm{X}A{}^t\mathrm{X}=0$とする. $C$上の点$\mathrm{P}$に対し接線 $\mathrm{P}A{}^t\mathrm{X}=0$を定める. この接線は

\begin{displaymath}
ax_0+bx_1+cx_2=0
\end{displaymath}

という形をしているので$P^2(C)$内の点 $\mathrm{X'}(a,\ b,\ c)$を定める.

\begin{displaymath}
\mathrm{P}A=(a,\ b,\ c)=\mathrm{X'}
\end{displaymath}

$\mathrm{P}$$C$上を動くとき点 $\mathrm{X'}(a,\ b,\ c)$で定まる軌跡を $C$の共役二次曲線といい$C^*$と表す.実際これは二次曲線になる.

$P=\mathrm{X'}A^{-1}$と解いて $\mathrm{X}A{}^t\mathrm{X}=0$に代入すれば

\begin{displaymath}
\mathrm{X'}A^{-1}{}^t\mathrm{X'}=0
\end{displaymath}

が得られる.つまり共役二次曲線は$A$の逆行列で定まる二次曲線である.

定理 12
  1. 二つの二次曲線$C_0$$C_1$は重複度も込めて4個の交点をもつ.
  2. 二つの二次曲線$C_0$$C_1$は重複度も込めて4本の共有接線をもつ.

証明

  1. 二次曲線$C_0$上の点を媒介変数を用いて

    \begin{displaymath}
(u_0(\mathrm{T}),\ u_1(\mathrm{T}),\ u_2(\mathrm{T}))
\end{displaymath}

    と表す.これを$C_1$の方程式

    \begin{displaymath}
\mathrm{X}B{}^t\mathrm{X}=0
\end{displaymath}

    に代入すると,$\mathrm{T}$に関する四次方程式が得られる. この四つの$\mathrm{T}$が交点を与える.
  2. 二つの二次曲線$C_0$$C_1$が共有接線をもつことと, それらの共役二次曲線${C_0}^*$${C_1}^*$が交点をもつことは同値である.

    ところが(1)から二次曲線${C_0}^*$${C_1}^*$は交点を4つ持つので, 二次曲線$C_0$$C_1$は4本の共有接線をもつ.□

定理 13 (ポンスレの閉形定理)

二つの二次曲線$C_0$$C_1$がある.$n\ge3$とし, $C_1$ 上の点$\mathrm{P}_1$ から $C_0$ にひとつの接線をひき, その延長が再び $C_1$ と交わる点を $\mathrm{P}_2$ とする. $\mathrm{P}_2$ から $C_0$ $\mathrm{P_2P_1}$とは異なる接線をひき, その延長が再び $C_1$ と交わる点を $\mathrm{P}_3$ とする. このようにして点$\mathrm{P}_n$を定める.

$C_1$ 上の点$\mathrm{P}_1$ $\mathrm{P}_n=\mathrm{P}_1$となるものが一つ存在すれば, 任意の$\mathrm{P}_1$について $\mathrm{P}_n=\mathrm{P}_1$となる.

証明

補題6によって 点$\mathrm{P}_1$が媒介変数$\mathrm{T}$で表され, 点$\mathrm{P}_n$が媒介変数$\mathrm{S}$で表されるとすると $\mathrm{T}$$\mathrm{S}$の間には,それぞれについて二次の関係式

\begin{displaymath}
T_n(\mathrm{T},\ \mathrm{S})=0
\end{displaymath}

が成立する.

$\mathrm{P}_1$ $\mathrm{P}_n=\mathrm{P}_1$を満たすことは,$\mathrm{T}$

\begin{displaymath}
T_n(\mathrm{T},\ \mathrm{T})=0
\end{displaymath}

を満たすことと同値である.これは$\mathrm{T}$に関して四次である.

定理12 によって $T_n(\mathrm{T},\ \mathrm{T})=0$は四つの根を持つ.

$n\ge3$より,$\mathrm{P}_1$は共通接線の接点ではない. こうして $T_n(\mathrm{T},\ \mathrm{T})=0$は, さらに少なくとも一つ$\mathrm{P}_1$を定める$\mathrm{T}$の値で成立するので, この四次方程式は5個以上の根を持つ.したがって

\begin{displaymath}
T_n(\mathrm{T},\ \mathrm{T})=0
\end{displaymath}

は恒等式であり,任意の$\mathrm{T}$について成立する. つまり任意の$\mathrm{P}_1$について $\mathrm{P}_n=\mathrm{P}_1$となる.

南海  入試問題からはじめて,まずそれを完全な形で解いた. すると,虚数解をもつ四次方程式が現れる. その正体を調べると,虚な共通接線を与える$t$の方程式だった.

入試問題を完全に解明しようとして,複素射影平面に至った. 高校数学や入試数学も学問として研究すれば,代数幾何学の入り口に来る,ということだ.


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