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連立方程式(漸化式)による解き方

k連勝している人が先頭にいるときのm番目にいる人の 優勝する確率をPk,mとおきます. ( $0\le k \le n-1, 1\le m \le n $

$P_{0,1},P_{0,2},\dots ,P_{0,n}$を求めることが 最終目標です.

(n-1)連勝しているとき 先頭の人が優勝しているのだから


\begin{displaymath}P_{n-1,1}=1,P_{n-1,2}=\cdots =P_{n-1,n}=0
\end{displaymath}

が成り立ちます.

次に,k連勝 $(0\ge k\ge n-2)$しているとき, 先頭の二人が勝負することを考えましょう.

先頭にいる人は,1/2の確率で(k+1)連勝するか, 1/2の確率で負けるかのどちらかです.

ですから,


\begin{displaymath}P_{k,1}=\frac{1}{2} P_{k+1,1}+\frac{1}{2}P_{1,n}.
\end{displaymath}

同様に,2番目の人は


\begin{displaymath}P_{k,2}=\frac{1}{2} P_{k+1,n}+\frac{1}{2}P_{1,1}.
\end{displaymath}

3番目以降の人は,自らは勝負をしませんが ひとつ順番があがることに注意しましょう.


\begin{displaymath}P_{k,m}=\frac{1}{2} P_{k+1,m-1}+\frac{1}{2} P_{1,m-1}
\quad (3 \le m \le n).
\end{displaymath}

ここで得た式を 並べておきましょう.


\fbox{連立方程式(漸化式)}2


    \begin{alignat}{3}
P_{k,1}&=\frac{1}{2} P_{k+1,1}+\frac{1}{2}P_{1,n}
&(0\le &k\...
...n-1,1}&=1,\quad P_{n-1,2}=\cdots\cdots\cdots&\cdots&=P_{n-1,n}=0&&
\end{alignat}

式を与えられれば解けるはずですが 実際に解くのはかなり難しくなります.

ここでは,おなじみの行列を用いる方法, 式変形だけで解く方法を紹介します.

行列による方法

この方法は大学生で習う余因子行列や行列式の 基礎的な知識があれば理解できるはずです.(多分..)

漸化式より

\begin{eqnarray*}P_{k,1}&=&2P_{k-1,1}-P_{1,n}\\
P_{k,l}&=&2P_{k-1,l+1}-P_{1,l}\ \ (2\leq l\leq n-1)\\
P_{k,n}&=&2P_{k-1,2}-P_{1,1}.
\end{eqnarray*}


このとき,


\begin{eqnarray*}{\bf v}_k&=&
(P_{k,m})_{m=1}^n
\ \ (0\leq k\leq n-1)\\
{\bf e}...
...3\cdots{\bf e}_{n-1}{\bf e}_1)
\in{\rm M}(n\times n;{\mathbb R})
\end{eqnarray*}


(ベクトルはどれも縦ベクトル)とおくと, 問題の条件は

\begin{displaymath}{\bf v}_k=2A{\bf v}_{k-1}-B{\bf v}_1\ \ (0\leq k\leq n-1),\ \
{\bf v}_{n-1}={\bf e}_1\end{displaymath}

と表される.まず ${\bf v}_1$ を求める.上の漸化式より

\begin{eqnarray*}{\bf e}_1&=&{\bf v}_{n-1}=2A{\bf v}_{n-2}-B{\bf v}_1
=2A(2A{\bf...
...&
\{2^{n-2}A^{n-2}-(2A-E_n)^{-1}(2^{n-2}A^{n-2}-E_n)B\}{\bf v}_1
\end{eqnarray*}


An-1=En $A{\bf e}_1={\bf e}_1$ に注意すると

\begin{eqnarray*}{\bf e}_1&=&A(2A-E_n){\bf e}_1\\
&=&
\{2^{n-2}(2A-E_n)A^{n-1}-...
...{n-2}E_n-A)B\}{\bf v}_1\\
&=&
\{2^{n-2}(2A-B-E_n)+AB\}{\bf v}_1
\end{eqnarray*}


計算の便利のため $\alpha=2^{n-2}$ とおく. $M=\alpha(2A-B-E_n)+AB$M の余因子行列を C とおくと, $C{\bf e}_1={\rm det}(M)\cdot{\bf v}_1$ なので ${\rm det}(M)$C の 1 列目の各成分がわかれば ${\bf v}_1$ もわかる.

まず M の形を調べる.

\begin{eqnarray*}AB
&=&
({\bf e}_{n-1}{\bf e}_n{\bf e}_2{\bf e}_3\cdots{\bf e}_{...
...dots&2&0\\
0&&&&-2&2\\
- -1&2&0&\cdots&0&-1
\end{array}\right)
\end{eqnarray*}


だから,

\begin{displaymath}M=\left(
\begin{array}{cccccc}
\alpha&0&0&\cdots&0&1-\alpha\\...
...ha\\
-\alpha&1+2\alpha&0&\cdots&0&-\alpha
\end{array}\right).
\end{displaymath}

C の (i,1)-成分 を ci とおく. 余因子の定義に戻って計算すると,

\begin{eqnarray*}c_1&=&(-1)^{1-1}
\left\vert
\begin{array}{ccccc}
-2\alpha&1+2\a...
...ha\\
&=&(-1)^n2\alpha\{(1+2\alpha)^{n-2}-2^{n-3}\alpha^{n-2}\},
\end{eqnarray*}



\begin{eqnarray*}c_2&=&(-1)^{2-1}
\left\vert
\begin{array}{ccccc}
0&1+2\alpha&&&...
...alpha(-\alpha)\}\\
&=&(-1)^n\alpha(2\alpha-1)(1+2\alpha)^{n-3},
\end{eqnarray*}


$3\leq i\leq n-2$ なる i に対しては
ci=(-1)i-1 $
\left\vert
\begin{array}{rcrcrlcll}
0&-2\alpha&1+2\alpha&&&0&\cdots&\cdots&0\\...
...&&&-2\alpha&2\alpha\\
-\alpha&1+2\alpha&&&0&&&&-\alpha
\end{array}\right\vert
$
なので

\begin{eqnarray*}c_i&=&(-1)^{i-1}
\{-(-2\alpha)\}^{i-2}\{-(1+2\alpha)\}^{n-i-1}
...
...\}\\
&=&(-1)^n2^{i-2}\alpha^{i-1}(2\alpha-1)(2\alpha+1)^{n-i-1}
\end{eqnarray*}


よく見ると i=2,n-1 でも正しい.

\begin{eqnarray*}c_n&=&(-1)^{n-1}
\left\vert
\begin{array}{ccccc}
0&-2\alpha&1+2...
...a)^{n-2}]\\
&=&(-1)^n\{2^{n-2}\alpha^{n-1}
-(1+2\alpha)^{n-2}\}
\end{eqnarray*}


これで全ての ci がわかった.次に ${\rm det}(M)$

\begin{eqnarray*}{\rm det}(M)&=&(MC)_{1,1}=\alpha c_1+(1-\alpha)c_n\\
&=&\alpha...
...^n(2\alpha-1)\{(\alpha+1)(1+2\alpha)^{n-2}-2^{n-2}\alpha^{n-1}\}
\end{eqnarray*}


ゆえに $P_{1,m}=c_m/{\rm det}(M)
\ \ (1\leq m\leq n)$ は全てわかる.一方

\begin{eqnarray*}P_{0,1}&=&\frac12P_{1,1}+\frac12P_{1,n}
=P_{0,2}\\
P_{0,m}&=&\frac12P_{1,m-1}+\frac12P_{1,m-1}=P_{1,m-1}
\ \ (3\leq m\leq n)
\end{eqnarray*}


なので,

\begin{eqnarray*}P_{0,1}=P_{0,2}&=&\frac12(P_{1,1}+P_{1,2})=
\frac{c_1+c_2}{2{\r...
...2^{n-1}+1)^{n-2}}{2(2^{n-2}+1)(2^{n-1}+1)^{n-2}-
2^{(n-1)^2}}\\
\end{eqnarray*}


であり, $3\leq m\leq n$ に対しては

\begin{eqnarray*}P_{0,m}&=&P_{1,m-1}=\frac{c_{m-1}}{{\rm det}(M)}\\
&=&\frac{(-...
...2^{n-1}+1)^{n-m}}
{2(2^{n-2}+1)(2^{n-1}+1)^{n-2}-2^{(n-1)^2}}\\
\end{eqnarray*}


この式は m=2 でも正しい.


\fbox{解答}

\begin{displaymath}\underline{
P_{0,1}=P_{0,2},\ \ P_{0,m}=
\frac{2^{(n-1)(m-2)}...
...2^{n-2}+1)(2^{n-1}+1)^{n-2}-2^{(n-1)^2}}
\ \ (2\leq m\leq n)
}
\end{displaymath}


式変形だけで解く

これ以降は高校生にも理解可能です. 誘導をつければ難しめの入試問題とでもいった感じになります.

式だけ与えてやれというのは,, どの変数が重要かということを理解していないと どうどうめぐりの式を量産して投げ出してしまいそうです. 私自身 多大な時間を費やしてしまったので 高校生では,,, いや,道具を知らない高校生こそができるに違いない.



 \begin{displaymath}
\boxed{
\sum_{m=1}^n P_{1,m}=1
}\end{displaymath} (1)

に注意します.作戦としては, 「各P1,mをひとつの文字で表す」 ことを目指します.

まずP1,1P1,nを用いて表すことを考えます.

(1)を繰り返し用いることによって


\begin{align*}P_{1,1}&=\frac12 P_{2,1}+\frac12 P_{1,n} \\
&=(\frac12)^2P_{3,1}+...
...{n-2}P_{n-1}+
\left( (\frac12)^{n-2}+\cdots +\frac12\right) P_{1,n}
\end{align*}

(4)より Pn-1,1=1であるから


 \begin{displaymath}
\boxed{
P_{1,1}=(\frac12)^{n-2}+\left(
1-(\frac12)^{n-2}\right)P_{1,n}
}\end{displaymath} (2)

次に, $P_{n-1,n},P_{n-2,n},\dots ,P_{1,n}$を調べます.ここでは でてきた式を (3)を用いて一番左だけを変形していきます. また,(4)を効果的に用いている ことに注意しましょう.
\begin{align*}P_{n-1,n}&=0 \\
P_{n-2,n}&=\frac12 P_{1,n-1}+\frac12 P_{n-1,n-1} ...
...12)^{n-2}P_{1,2}+(\frac12)^{n-3}P_{1,3}
+\cdots +\frac12 P_{1,n-1}
\end{align*}

まとめて書いておくと, $
k=1,2,\dots , n-1
$に対して


 \begin{displaymath}
\boxed{
P_{k,n}=(\frac12)^{n-k-1}P_{1,k+1}+\cdots
+\frac12 P_{1,n-1}
}\end{displaymath} (3)

あるいは


\begin{displaymath}\boxed{
P_{k,n}=\sum_{j=1}^{n-1-k}(\frac12)^{n-k-j}P_{1,k+j}
}\end{displaymath}

である.

ここで


 \begin{displaymath}
\boxed{
b_k := 2^{k-1}P_{1,k}
}\end{displaymath} (4)

とおくと,


 \begin{displaymath}
\boxed{
2^{n-1}P_{k,n}=b_{k+1}+\cdots +b_{n-1}
}\end{displaymath} (5)

が成り立つ.


一方, $P_{1,m}\ \ (m=2,\dots ,n-1)$に対しても同様の操作を行う.


\begin{align*}P_{1,2}&=\frac12 P_{2,n}+\frac12 P_{1,1} \\
P_{1,3}&=(\frac12)^2P...
...2)^{n-2}P_{n-1,n}+
(\frac12)^{n-2}P_{1,1}+\cdots
+\frac12 P_{1,n-2}
\end{align*}

まとめて書いておくと, $
m=2,\dots , n-1
$に対して


 \begin{displaymath}
\boxed{
P_{1,m}=(\frac12)^{m-1}P_{m,n}+(\frac12)^{m-1}P_{1,1}+\cdots
+\frac12 P_{1,m-1}
}\end{displaymath} (6)

あるいは


\begin{displaymath}\boxed{
P_{1,m}=(\frac12)^{m-1}P_{m,n}+
\sum_{j=1}^{m-1}(\frac12)^{m-j}P_{1,j}
}\end{displaymath}

である.

よって,(8)より


 \begin{displaymath}
\boxed{
b_m=P_{m,n}+b_1+\cdots +b_{m-1}
}\end{displaymath} (7)

(9)を (11)に代入する.


\begin{displaymath}b_k=(\frac12)^{n-1}(b_{k+1}+\cdots +b_{n-1})
+b_1+\cdots +b_{k-1}\end{displaymath}

階差をとって

\begin{displaymath}b_k-b_{k-1}=-(\frac12)^{n-1}b_k+b_{k-1} \end{displaymath}

ゆえに

\begin{displaymath}b_k=\frac{2^n}{1+2^{n-1}}b_{k-1} \end{displaymath}

よって

\begin{displaymath}b_k=(\frac{2^n}{1+2^{n-1}})^{k-2}b_2
\end{displaymath}

(8)より

$
k=2,\cdots n-1
$に対して,


 \begin{displaymath}
\boxed{
P_{1,k}=(\frac{2^{n-1}}{1+2^{n-1}})^{k-2}P_{1,2}
}\end{displaymath} (8)

が成り立つ.

これで,最初に掲げた作戦はほぼ終了しました. これを(7)に代入してP1,nP1,2で表すことができます.

さらに,(6)によってP1,1P1,2で 表すことができます.

したがって,(5)に代入することによって P1,2が得られます.

したがって, $P_{1,m}\ \ (m=1,\ldots n)$を すべて求めることができます.

よって, $P_{0,m}\ \ (m=1,\ldots n)$を求めることができます.


(詳しくは,後で書く.)


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2002-09-20