次のようなときにもポンスレの閉形定理を考えることができるのではないか.
拓生 上の 点からに接線を引き, 接線上にあるの上のもう一つの点をとする. 点からに接線を引き, 接線上にあるの上のもう一つの点をとする. 点からに接線を引き, 接線上にあるの上のもう一つの点をとする.….
これを繰りかえして,元のに戻ってくるかということですね.
ある点からはじめて回で元に戻れば,どこからはじめても元に戻るか. 確かにこのように考えれば,位置関係は自由です.
南海 このような場合座標平面上で,との両方に接する接線が存在しうる. 共通接線は何本あるのだろう.拓生 4本,3本,2本,なし,のいろいろあるように思われます.
まず先に考えた円と円での場合の例をもう一度考えよう.
上の点
が
拓生
接線の式は
なぜのとき,は共通接線を与える式になるのか. でもそれが虚根ということは?
南海
拓生
共通接線をとおきます.両方と接するので
南海 図形的にはともかく,それぞれの円の式と連立させて共通根を求めれば,それが重根になることはまちがいない.もちろん点と直線の距離の式は使えないが,かを消去して得られる二次式の判別式をとれば,距離の式から得られる式と同じ式が得られる.つまり虚根も考えれば,上の接線の式はの双方と重根をもつ.そういう意味ではもとの二つの二次曲線とそれぞれ重根をもつ共通接線はつねに4本あるということになる.
拓生
ならの解は一つ.
の解が二つになるのは,
南海 の場合をまとめる. を円とし,を次のようにとる. このときの,である.
このように以上の例は,のときは,
から共通接線が引けるようなが,
を頂点とする三角形が出来る条件式を満たす
ことを示している.
これはなぜだろうか. のときのの構成法にかなった方程式の自明な 解が,共通接線となる4個のなのだ.
をどのように構成したか.図の上のように, から2本の接線 , を引く.直線 がに接する条件がであった.
点を共通接線になる点とする.このときは となる.よって作り方から直線 はに接する.
かくして4次方程式はつねに4個の自明な根をもつ. したがってその他にもう1個これを満たす根があればは恒等式となり すべてので成立する.
拓生 これはの場合の一般的な証明になっています.
すでに計算を行った楕円と円でのときと同様に, 放物線と円でのときを計算してみる. 実際の計算はRisa/Asirで行った.
南海 この場合も,式の図形的な意味はよくわからない.
拓生 円と二次曲線のいくつかの実例では, すべて最後に点を媒介変数表示したときの変数についての4次方程式が得られました.そしてそれが恒等的に0になることを示そうとしました. 恒等的に0になるためには,実根でなくても虚根を含めて, しかも重根の場合は重複度も含めて,次数より1多い根があればそれで恒等的に0になるのでした.図形から出発したので実数解ばかり考えますが,恒等式かどうかの判断は実数でなくてもよい.
のときは自明な4解があり,その他に1解があれば恒等式なることがわかりました.これは,共通接線が実座標平面上にあってもなくても,かまいませんでした. のとき入試問題ではが虚数解をもち,かつ座標平面上に一つの四角形が存在することから,恒等式であることを示しました.
しかしのとき,自明な4解の存在はまだ見いだせていません. 一般的にはつねに虚数解とはかぎらないので, この段階ではつねに恒等式なるとはまだいえていません.
そのため 媒介変数と曲線の置かれた場である平面も,すべて射影空間で考えなければならない. また,すべて複素数体上で考えなければならない.
拓生 媒介変数を射影直線にすることで, 例えば楕円の場合にを除くという例外がなくなる. また,二次曲線を射影平面で考えることで,放物線と円の場合にあった, 「座標がと異なる上の点」という例外がいらなくなる.
南海 そうだ.そこで話を進めよう.
射影直線を次のように定める. でない複素数の組の集合を考える. となる複素数が存在するとき, この二つの組は同値とし, この同値関係で複素数の組の集合を類別したものを, 一次元射影空間といいと表す. これは実軸に無限遠点を加えたものを複素数に拡張したものである.
同様に 射影平面を次のように定める. でない複素数の組 の集合を考え, となる複素数が存在するとき, この二つの組は同値とする. この同値関係で複素数の組 の集合を類別したものを, 二次元射影空間といいと表す. 今後 を必要に応じてのような大文字で表そう.
拓生
二次曲線を射影座標で表す.
南海
そう.これをそのまま係数を複素数まで認めることにして拡張すればよい.
ちなみに行列
『射影幾何』では標準的なベクトルを縦ベクトルことが多いが,いずれでもよい.
さて複素数体上の二次曲線
は適当な一次変換によって
つまり二次曲線上の点は2次の同次式を用いて
次に二次行列
に対してを行列式といい
と表す.
さらに三次行列
に対しその行列式を
二つの二次曲線とがある.上の2点 が それぞれ媒介変数 で表されているとする. 直線がに接するための必要十分条件は, のそれぞれに関する二次の等式で表される.
証明
二次曲線とはそれぞれ行列とをもちいて
このをの方程式 に代入すると, 確かに のそれぞれに関する二次の等式になっている.□
この双二次式を と表す. またこの式を とも表す.
二つの二次曲線とがある. 上の点からにひとつの接線をひき, その延長が再びと交わる点をとする. からに とは異なる接線をひき, その延長が再びと交わる点をとする. このようにして点を定める.
点が媒介変数で表され,
点が媒介変数で表されるとすると
との間には,それぞれについて二次の関係式
証明
数学的帰納法で示す.
のとき. なので成立する.
のとき.
として,連立方程式
は2個とれて,その各々からには ともう一つの接線が引ける. よってこの関係式は を重根にもつ.その二次関係式で約分される. その式を とすれば. はとのそれぞれに関して二次式で, の2根がを与える.
に対して
が定まったとする.
連立方程式
,のとき.
拓生
この結果,とおいた式から4次方程式が得られる.
のときは,これまでの方法でを作ると,共通接線から4個の自明な解があり, その他に一つあれば恒等式でした.
のときはまだ一般的には解けていません.
南海 以下では簡単のために媒介変数を非斉次でとり,小文字のなどを使おう.
のとき.
個の点を
拓生 あっ,そうか.ならこの時点で恒等式とわかるのだ.
のときだけが残った.
南海 実はこの場合もできるのだ. の個の解として が存在したが, これらは重根のはずだ.
一般にを固定すると
拓生 ということはに対して4次方程式は重複度も含めて個の 根があるのか.
南海 これを定理にまとめておこう.
二つの二次曲線とがある.とし, 上の点からにひとつの接線をひき, その延長が再びと交わる点をとする. からに とは異なる接線をひき, その延長が再びと交わる点をとする. このようにして点を定める.
上の点で となるものが存在すれば, 任意のについて となる. ■
証明
に対し 点が媒介変数で表されるとする.
一般にとの間には,それぞれについて2次の関係式
さらに,
を1からのいずれかとしてとする.
に対して4次方程式は重複度も含めて個の 根をもつ.よって等式は恒等式であり, 任意のに対して成立する. を任意にとり,順次を定めるとき, となる. □
南海 入試問題からはじめて,まずそれを完全な形で解いた. すると,虚数解をもつ4方程式が現れる. その正体を調べると,虚な共通接線を与えるの方程式だった. こうして複素数の世界を垣間見た. それをもとに図形的考察から離れて複二次式の代数的考察にうつり, ポンスレの定理を証明した.
入試問題を解明しようとし,そこに現れた式の意味を考えることで複素数の世界に至った. 高校数学や入試数学も学問として研究すれば, 代数幾何学の入り口に来る,ということだ.
しかしまだ手をつけていないところがある. 上の点からに接線を引く. その接点をとする. これらの点の媒介変数表示 とに対し, との間にどのような関係があるかということである. ここから楕円曲線が現れる. ここから先は『パスカルの定理と幾何学の精神』のなかの「ポンスレの定理」に譲ろう.