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円の場合を一般的に考える

南海  二つの二次曲線$C_0,\ C_1$と3以上の自然数$n$に関して,
$C_1$上のある点を頂点の一つとし, $C_0$に外接し$C_1$に内接する$n$角形が一つでも存在すれば, 任意の点についてそれを頂点の一つとする同様の$n$角形が存在する.
ことが成り立つ この一般化された問題に可能なかぎり近づいてみよう. まず円の場合である.この場合は根軸が必要だ.

根軸について

南海  『数学対話』の「根軸について」で次の定理を証明した. 二つの二次式

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{ll}
f(x,y)&=x^2+y^2-2ax-2by+c\\
g(x,y)&=x^2+y^2-2px-2qy+r
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

がある. $f(x,y)=0,\,g(x,y)=0$で円が定まるとし,その円を$C_f,\ C_g$とする. このとき$C_f,\ C_g$は同心円でないとする.
  1. $xy$平面の点$\mathrm{P}$から$C_f$$C_g$に接線を引きその接点をそれぞれ $\mathrm{T},\ \mathrm{S}$とする. $\overline{\mathrm{PT}}=\overline{\mathrm{PS}}$となる点$\mathrm{P}$の軌跡は

    \begin{displaymath}
-2(a-p)x-2(b-q)y+c-r=0
\end{displaymath}

    以下このようにして定まる軌跡を「$C_f$$C_g$の根軸」と呼ぶ.
  2. $-1$でない実数$k$に対して, $h_k(x,\ y)=f(x,\ y)+kg(x,\ y)$とおき, $h_k(x,\ y)=0$で円が定まるとき,これを$C_k$とする.二円$C_f,\ C_k$の根軸は, 二円$C_f,\ C_g$の根軸と一致する.
  3. 逆に,平面上の$C_f,\ C_g$とは異なる円$C_0$$C_f$との根軸が, 二円$C_f,\ C_g$の根軸と一致したとする.このとき円$C_0$の式はある実数$j,\ k$ によって $h(x,\ y)=jf(x,\ y)+kg(x,\ y)=0$と表される.

根軸とは二つの円が交わっているときは,二つの共有点を通る直線だが, この直線は,二つの円への接線の長さが等しい点の軌跡でもある. この観点からすると,二円が交わらなくても意味をもつ. ここで「二つの円への接線の長さが等しい」としたところを, 「二つの円への接線の長さの比が等しい」と変えるとどうなるか.

拓生  記号は上と同じにします.点 $\mathrm{P}(X,\ Y)$から二円への接線の長さは, 先の定理の証明と同様に

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{ll}
\overline{\mathrm{PT}}^2&=\o...
...-q)^2 \}-(p^2+q^2-r) \\
&=g(X,\ Y)
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

よって接線の長さの比が$k$であるとすれば

\begin{displaymath}
f(X,\ Y)=kg(X,\ Y)
\end{displaymath}

となり,求める点の軌跡は

\begin{displaymath}
f(x,\ y)-kg(x,\ y)=0
\end{displaymath}

あっ.これはまた根軸が同じになる円になる.

南海 そうなのだ.二つの円 $f(x,\ y)=0,\ g(x,\ y)=0$に対して

\begin{displaymath}
f(x,\ y)-kg(x,\ y)=0
\end{displaymath}

は,$k=1$なら根軸だが,$k$が正の場合$k\ne 1$でもこのような意味がある. $k<0$のときの意味などを考えればおもしろいはずだが,今は次のことを確認しておこう.

補題 2   二つの円への接線の長さの比が一定である点の軌跡は, これら二円と根軸を共有する円になる.

これを用いると次の事実が示される.

補題 3   一つの直線$l$が, 二つの円$O_1,\ O_2$に, それぞれ $\mathrm{P}_1,\ \mathrm{Q}_1$ $\mathrm{P}_2,\ \mathrm{Q}_2$で交わっている. これらの交点におけるそれぞれの円の接線を $p_1,\ q_1\ :\ p_2,\ q_2$とする. このとき$p_1$$p_2$$p_1$$q_2$$q_1$$p_2$$q_1$$q_2$の交点 $\mathrm{A}$$\mathrm{B}$$\mathrm{C}$$\mathrm{D}$は, 二つの円$O_1,\ O_2$と根軸を共有する同一円の周上にある.

証明  $l$$O_1,\ O_2$ の交点での接線が$l$となす角を $\alpha,\ \beta$とする. また図のように接線と円との交点を $\mathrm{P_1,\ Q_1\ :\ P_2,\ Q_2}$とする.

$\bigtriangleup \mathrm{AP_1P_2}$ $\bigtriangleup \mathrm{BP_1Q_2}$, $\bigtriangleup \mathrm{CQ_1P_2}$ $\bigtriangleup \mathrm{DQ_1Q_2}$ に正弦定理を用いると,

\begin{displaymath}
\dfrac{\mathrm{AP_1}}{\mathrm{AP_2}}=\dfrac{\sin \beta}{\si...
...rm{DQ_1}}{\mathrm{DQ_2}}=\dfrac{\sin \beta}{\sin(\pi-\alpha)}
\end{displaymath}
つまり

\begin{displaymath}
\dfrac{\mathrm{AP_1}}{\mathrm{AP_2}}=
\dfrac{\mathrm{BP_1}...
...{CQ_1}}{\mathrm{CP_2}}=
\dfrac{\mathrm{DQ_1}}{\mathrm{DQ_2}}
\end{displaymath}
したがって$\mathrm{A}$$\mathrm{B}$$\mathrm{C}$$\mathrm{D}$は二円への接線の長さの比が 等しいので,この二円と根軸を共有するある円の周上にある.□

円の場合の一般的証明

南海  「ポンスレの閉形定理」に生かすために,この補題を次のようにいいかえよう.


円に内接する四辺形$\mathrm{ABCD}$の対辺 $\mathrm{AB},\ \mathrm{CD}$が一つの円に接するとき, その接点 $\mathrm{P}_1,\ \mathrm{Q_1}$を結ぶ直線が線分 $\mathrm{AC},\ \mathrm{BD}$と交わる点を $\mathrm{P}_2,\ \mathrm{Q_2}$とすれば,この点で $\mathrm{AC},\ \mathrm{BD}$に接する円が存在し, かつこの円は他の二円と根軸を共有する. $\mathrm{P}_2,\ \mathrm{Q_2}$から $\mathrm{AC},\ \mathrm{BD}$に垂線を引きその交点を中心にして, $\mathrm{P}_2$をとおる円を描けばそれは$\mathrm{Q_2}$も通り,題意をみたす.


これから次のポンスレの閉形定理が得られる.

定理 1 (ポンスレの定理)   与えられた円$O$に内接する$n$角形 $\mathrm{A_1A_2\cdots A_n}$がある.

$\mathrm{A_1A_2},\ \cdots,\ \mathrm{A_{n-1}A_n}$はそれぞれ円$O$と根軸共有な 定円 $O_1,\ O_2,\ \cdots ,\ O_{n-1}$に接している. 他の$n$角形 $\mathrm{B_1B_2\cdots B_n}$も 辺 $\mathrm{B_1B_2},\ \cdots,\ \mathrm{B_{n-1}B_n}$がそれぞれ同じ定円 $O_1,\ O_2,\ \cdots ,\ O_{n-1}$に接している.

このとき残る辺 $\mathrm{A_nA_1}$と辺 $\mathrm{B_nB_1}$は円$O$と根軸共有な同一の 定円$O_n$に接している.

証明  円$O$ に内接する四辺形 $\mathrm{A_1A_2B_1B_2}$において辺 $\mathrm{A_1A_2}$と 辺 $\mathrm{B_1B_2}$は同一の定円$O_1$に接するから, $\mathrm{A_1B_1}$, $\mathrm{A_2B_2}$$O,\ O_1$と根軸を共有する一つの円$C$に接する. 同様に $\mathrm{A_2B_2}$, $\mathrm{A_3B_3}$$O,\ O_2$と根軸を共有する一つの円$D$に接する. 円$D$ $\mathrm{A_2B_2}$に接し,しかも $O,\ O_2,\ O_3$と根軸を共有する. ゆえに$C=D$である.

こうして辺 $\mathrm{A_1B_1},\ \mathrm{A_2B_2},\ \cdots,\ \mathrm{A_nB_n}$は同じ円$C$に接する.

四辺形 $\mathrm{A_1B_1A_nB_n}$は円$O$に内接し,辺 $\mathrm{A_1B_1}$と辺 $\mathrm{A_nB_n}$ は円$O$と根軸を共有する円$C$と接する.ゆえに $\mathrm{A_1A_n}$ $\mathrm{B_1B_n}$ も円$O,\ C$と根軸を共有する一定の円に接する.□


この定理の特別な場合として

定理 2 (二円の場合の閉形定理)   一つの定円$C_1$に内接し,他の一つの定円$C_2$に外接する$n$角形 $\mathrm{A_1A_2\cdots A_n}$が一つ存在するとする. このとき$C_1$上の一点$\mathrm{P_1}$から$C_2$にひとつの接線をひき, その延長が再び$C_1$と交わる点を$\mathrm{P_2}$とする. $\mathrm{P_2}$から$C_2$ $\mathrm{P_1P_2}$とは異なる接線をひき,その延長が再び$C_1$と交わる点を$\mathrm{P_3}$とする. 以下同様に,順次 $\mathrm{P_4},\ \cdots,\ \mathrm{P_{n+1}}$を定めると, $\mathrm{P_{n+1}}=\mathrm{P_1}$となる.

証明

これは $O_1=O_2=\cdots =O_{n-1}=O_n=C_2$としてポンスレの定理を用い, $\mathrm{P_nP_1}$$C_2$に接するので, $\mathrm{P_{n+1}}=\mathrm{P_1}$となりこれも$n$角形になる.□


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