耕介 『数論初歩』の「2次無理数の展開と判別式」のところに次の事実が出てきました.
無理数が2次方程式の解であるとき, これと対等な無理数 を解にもつ2次方程式を とする. 二つの2次式の判別式をととすると,である.
ある無理数に対し,無理数が であるような整数を用いて と表されるとき, この二つの無理数 は互いに対等であるというのでした. なので, これをもとの方程式に代入し, 得られたの満たす2次方程式を決める. その判別式をとるのですが,証明を読んでみると, が整数であることは使っていません. 要するに,元の2次方程式のに, であるようなによって作られる を代入し,分母を払って整理すると 新たな2次方程式 が得られる. 二つの2次式の判別式は変わらない,ということを言っています.
南海 を に置きかえて得られた方程式の判別式が, この変換で変わらないことに気づいたのはすばらしい. は整数でなくてもよいばかりでなく, 複素数一般でもかまわない.
数学では,何らかの変換を行ったときに, それに対して不変なものを見出し, 不変なものが作る集合の構造を考えることが,大変重要である. 不変な量,不変な関係を明確にすることが, 数学的現象を考えるうえでもっとも基本的な方針だ.
正確な定義はこれからおこなっていくが, このような変換によって不変な式を一般に不変式という.
耕介 2次方程式から,先の方法で別の2次方程式 を作る.その判別式を, もとの係数で表すと,結局に戻ります.
一定の係数の変換に対し判別式は不変である,ということですね.
南海 そうだ. 今日は, 高校数学の背景のひとつなっている不変式について, 高校数学と地続きなところから考えはじめよう,
であるような任意のに対して, を に置きかえ分母を払って2次式を作る. 係数は変化するが,判別式は変わらないという条件を考える. がを満たすことと, がを満たすことは同値であるから, この条件は, であるような任意のに対して, を に置きかえ分母を払って2次式を作っても, 判別式は変わらない,という条件と同値だ.
そこでを に置きかえ分母を払って 2次式を作ることで不変性を確認していこう.
2次方程式を
耕介 判別式はです.
南海
このに
を代入し分母を払って得られる新たな2次方程式を
耕介
南海
今は変換された係数から直接計算したが,
根の方から考える別解がある.
耕介
は
南海 判別式を根で表し不変性を確認してほしい.
耕介 の解と係数の関係から , なので, 判別式は
根の変換の方から示すとこのようになりました.
南海 その通りで,この方法はそのまま一般化できる. 判別式というものの定義も,係数からするのではなく, 根からおこなう.
その前に,2007年の入試問題をひとつ紹介しよう. この問題では方程式を の代わりに と置いている. われわれも後半ではこのように置く. この2は なのだが, 係数をこのようにする方がより複雑なときは計算がきれいになる. をひとかたまりにして係数の変換を考えると, これまでの考察との関連を読み取ることができる.
南海
さて一般的に考えるために,多項式の判別式の定義からはじめよう.
耕介 係数はどのようなところからとるのですか.
南海 一つの体を固定すればよいのだが, とくに断らなければ複素数体としよう. または,係数は文字のままであるとしてもよい.
耕介 判別式は,根をどのように入れ替えても変わりません.
南海 そう.あとで詳しく見るが,根の対称式であり, ちょうどを乗じていることによって, もとの整式の係数から作られた整式になる. また,方程式が重根をもつための必要十分条件が であることは,判別式の定義から明らかである.
例として,の判別式を求めて見てほしい.
耕介 これは『数学対話』「三次方程式」にあります.
この式は見たことがあります. のとき,です. が極値をもつ場合,つまりのとき. 極値は
これは2次式で
をとると,
.
で極.
極値は
南海 そう. さて,判別式は,個の根の番号をどのようにつけ替えても,変わらない. つまり個の根の対称式である. 次節で基本定理の系1で示すように次のことが成り立つ.
はの係数 の 次の整式である.このことはここでは認め,判別式の不変性を先に確認しよう.
であるような2次行列
をとり,
に対して,
耕介
2次方程式の場合では,関係式(1)が成り立つので,
南海 その通りである. 正確には,根の変換から定まる変換での不変式なので, 方程式の不変式といおう.
南海 2次の場合と同じであるから,証明をやってみてほしい.
耕介 はい.
証明
簡単のためとする.