複比は点がどのように並んでいるかに関係なく定義される. 逆にいいかえると, 直線上にある4点 に関して, 点そのものは動かさず,点名 の24通りの順列に対応して,その順列を「あ,い,う,え」とすると, 複比 が定まり,合計24個の複比が定義される.
複比は6個の値のどれかで一致すれば,おなじ並べ替えを行った他の値でも一致することがわかる.またこれら6個の値のなかに同じものが現れるのは実数の範囲では のときである.現在はユークリッド平面で考えている.複素解析など複素数平面で考えるとさらに ,つまり1の6乗根が現れる.
のときは がとなる. のとき4点A,B,C,Dは調和列点をなすという. またこのとき,
点をとおり直線に平行な直線を引き,
,との交点をP,Qとする.
複比は点と直線で決まるので, これを と記す.点を記さず と記すときは4点は同一の直線上にあるときである.また,上記図の右の場合のように,直線の交点は点に関して同じ側にある必要はない.
証明 点PとQが4点の優弧,劣弧に関して同じ側にあれば 円周角の相等により
点PとQが4点のうちの2点に関して優弧,劣弧の異なる側にある場合は, 点Qに関する角を補角にとることによって, 補題4から二つの複比の相等が結論される. □
証明
証明 2直線 , の交点を とし,直線と直線 $ \mathrm{AB}_2 $ との交点をとする.補題4より
証明
新たに,直線APと直線DRの交点をL,直線QBと直線FAの交点をUとする.
補題5によって
改めてパスカルの補題Iを命題として掲げる.
命題 3 M,S,Qで定まる平面上で,点Mから2直線MK,MVを,また点Sから2直線SK,SVを引く.点Kを直線MK,SKの交点,点Vを直線MV,SVの交点,点Aを直線MK,SVの交点,点を直線MV,SKの交点とする.
4点A,K,,Vのうちの2点でMやSとあわせた3点が同一直線上にないもの,例えばK,Vをとり,その2点を通る円を描き,それが直線MV,MK,SV,SKを切る点をO,P,Q,Nとすれば,直線MS,NO,PQは,同じ束をなす. ■
証明
直線PQと直線KNの交点をL,
直線AMと直線NOの交点をTとする.
補題5によって
補題7によって3直線MS,TN(ON),PL(PQ)は束をなす. □
円周上の6点A,B,C,D,E,Fに対して,型 に対して,5点, , , ,をとる.複比
をとる.直線上の点 をとれば
直線上の点 をとれば
よって
これから , ,は束をなし, この結果,3点 は共線である.
この論の展開は,6点A,B,C,D,E,Fの並び方には関係なく成立する.つまりこれで円周上の6点に関するパスカルの命題1が,交点 が存在する場合に,一般的に証明された.
しかし,ユークリッド幾何と複比の方法は,パスカルの円錐曲線論のなかでの方法としては,統一性がない.パスカルは直線の集合が平面上の1点を共有する場合と平行な場合を区別しない.それに対して補題4の証明では平行線の性質を用いた.また補題5の証明では円周角の定理と図形の移動を用いている.すべてユークリッド幾何の範囲であり,パスカルの方法との統一性はない.
これをどのように解決するか.われわれはあと一息で射影幾何というところまできている.新しい幾何を見出さなければならない.新しい対象と,それとの統一性をもった論証の方法を組み立てなければならない.そのためには,複比とそれが線束を切る直線のとり方によらないことについての掘りさげた考察が必要である.こうしてパスカルの定理を証明する統一性が浮かんでくる.これを掘りさげ,新しい幾何を見出していこう. その前に,パスカルの定理のさらにいくつかの証明を考える.