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二次曲線の閉形定理

南海 ポンスレの閉形定理に現れた式の意味を考えよう. それを踏まえて一般的に証明することを試みよう.

複素数導入の必然性

南海  われわれは入試問題から出発したので, 二つの二次曲線は相互に離れている場合しか考えなかった. 二つの二次曲線の位置関係はもちろんいろいろあり得る.


次のようなときにもポンスレの閉形定理を考えることができるのではないか.

拓生  $C_1$上の 点$\mathrm{P}_1$から$C_0$に接線を引き, 接線上にある$C_1$の上のもう一つの点を$\mathrm{P}_2$とする. 点$\mathrm{P}_2$から$C_0$に接線を引き, 接線上にある$C_1$の上のもう一つの点を$\mathrm{P}_3$とする. 点$\mathrm{P}_3$から$C_0$に接線を引き, 接線上にある$C_1$の上のもう一つの点を$\mathrm{P}_4$とする.….

これを繰りかえして,元の$\mathrm{P}_1$に戻ってくるかということですね.

ある点$\mathrm{P}_1$からはじめて$n$回で元に戻れば,どこからはじめても元に戻るか. 確かにこのように考えれば,位置関係は自由です.

南海  このような場合座標平面上で,$C_0$$C_1$の両方に接する接線が存在しうる. 共通接線は何本あるのだろう.

拓生  4本,3本,2本,なし,のいろいろあるように思われます.

$n=3$のとき

南海 そこでまず$n=3$のときにいくつかの例を見てみよう.

まず先に考えた円と円で$n=3$の場合の例をもう一度考えよう.

\begin{displaymath}
C_0\ :\ x^2+y^2=1,\ C_1\ :\ (x-a)^2+y^2=r^2
\end{displaymath}

であった.$C_1$上の点 $\mathrm{P}(x,\ y)$が媒介変数$t$を用いて

\begin{displaymath}
x-a=\dfrac{r(1-t^2)}{1+t^2},\ y=\dfrac{2rt}{1+t^2}
\end{displaymath}

と表され,点$\mathrm{Q}$も同様に媒介変数$s$で表されるとき, 直線$\mathrm{PQ}$$C_0$と接するための条件は

\begin{displaymath}
T(s,\,t)=\{(r-a)st+r+a\}^2-(st-1)^2-(s+t)^2
\end{displaymath}

であった.そして$\mathrm{P}$からはじめて, 接線の他の交点を $\mathrm{Q},\ \mathrm{R},\ \mathrm{S}$ととるとき, $\mathrm{S}=\mathrm{P}$となるための必要十分条件が

\begin{eqnarray*}
H(t)&=&<(r-a)\{(r+a)^2-t^2-1\}+(r+a)[\{(r-a)^2-1\}t^2-1]>^2\\
&&-\{(r+a)^2+(r-a)^2t^2\}^2
\end{eqnarray*}

とおくとき,$H(t)=0$となるのであった. そこで,共通接線との関連を調べよう.

$C_1$上の点 $\mathrm{P}(x_1,\ y_1)$

\begin{displaymath}
x_1-a=\dfrac{r(1-t^2)}{1+t^2},\ y_1=\dfrac{2rt}{1+t^2}
\end{displaymath}

と表されるとき, 点$\mathrm{P}$での接線が$C_0$とも接するための$t$に関する条件を求めてみてほしい.

拓生  接線の式は

\begin{displaymath}
(x_1-a)(x-a)+y_1y=r^2
\end{displaymath}

これが$C_0$とも接すればよいので

\begin{displaymath}
\dfrac{-a(x_1-a)-r^2}{\sqrt{(x_1-a)^2+{y_1}^2}}=1
\end{displaymath}

ここで $(x_1-a)^2+{y_1}^2=r^2$なので,条件は

\begin{displaymath}
\{a(x_1-a)+r^2\}^2-r^2=0
\end{displaymath}

この式を因数分解して $x_1-a=\dfrac{r(1-t^2)}{1+t^2}$を代入する.

\begin{displaymath}
\{ar(1-t^2)+(r^2-r)(1+t^2)\}\{ar(1-t^2)+(r^2+r)(1+t^2)\}=0
\end{displaymath}

$r$を約して整理する.

\begin{displaymath}
\{(r-a-1)t^2+r+a-1\}\{(r-a+1)t^2+r+a+1\}=0
\end{displaymath}

これは定数倍を除くと$H(t)$と同じ式だ.

なぜ$n=3$のとき,$H(t)=0$は共通接線を与える式になるのか. でもそれが虚根ということは?

南海 

\begin{displaymath}
x^2+y^2=1,\ (x-a)^2+y^2=r^2
\end{displaymath}

の共通接線を実際に求めてほしい.

拓生  共通接線を$mx+ny+1=0$とおきます.両方と接するので

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{\sqrt{m^2+n^2}}=1,\ \dfrac{\vert ma+1\vert}{\sqrt{m^2+n^2}}=r
\end{displaymath}

です.これから$ma+1=\pm r$. また $n^2=1-\dfrac{(-1\pm r)^2}{a^2}$, だから接線は

\begin{displaymath}
\dfrac{-1\pm r}{a}x
\pm\sqrt{1-\dfrac{(-1\pm r)^2}{a^2}}y+1=0
\ (第一,第三複号同順)
\end{displaymath}

となります.根号内が負になるときはもう$xy$平面での直線ではありえません.

南海  図形的にはともかく,それぞれの円の式と連立させて共通根を求めれば,それが重根になることはまちがいない.もちろん点と直線の距離の式は使えないが,$x$$y$を消去して得られる二次式の判別式をとれば,距離の式から得られる式と同じ式が得られる.つまり虚根も考えれば,上の接線の式は$C_0,\ C_1$の双方と重根をもつ.そういう意味ではもとの二つの二次曲線とそれぞれ重根をもつ共通接線はつねに4本あるということになる.

放物線と円で$n=3$のとき

南海  念のため,その他の場合も$H(t)=0$の根と共通接線の関係を確認しておいてほしい.

拓生 

\begin{displaymath}
H(t)=(b-a-1)(b-a+1)\{a^2t^4+2a(b-2a)t^2+b^2-1\}
\end{displaymath}

$H(t)=0$$t^2$の二次方程式と見て0以上の解をもつ条件と共通接線の個数の関係を調べればよい.

$b^2-1\le 0$なら$t^2\ge 0$の解は一つ. $t^2>0$の解が二つになるのは,

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
D>0\iff a+\dfrac{1}{4a}>b\\
...
...-1>0\\
-(b-2a)>0\iff a>\dfrac{b}{2}
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

のとき. これは$b<-1$ $b>1,\ a+\dfrac{1}{4a}>b,\ a>\dfrac{b}{2}$のときで, 位置関係はそれぞれ図のようになり,共通接線はそれぞれ2本,4本,4本である.

楕円と円で$n=3$のとき


\begin{eqnarray*}
H(t)&=&(ab+a+b)(ab+a-b)(ab-a+b)(ab-a-b) \\
&&\times \{b^2(1-a^2)t^4+2(2a^2-b^2-a^2b^2)t^2+b^2(1-a^2)\}
\end{eqnarray*}

なので2根の積は1.$H(t)=0$が実数解をもつのは$a$$b$が1で接する場合を除くと

\begin{displaymath}
D/4=4a^2(a^2-b^2)(1-b^2)> 0,\ 軸:-\dfrac{a^2-b^2+a^2(1-b^2)}{1-a^2}> 0
\end{displaymath}

のとき.これは$a<1<b$または$b<1<a$なので円と楕円が4つの交点を持ち, 確かに4つの共通接線をもつ.

南海  $n=3$の場合をまとめる. $C_0$を円$x^2+y^2=1$とし,$C_1$を次のようにとる. このときの$T(s,\ t)$$H(t)$である.

(i)
放物線$y=ax^2-b$

\begin{eqnarray*}
T(s,\,t)&=&(ast+b)^2-a^2(s+t)^2-1\\
H(t)&=&(b-a-1)(b-a+1)\{a^2t^4+2a(b-2a)t^2+b^2-1\}
\end{eqnarray*}

(ii)
$(x-a)^2+y^2=r$

\begin{eqnarray*}
T(s,\,t)&=&\{(r-a)st+r+a\}^2-(st-1)^2-(s+t)^2\\
H(t)&=&\{(r^2-a^2)^2-4r^2\}[\{(r-a)t^2+r+a\}^2-(t^2+1)^2]
\end{eqnarray*}

(iii)
楕円 $\dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}=1$

\begin{eqnarray*}
T(s,\,t)&=&T(t,\ s)=a^2(s+t)^2+b^2(1-st)^2-a^2b^2(1+st)^2\\
H(t)&=&b^2(1-a^2)t^4+2(2a^2-b^2-a^2b^2)t^2+b^2(1-a^2)=0
\end{eqnarray*}

いずれも先に注意したように

\begin{displaymath}
\lim_{s \to t}T(s,\ t)=定数\times H(t)
\end{displaymath}

である.

このように以上の例は,$n=3$のときは, $\mathrm{P}(t)$から共通接線が引けるような$t$が, $\mathrm{P}(t)$を頂点とする三角形が出来る条件式を満たす ことを示している.

これはなぜだろうか. $n=3$のときの$H(t)$の構成法にかなった方程式$H(t)=0$の自明な 解が,共通接線となる4個の$t$なのだ.

$H(t)$をどのように構成したか.図の上のように, $\mathrm{P}(t)$から2本の接線 $\mathrm{P}_1\mathrm{P}_2$ $\mathrm{P}_1\mathrm{P}_3$を引く.直線 $\mathrm{P}_2\mathrm{P}_3$$C_0$に接する条件が$H(t)=0$であった.

$\mathrm{P}_1$を共通接線になる点とする.このときは $\mathrm{P}_2=\mathrm{P}_1$となる.よって作り方から直線 $\mathrm{P}_2\mathrm{P}_3$$C_0$に接する.

かくして4次方程式$H(t)=0$はつねに4個の自明な根をもつ. したがってその他にもう1個これを満たす根があれば$H(t)=0$は恒等式となり すべての$t$で成立する.

拓生  これは$n=3$の場合の一般的な証明になっています.

$n=4$のとき


南海  $n=4$の場合,意味はわかりにくい. 以下の考察の結論は今後の課題として,いくつかの計算はしておこう.

すでに計算を行った楕円と円で$n=4$のときと同様に, 放物線と円で$n=4$のときを計算してみる. 実際の計算はRisa/Asirで行った.

放物線と円で$n=4$のとき


\begin{eqnarray*}
T(s,\ t)&=&(a^2t^2-a^2)s^2+(-2a^2+2ba)ts-a^2t^2+b^2-1\\
T(u,\ s)&=&(a^2s^2-a^2)u^2+(-2a^2+2ba)su-a^2s^2+b^2-1
\end{eqnarray*}

から$s$を消去し,$(t-u)^2$で約すると

\begin{eqnarray*}
&&((4a^4-8ba^3+4b^2a^2)t^2-a^4+(2b^2-2)a^2-b^4+2b^2-1)u^2\\ 
...
...^4+(2b^2-2)a^2-b^4+2b^2-1)t^2+(4b^2-4)a^2+(-8b^3+8b)a+4b^4-4b^2
\end{eqnarray*}

となる.この判別式を求め因数分解する.

\begin{displaymath}
16(a-b)^2(a^2-b^2+1)^2(a^2t^4+(-2ba+1)t^2+b^2-1)=0
\end{displaymath}

が得られる. つまり

\begin{displaymath}
H(t)=(a-b)^2(a^2-b^2+1)^2(a^2t^4+(-2ba+1)t^2+b^2-1)
\end{displaymath}

である.$n=4$の場合,$H(t)$$n=3$のときとは違う式になる. この式の図形的な意味はよくわからない.

楕円と円で$n=4$のとき


拓生  楕円と円で$n=4$のときも,$H(t)$$n=3$のときとは違う式になります.

\begin{displaymath}
H(t)=(a^2-1)t^4+2(2b^2-a^2-1)t^2+(a^2-1)=0
\end{displaymath}

でした.

南海 この場合も,式の図形的な意味はよくわからない.

拓生  円と二次曲線のいくつかの実例では, すべて最後に点$\mathrm{P}$を媒介変数表示したときの変数$t$についての4次方程式が得られました.そしてそれが恒等的に0になることを示そうとしました. 恒等的に0になるためには,実根でなくても虚根を含めて, しかも重根の場合は重複度も含めて,次数より1多い根があればそれで恒等的に0になるのでした.図形から出発したので実数解ばかり考えますが,恒等式かどうかの判断は実数でなくてもよい.

$n=3$のときは自明な4解があり,その他に1解があれば恒等式なることがわかりました.これは,共通接線が実座標平面上にあってもなくても,かまいませんでした. $n=4$のとき入試問題では$H(t)=0$が虚数解をもち,かつ座標平面上に一つの四角形が存在することから,恒等式であることを示しました.

しかし$n=4$のとき,自明な4解の存在はまだ見いだせていません. 一般的にはつねに虚数解とはかぎらないので, この段階ではつねに恒等式なるとはまだいえていません.

複素射影空間内での証明

南海 その通りなのだが,実は考察をもう少し精緻にすると, ポンスレの定理は証明されているといえる.

そのため 媒介変数$t$と曲線の置かれた場である平面も,すべて射影空間で考えなければならない. また,すべて複素数体上で考えなければならない.

拓生  媒介変数を射影直線にすることで, 例えば楕円の場合に$(-a,\ 0)$を除くという例外がなくなる. また,二次曲線を射影平面で考えることで,放物線と円の場合にあった, 「$x$座標が$\pm 1$と異なる$C_1$上の点」という例外がいらなくなる.

南海 そうだ.そこで話を進めよう.


射影直線$P^1(C)$を次のように定める. $(0,\ 0)$でない複素数の組$(t_0,\ t_1)$の集合を考える. $(t_0,\ t_1)=k(s_0,\ s_1)$となる複素数$k$が存在するとき, この二つの組は同値とし, この同値関係で複素数の組$(t_0,\ t_1)$の集合を類別したものを, 一次元射影空間といい$P^1(C)$と表す. これは実軸に無限遠点を加えたものを複素数に拡張したものである.

同様に 射影平面$P^2(C)$を次のように定める. $(0,\ 0,\ 0)$でない複素数の組 $(x_0,\ x_1,\ x_2)$の集合を考え, $(x_0,\ x_1,\ x_2)=k(y_0,\ y_1,\ y_2)$となる複素数$k$が存在するとき, この二つの組は同値とする. この同値関係で複素数の組 $(x_0,\ x_1,\ x_2)$の集合を類別したものを, 二次元射影空間といい$P^2(C)$と表す. 今後 $(x_0,\ x_1,\ x_2)$を必要に応じて$\mathrm{X}$のような大文字で表そう.

拓生  二次曲線$C$を射影座標で表す.

\begin{displaymath}
f(\mathrm{X})=a{x_1}^2+b{x_2}^2+c{x_0}^2+2hx_1x_2+2lx_1x_0+2mx_2x_0
\end{displaymath}

を用いて方程式 $f(\mathrm{X})=0$で二次曲線$C$が定まる. このとき$C$上の点 $\mathrm{P}(p_0,\ p_1,\ p_2)$における接線の式は

\begin{displaymath}
L(\mathrm{P},\ \mathrm{X})
=ap_1x_1+bp_2x_2+cp_0x_0+h(p_2x_1+p_1x_2)+l(p_0x_1+p_1x_0)+m(p_0x_2+p_2x_0)
\end{displaymath}

を用いて方程式 $L(\mathrm{P},\ \mathrm{X})=0$で表される.

南海  そう.これをそのまま係数を複素数まで認めることにして拡張すればよい. ちなみに行列

\begin{displaymath}
A=
\left(
\begin{array}{ccc}
c&l&m\\
l&a&h\\
m&h&b
\end{array}
\right)
\end{displaymath}

を用いると

\begin{displaymath}
f(\mathrm{X})=\mathrm{X}A{}^t\mathrm{X},\ L(\mathrm{P},\ \mathrm{X})=\mathrm{P}A{}^t\mathrm{X}
\end{displaymath}

となる.ここで ${}^t\mathrm{X}$$\mathrm{X}$を縦に書いた $\left(
\begin{array}{c}
x_0\\
x_1\\
x_2
\end{array}
\right)$を表す.

『射影幾何』では標準的なベクトルを縦ベクトルことが多いが,いずれでもよい.


さて複素数体上の二次曲線 $C:f(\mathrm{X})=0$は適当な一次変換によって

\begin{displaymath}
x_0^2+x_1^2+x_2^2=0
\end{displaymath}

という標準形になり, それらは二次式による媒介変数表示

\begin{displaymath}
x_0=it_0^2-it_1^2,\ x_1=2t_0t_1,\ x_2=t_0^2+t_1^2
\end{displaymath}

をもつ.

つまり二次曲線$C$上の点$\mathrm{P}$は2次の同次式を用いて

\begin{displaymath}
\mathrm{P}=(u_0(\mathrm{T}),\ u_1(\mathrm{T}),\ u_2(\mathrm{T}))
\end{displaymath}

と表される.ここで $\mathrm{T}=(t_0,\ t_1)$は射影直線上の点である.


次に二次行列 $A=\left(
\begin{array}{cc}
a&b\\
c&d\\
\end{array}
\right)$に対して$\vert A\vert=ad-bc$を行列式といい $\vert A\vert=\left\vert
\begin{array}{cc}
a&b\\
c&d\\
\end{array}
\right\vert$と表す. さらに三次行列 $A=\left(
\begin{array}{ccc}
a&b&c\\
d&e&f\\
g&h&i
\end{array}
\right)$に対しその行列式$\vert A\vert$

\begin{displaymath}
\vert A\vert=\left\vert
\begin{array}{ccc}
a&b&c\\
d...
...begin{array}{cc}
d&e\\
g&h\\
\end{array}
\right\vert
\end{displaymath}

で定める. 射影平面の2点 $\mathrm{P}(p_0,\ p_1,\ p_2)$ $\mathrm{Q}(q_0,\ q_1,\ q_2)$ を通る直線の式は

\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{ccc}
x_0&x_1&x_2\\
p_0&p_1&p_2\\
q_0&q_1&q_2
\end{array}
\right\vert=0
\end{displaymath}

で表される. これは$\mathrm{X}$の一次式であり, $\mathrm{X}=\mathrm{P},\ \mathrm{Q}$で成立することからわかる.

補題 4  

二つの二次曲線$C_0$$C_1$がある.$C_1$上の2点 $\mathrm{P},\ \mathrm{Q}$が それぞれ媒介変数 $\mathrm{T},\ \mathrm{S}$で表されているとする. 直線$\mathrm{PQ}$$C_0$に接するための必要十分条件は, $\mathrm{T},\ \mathrm{S}$のそれぞれに関する二次の等式で表される.

証明

二次曲線$C_0$$C_1$はそれぞれ行列$A$$B$をもちいて

\begin{displaymath}
\mathrm{X}A{}^t\mathrm{X}=0,\ \mathrm{X}B{}^t\mathrm{X}=0
\end{displaymath}

と表されるとする. $\mathrm{P},\ \mathrm{Q}$はそれぞれ二次式によって $(u_0(\mathrm{T}),\ u_1(\mathrm{T}),\ u_2(\mathrm{T}))$, $(u_0(\mathrm{S}),\ u_1(\mathrm{S}),\ u_2(\mathrm{S}))$と表される. よって直線$\mathrm{PQ}$

\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{ccc}
x_0&x_1&x_2\\
u_0(\mat...
...&u_1(\mathrm{S})&u_2(\mathrm{S})
\end{array}
\right\vert=0
\end{displaymath}

となる.これは

\begin{displaymath}
\left(
\left\vert
\begin{array}{cc}
u_1(\mathrm{T})&u_...
...rm{S})\\
\end{array}
\right\vert
\right){}^t\mathrm{X}=0
\end{displaymath}

とも書ける. 一方$C_0$上の点$\mathrm{M}$での接線は

\begin{displaymath}
\mathrm{M}A{}^t\mathrm{X}=0
\end{displaymath}

と表される.これが直線$\mathrm{PQ}$と一致するので,

\begin{displaymath}
\mathrm{M}A=
\left(
\left\vert
\begin{array}{cc}
u_1(...
...rm{S})&u_1(\mathrm{S})\\
\end{array}
\right\vert
\right)
\end{displaymath}

である.つまり

\begin{displaymath}
\mathrm{M}=
\left(
\left\vert
\begin{array}{cc}
u_1(\...
...&u_1(\mathrm{S})\\
\end{array}
\right\vert
\right)A^{-1}
\end{displaymath}

この$\mathrm{M}$$\mathrm{T}$$\mathrm{S}$のそれぞれについて一次式である. この$\mathrm{M}$$C_0$上に存在することが,$\mathrm{PQ}$$C_0$に接することを意味する.

この$\mathrm{M}$$C_0$の方程式 $\mathrm{X}A{}^t\mathrm{X}=0$に代入すると, 確かに $\mathrm{T},\ \mathrm{S}$のそれぞれに関する二次の等式になっている.□

この双二次式を $T(\mathrm{T},\ \mathrm{S})$と表す. またこの式を $T(\mathrm{P},\ \mathrm{Q})$とも表す.

補題 5  

二つの二次曲線$C_0$$C_1$がある. $C_1$上の点$\mathrm{P}_1$から$C_0$にひとつの接線をひき, その延長が再び$C_1$と交わる点を$\mathrm{P}_2$とする. $\mathrm{P}_2$から$C_0$ $\mathrm{P_2P_1}$とは異なる接線をひき, その延長が再び$C_1$と交わる点を$\mathrm{P}_3$とする. このようにして点$\mathrm{P}_n$を定める.

$\mathrm{P}_1$が媒介変数$\mathrm{T}$で表され, 点$\mathrm{P}_n$が媒介変数$\mathrm{S}$で表されるとすると $\mathrm{T}$$\mathrm{S}$の間には,それぞれについて二次の関係式

\begin{displaymath}
T_n(\mathrm{T},\ \mathrm{S})=0
\end{displaymath}

が成立し,これによって$\mathrm{S}$が決定する.

証明

数学的帰納法で示す.

$n=1$のとき. $T_n(\mathrm{T},\ \mathrm{S})=T(\mathrm{T},\ \mathrm{S})$ なので成立する.

$n=2$のとき. $\mathrm{P}_2(\mathrm{U})$として,連立方程式

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
T(\mathrm{T},\ \mathrm{U})=0\\
T(\mathrm{S},\ \mathrm{U})=0
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

から$\mathrm{U}$を消去する.補題1によって,$\mathrm{T}$$\mathrm{S}$ のそれぞれに関して四次の関係式が得られる.

$\mathrm{P}_2$は2個とれて,その各々から$C_0$には $\mathrm{P_2P_1}$ともう一つの接線が引ける. よってこの関係式は $\mathrm{S}=\mathrm{T}$を重根にもつ.その二次関係式で約分される. その式を $T_3(\mathrm{T},\ \mathrm{S})$とすれば. $T_3(\mathrm{T},\ \mathrm{S})$$\mathrm{T}$$\mathrm{S}$のそれぞれに関して二次式で, $T_3(\mathrm{T},\ \mathrm{S})=0$の2根が$\mathrm{P}_3$を与える.

$n\ge 2$に対して $T_n(\mathrm{T},\ \mathrm{S})$が定まったとする. 連立方程式

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
T_n(\mathrm{T},\ \mathrm{U})=0\\
T(\mathrm{S},\ \mathrm{U})=0
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

$\mathrm{U}$を消去する.補題1によって,$\mathrm{T}$$\mathrm{S}$ のそれぞれに関して四次の関係式が得られる. この4次式は $T_{n-1}(\mathrm{T},\ \mathrm{S})$を因数にもつ. それで約した式を $T_{n+1}(\mathrm{T},\ \mathrm{S})$とすれば. $T_{n+1}(\mathrm{T},\ \mathrm{S})=0$の2根が $\mathrm{P}_{n+1}$を与える. 数学的帰納法によって証明が終わった.□

例 1.1   非斉次式で示す.

$C_0:x^2+y^2=1$$C_1:y=ax^2-b$のとき.

\begin{eqnarray*}
T_1(t,\ s)&=&(ast+b)^2-a^2(s+t)^2-1\\
T_2(t,\ s)&=&\{(4a^4-...
...&&+(-12b^8+40b^6-48b^4+24b^2-4)a^2+b^10-5b^8+10b^6-10b^4+5b^2-1
\end{eqnarray*}

計算はRisa/Asirによる. このように式は複雑になってゆくが,$t$$s$の双2次式であることは変わりない. $t=t_1/t_0,\ s=s_1/s_0$で斉次式に直せば射影直線を媒介変数とする式が得られる.

拓生  この結果,$S=T$とおいた式から4次方程式が得られる.

\begin{displaymath}
T(T,\ T)=0
\end{displaymath}

です.これはこれまでの考察で$H(t)=0$としてきたものと,同様の役割を果たします.

$n=3$のときは,これまでの方法で$H(t)=0$を作ると,共通接線から4個の自明な解があり, その他に一つあれば恒等式でした.

$n=4$のときはまだ一般的には解けていません.

南海  以下では簡単のために媒介変数を非斉次でとり,小文字の$t$などを使おう.

$n\ge 5$のとき. $n$個の点を

\begin{displaymath}
\mathrm{P}_1(t_1),\ \mathrm{P}_2(t_2),\ \cdots,\ \mathrm{P}_n(t_n)
\end{displaymath}

とする.ただし $\mathrm{P}_i(t_i)$は媒介変数が$T=T_i$に対応する点が $\mathrm{P}_i$であることを意味する. これらの点は,そのどこからはじめても元に戻るのであるから, $T_n(t,\ t)=0$の解として

\begin{displaymath}
t=t_1,\ t_2,\ \cdots,\ t_n
\end{displaymath}

$n$個が存在する.

拓生  あっ,そうか.$n\ge 5$ならこの時点で恒等式とわかるのだ.

$n=4$のときだけが残った.

南海  実はこの場合もできるのだ. $T_n(t,\ t)=0$$n$個の解として $t=t_1,\ t_2,\ \cdots,\ t_n$が存在したが, これらは重根のはずだ.

一般に$u$を固定すると

\begin{displaymath}
T(t,\ u)=0
\end{displaymath}

$t$の2次方程式となり,一般に$t$は2個定まる. $i$を1から$n$のいずれかとして$u=t_i$とする.

\begin{displaymath}
T(t,\ t_i)=0
\end{displaymath}

$t$の2次方程式でこのとき$t=t_i$が重根になる. 言いかえると,4次方程式$T(t,\ t)=0$において $t=t_i$は重根である.

拓生  ということは$n$に対して4次方程式$T(t,\ t)=0$は重複度も含めて$2n$個の 根があるのか.

南海  これを定理にまとめておこう.

定理 3 (ポンスレの閉形定理)  

二つの二次曲線$C_0$$C_1$がある.$n\ge3$とし, $C_1$上の点$\mathrm{P}_1$から$C_0$にひとつの接線をひき, その延長が再び$C_1$と交わる点を$\mathrm{P}_2$とする. $\mathrm{P}_2$から$C_0$ $\mathrm{P_2P_1}$とは異なる接線をひき, その延長が再び$C_1$と交わる点を$\mathrm{P}_3$とする. このようにして点$\mathrm{P}_n$を定める.

$C_1$上の点$\mathrm{P}_1$ $\mathrm{P}_n=\mathrm{P}_1$となるものが存在すれば, 任意の$\mathrm{P}_1$について $\mathrm{P}_n=\mathrm{P}_1$となる. ■

証明

$i=1,\ 2,\ \cdots,\ n$に対し 点$\mathrm{P}_i$が媒介変数$t_i$で表されるとする.

一般に$t_1$$t_n$の間には,それぞれについて2次の関係式

\begin{displaymath}
T_n(t_1,\ t_n)=0
\end{displaymath}

が成立する. 点$\mathrm{P}_1$ $\mathrm{P}_n=\mathrm{P}_1$を満たすことは,$t_1$

\begin{displaymath}
T_n(t_1,\ t_1)=0
\end{displaymath}

を満たすことと同値である.これが他の$t_i$についても成立する.

さらに, $i$を1から$n$のいずれかとして$u=t_i$とする.

\begin{displaymath}
T(t,\ t_i)=0
\end{displaymath}

$t$の2次方程式で$t=t_i$は重根である.

$n(\ge 3)$に対して4次方程式$T(t,\ t)=0$は重複度も含めて$2n(\ge 6)$個の 根をもつ.よって等式$T(t,\ t)=0$は恒等式であり, 任意の$t$に対して成立する. $\mathrm{P}_1$を任意にとり,順次$\mathrm{P}_i$を定めるとき, $\mathrm{P}_n=\mathrm{P}_1$となる.  □

南海  入試問題からはじめて,まずそれを完全な形で解いた. すると,虚数解をもつ4方程式が現れる. その正体を調べると,虚な共通接線を与える$t$の方程式だった. こうして複素数の世界を垣間見た. それをもとに図形的考察から離れて複二次式の代数的考察にうつり, ポンスレの定理を証明した.

入試問題を解明しようとし,そこに現れた式の意味を考えることで複素数の世界に至った. 高校数学や入試数学も学問として研究すれば, 代数幾何学の入り口に来る,ということだ.

しかしまだ手をつけていないところがある. $C_1$上の点$\mathrm{P}$から$C_0$に接線を引く. その接点を$\mathrm{Q}$とする. これらの点の媒介変数表示 $\mathrm{P}(p)$$\mathrm{Q}(q)$に対し, $p$$q$の間にどのような関係があるかということである. ここから楕円曲線が現れる. ここから先は『パスカルの定理と幾何学の精神』のなかの「ポンスレの定理」に譲ろう.


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