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代数的な証明

19世紀になって代数的証明が見出された.その証明を,これまでの公理的射影幾何で確定した命題のもとに再構成する. ここでは係数体は可換でかつ閉体であるとする.

補題 17        射影平面$P^2$上に,任意の5点を与えるとき, これらすべてを通る二次曲線$Q$が存在する. これらの5点のうち,少なくとも4点が1直線上にないかぎり, $Q$はただ一つに定まる. ■

証明      5点が一般の位置にあるときは命題82そのものである. 3点が同一直線上にあるときは,その3点で定まる直線と, 他の2点で定まる直線に分解した二次曲線$Q$が一意に定まる. 4点が1直線上にあるときは, その4点で定まる直線と,他の1点を通る直線に分解した 二次曲線なので,一意に定まらない. □

パスカルの定理を次の形で再掲する. 本書では基本的に射影空間の点は小文字で, ユークリッド空間の点は大文字で表すようにしている. ただ代数的な証明では変数との区別を明確にするために, 点を大文字で表す.

同次座標 $(x_0,\ x_1,\ x_2)$に対し, $X$$X={}^t(x)$を表すものとする. つまり$X$は縦ベクトルにとる.他の文字についても同様とする.

また3次対称行列$T$に対し,

\begin{displaymath}
L(X,\ Y)={}^tXTY
\end{displaymath}

とおく.$T$が定める二次曲線を$Q$とし, $f(X)=L(X,\ X)$とおく.$f(X)=0$$Q$の方程式, $Q$上の点$a$に対し$L(a,\ X)=0$は点$a$での接線の方程式, $Q$上にない点$a$に対し$L(a,\ X)=0$は点$a$の極線の方程式である.

パスカルの定理再掲

2次の同次式で定まる二次曲線$Q:f(X)=0$の上に異なる6点 $a_1,\ b_1,\ c_1$ $a_2,\ b_2,\ c_2$を取る.

直線$a_1b_2$と直線$b_1a_2$ の交点を$p_1$, 直線$b_1c_2$と直線$c_1b_2$ の交点を$p_2$, 直線$c_1a_2$と直線$a_1c_2$ の交点を$p_3$とする.

このとき3点 $p_1,\ p_2,\ p_3$ は一直線上にある. ■
証明      点$a_1$での接線と$b_2$ での接線の交点を $q_{a_1}^{b_2}$とかくと, 直線$a_1b_2$

\begin{displaymath}
L(q_{a_1}^{b_2},\ X)=0
\end{displaymath}

と表せる.$a_1b_2$上の点はこの方程式を満たす.以下同様に記号を定める.

そこで,次の二次式を満たす曲線

\begin{displaymath}
C:L(q_{b_1}^{a_2},\ X)
L(q_{a_1}^{c_2},\ X)-
\alpha L(q_{b_1}^{c_2},\ X)
L(q_{a_1}^{a_2},\ X)=0
\end{displaymath}

を考える. これは $a_1,\ b_1,\ a_2,\ c_2$ を通る.ここで,

\begin{displaymath}
\alpha=\dfrac{
L(q_{b_1}^{a_2},b_2)
L(q_{a_1}^{c_2},b_2)
}{
L(q_{b_1}^{c_2},b_2)
L(q_{a_1}^{a_2},b_2)
}
\end{displaymath}

とおく. $\alpha$ をこのようにとると $C$$b_2$ も通る.

補題17から,$Q$$C$は同一の曲線となる.

同様に次の二次式を満たす曲線

\begin{displaymath}
C':L(q_{a_1}^{b_2},\ X)
L(q_{c_1}^{a_2},\ X)-
\beta L(q_{c_1}^{b_2},\ X)
L(q_{a_1}^{a_2},\ X)=0
\end{displaymath}

を考える. これは $a_1,\ c_1,\ a_2,\ b_2$を通る.ここで,

\begin{displaymath}
\beta=
\dfrac{
L(q_{a_1}^{b_2},b_1)
L(q_{c_1}^{a_2},b_1)
}{
L(q_{c_1}^{b_2},b_1)
L(q_{a_1}^{a_2},b_1)
}
\end{displaymath}

とおく. $\beta$ をこのようにとると $C'$$b_1$ も通る. 従って同様の理由で $C'$$Q$ と一致する.

二つの二次曲線の同次式は定数倍を除いて一致する.

\begin{eqnarray*}
&&L(q_{b_1}^{a_2},\ X)
L(q_{a_1}^{c_2},\ X)-
\alpha L(q_{b_...
...a_2},\ X)-
\beta L(q_{c_1}^{b_2},\ X)
L(q_{a_1}^{a_2},\ X)\}
\end{eqnarray*}

つまり

\begin{eqnarray*}
&&L(q_{b_1}^{a_2},\ X)
L(q_{a_1}^{c_2},\ X)
-kL(q_{a_1}^{b_...
...\alpha L(q_{b_1}^{c_2},\ X)
-k \beta L(q_{c_1}^{b_2},\ X)
\}
\end{eqnarray*}

この両辺の二次式を考える.

左辺に $p_1,\ p_3$ を代入すると0になるので,右辺も満たす. そして $p_1,\ p_3$ $L(q_{a_1}^{a_2},\ X)=0$ 上にはない.よって,

\begin{displaymath}
\alpha L(q_{b_1}^{c_2},\ X)
-k \beta L(q_{c_1}^{b_2},\ X)=0
\end{displaymath}

の上にある. $p_2$ は明らかにこの式を満たす. ここで, $\mathrm{M}=\alpha q_{b_1}^{c_2}-
k \beta q_{c_1}^{b_2}$ と置くとこの式は

\begin{eqnarray*}
\alpha L(q_{b_1}^{c_2},\ X)
-k \beta L(q_{c_1}^{b_2},\ X)
&...
..._1}^{c_2}-
k \beta q_{c_1}^{b_2},\ X)\\
&=&L(\mathrm{M},\ X)
\end{eqnarray*}

と表される. つまり $p_1,p_2,p_3$ はすべて 直線 $L(\mathrm{M},\ X)= 0$の上にある. □
2014-01-03