次元射影空間の直線とその上の枠 がある. このときの直線体 が定まる. これは直線の点からを除いた点の集合に体の構造を入れたものである. この体は命題45により, 枠 のとり方によらず同型である. つまりひとつの抽象体としての係数体が定まる. を同型写像 とする. は集合としては 直線の点からを除いたものである. よっては の点を除いた点集合との一対一対応を定める. この対応も同じで表す. を直線の座標系, でないの要素に対応するの要素を 点のこの枠に対する非同次座標という.
それに対して となる の要素の組をの同次座標という. がともに0でないとき直線上の点がに, 点がに対応するとすれば, とは体 の要素として, を満たす. 一方,ただちに確認できるように, 命題46の写像でにはが, にはが対応する. よっての点に対しては同次座標 を対応させると定めることは自然であり, これによって上のすべての点に対して,その同次座標が定まる. 2つの組 が同じ点の同次座標であるための必要十分条件は, , となる0でないの要素が存在することである.
体の要素を成分とする2次元ベクトル空間をとする.
からを除いた集合をと表す.
の要素の間に同値関係〜を
一次変換を非同次座標で表す.のとき
逆に非同次座標でを除くの点に対するに対し
が可換体の場合は,いわゆる一次分数変換である.
逆にからへの射影写像をとる.
の
は
同次座標で
で表される.
によるこれらの像を
,
,
とする.
上の相異なる3点である.
これに対して,一次変換
さらに
またはのとき. なら,,は異なる点なので ということはない.よって となるようにとをとることができ, このときが存在する.のときも同様である.
次にかつのとき.
この条件は
とはともに同じ3点を同じ3点に移す射影変換である, 定理6と注意3.2.5から非同次座標で表せばの内部自己同型 しか違わない.これ自身一次変換であるのでこれをに結合してもやはり は一次変換である.□
と
に対応する射影変換が
等しいことはあるの要素があって
一般の枠では, 直線上の直線体を定めるのにのいずれを原点,示点にとる こともできる.それでこのように枠の点を原点,示点の区別のない形でとる.
辺上には枠 , が定まり, 直線体やが定まる.
1点に対してを通る2辺,の間の射影写像
を
定義から逆写像も折返しである.
これらは配景写像の合成で射影写像であり,
折返しおよびそれらの合成写像も枠から枠への射影写像である.
定義 22 (基本写像) の枠 をとる. 2辺のあいだの写像 であって, 枠の2次元面上の折返しを有限回結合して得られるものを 枠に関する基本写像という. ■
とする. , とおく. 6直線 は 4直線 , , , でつくられる四辺形によって四辺性六辺である. したがって命題42によって 6点 は四角性六点. 直線体の積の定義からである. □
命題51の証明
の枠
に属する任意の辺上の枠
に対して基本写像
1) のとき.
2辺 を含むの2次元面をとり, 上の枠に関する基本写像をとする. のときの一意性からは一意に定まる.
2) のとき.
枠
と枠
に関する折返しの結合によりを
の枠 が与えられている. その係数体をとし,直線体 または からへの同型が指定されている. このとき,写像 がに関する基本写像であるときと写像の組 をの非同次射影座標系という.
命題51により,いずれかのを決めれば他は一意に定まる. よってをすべて同じで表して混乱しない. 座標系を のように表す. の決め方は二通りあり,その結果,枠に対して二通りの非同次座標系が定まる.
が共線なら なので より成立.
が共線なら なので命題50 より かつより成立.
その他の一般の場合,
,
とおくと,同型
に関して
である.4直線,,,で定まる四辺形に関して
6直線
は四辺性六辺である.
この結果,6点 は四角性六点である. よって積の定義から体 において .つまりにおいて が成り立つ. □
同次座標を定義するために,座標集合を準備する.
体の個の要素の組
から
を除いたの,
同値関係
に射影座標系 , が与えられている.
点がの補面に含まれないとき,の辺 への成分をとし, によるの像を, とする.そして を点の非同次座標という.またこのとき を点の同次座標という.点の同次座標は である.
さらにのときは,直線上の第3の点をとり, の非同次座標が であるとき, を点の同次座標と定める.
この定義が意味をもつためには,のとり方を変えても, が の要素として 同じ類となることを確認しなければならない.それを示す.
直線上の点 をとる. その非同次座標を , とする. なので, のすべてが0ということはない. 順序を入れかえとする.このときも成り立つ. の中で0でないものがなければ,一意性は明らか.0でないものがあればそれをとする. 3点の面 への成分を それぞれ とする. 4点 は共線で, より .
面上の枠 に関する点の非同次座標が , である. ここでからへの同型写像をとり, とおくと,命題52から となる.
この結果, . これから . この値をとおけば で が で成立. つまり と は の同じ類を表す.
これで射影空間の同次座標が定義された. これを枠によって定まる同次座標系といい, 同じ記号 で表す.
直線が枠の辺と一致するとき.
同次座標の定義から3辺
の方程式はそれぞれ
直線が頂点を通りを通らないとき.
,
,上の点の非同次座標を
とすれば,命題52から
であるから,の方程式は同次座標で
となる.他も同様でがの一つの頂点を通るとき,その方程式は
直線がのいずれの頂点も通らないとき. と辺の交点 , をとる. に対して とする. 上の点と をとり,それらの枠 に関する 非同次座標を とする. 命題52から,である.
4点
を頂点とする四角形から,体の和の定義より
,これからである.同次座標になおして
の方程式は
逆に方程式(3.1)は以上のいずれかの形に変形でき, 直線を表す. □
命題 54
に射影座標系が定まっている.
相異なる2定点を通る直線は,
媒介変数
を用いて
証明 上の点が等式(3.2)の形に表されることを数学的帰納法で示す.
1) のとき. は命題53の直線の方程式を満たす.
のとき.
とする.上記証明ですべてとおいてそのまま成り立つ.
のとき.このとき直線の方程式はとなり,
点の同次座標は
である.
とする.より
なので,
2) では成立とする.
のとき.枠を
とする.
必要なら基本点の順を替え,とを通る直線は
辺と交わらないとする.
上の点をとり,3点の補面への成分,
および補面への成分もまたそれぞれ共線であり,
補面は次元なので,仮定から
逆に等式(3.2)の形に表される点 は
われわれは,命題31において任意の体上の射影空間の存在を示した.
それをもとに,命題32で射影幾何の同次座標による解析的表示を得た. 命題32で直線の表示を構成したが, 本命題によって,直線はつねにこの形に表示される. よって,射影空間の構成ということに関して, 命題31のモデル以外のモデルは存在しない.
証明 一般に次元部分空間が個の1次方程式の連立で定まることを示す. 次元射影空間はその定義から一般の位置にある 個の点 によって確定する. 2点を通る直線は で表され, この直線上の点と点で定まる部分空間の点は で表される. これを順次構成することにより, 上の点は 個の媒介変数 によって
の超平面とは,次元の部分空間であった. の場合,係数を左から揃えて媒介変数を減じる操作を回行うことで, 関係式は1個になる. よって超平面は1個の1次方程式で表される. □
超平面は の類 で一意に確定する. これを超平面座標という.
とを二つの超平面とし,
その超平面座標を,とするとき,
次元部分空間
を含む超平面は,
と
と
の共有点を含む超平面であるから,
ここで体に対して逆体を
集合としてはと同じであり,和も同様であるが,
の積に対して積が
次元座標空間からを構成した命題31の構成法にならい,
次元の座標である超平面座標を用いてを構成することができる.
ただし,上記の超平面座標の係数が左からかかっていることから,
の逆体を用意し,
これを用いて命題31と同様の構成を行うと,
が
以上より次のことがわかる.
この結果,例えば次のような命題もまた成立する.
射影幾何の公理を満たすさまざまのモデルが構成できる. 射影幾何の公理系の外部で体の内部構造は定まる. したがって,その体が可換であるとか,内部自己同型をもつかどうかなどは, 射影幾何の公理そのものからは出ない.
いいかえると,公理から出発したわれわれの方法は, さまざまの体上の射影幾何のモデルに共通なことを公理に抽出し, そこから逆に射影幾何を構成することで, 体の独自性によらない共通の構造はどこまで成り立つのか, 探求してきたことになる.
一方,命題31によって, 体が与えられたとき, ベクトル空間をもとに定義された直線の集合と平面の集合の組は射影幾何であることが証明された. 逆にそこから,この射影幾何の係数体をこれまでの論法で定義したとき, それがもとの体と同型であることを,確認しなければならない.
証明 の部分空間上におかれた直線の, 四角性六点にもとづく和と積によって定義された直線体が, 体と同型になることを示す. 注意32によって, はを右からの定数倍を同値とする同値関係での商集合と見なすことができる. 枠のとり方によらず直線体がすべて同型であることはすでに示されている.
そこでの同時座標系を
として,
4点
と になっていることが確認されれば, が体と体 の同型を導くものであることが示される.
和と積の定義21の図をもとにこれを確認する. ただし,体の和積と直線体の演算の区別を明確にするため 点 などをのようにおく.
積 積についても次の順に点を決めてゆく.
演算を保存する体の一対一対応は体の同型に他ならない. これで体と直線体 が同型となり, 直線体 と同型な抽象体として定まる係数体と体は同型である.
□
以上の議論によって次のことが示された.
の3点 が共線であるとき,そしてそのときにかぎり,それらの像 も共線である.を満たすとき,を共線写像という. であるときこれを相反変換, であるときこれを共線変換という. ■
射影空間は射影幾何の公理を満たす点の集合と直線の集合の組であった.
共線写像は,
二つの射影空間とにおいて,との間の一対一対応であり,の直線をの直線にうつす.
つまりに対して
共線写像は,独立な点集合を独立な点集合にうつし,枠を枠にうつす. また四角性六点を四角性六点にうつす. よって直線体と の同型を定める.
射影空間の共線変換の集合はの変換群をつくる. これを で表す.
証明 はの各辺上の枠 も動かさない.よってが定める直線体の写像は同型である.頂点の補面に含まれない任意の点の非同次座標をとすれば,の非同次座標は係数体の同型 によって と表される. は枠を動かさないので,各の係数体で同じ値に対応する点は,によって移る点においても係数体の値が同じである.つまり任意のに対し となり, が各について成り立つ.これをとする.点の同次座標をとすれば,の同次座標はとなる. 逆にの自己同型が枠を動かさない共線変換であることは明らか.□
すでにの部分空間に対しては配景写像の合成として射影写像が定義されていた.注意3.1.2にあるように,そのものの射影写像は未定義であった. 直線体と射影座標の存在から,より大きい次元の空間に埋め込むことで,これを定義した.
この証明に補題を一つ必要とする. 以下において同座標対応は次の意味で用いる.
二つの射影空間とがあり, それぞれ同次座標が定まっているとする. の点が座標で表されるとき, の点でその座標がで表されるものをとする. これによってからへの写像が定まる. これは明らかに一対一対応である. この写像による点対応を同座標対応という.
同座標対応を とする. これは に対応する上の点と, 枠に関するの同次座標が である点を対応させる. これに対して, を中心とする配景写像を とし, これによって に対応する上の点が, に対応する上の点に対応するとする. なる上の一次変換をとする. 命題49よりこれは射影写像である.このとき なので,は射影写像である. □
命題61の証明 命題47により変換 はの各辺の直線体に対しては内部自己同型である.つまり命題60のがにとれる.したがって となり である.
逆にの任意の直線 は により直線 にうつる.補題14より同座標対応 は射影写像である. □
証明 変換(3.3)が共線変換であることは明らか.
の直線
は変換(3.4)
で直線
射影変換で枠を動かさないもの はであるから,すべての射影変換は 変換(3.4)と内部自己同型の結合である. 命題61の後半より,それもまた変換(3.4)の形に書ける.
次に共線変換 をとる.は枠をに移すとする. 枠を枠に移す射影変換をとる.射影変換は共線変換であるから は枠を動かさない共線変換であり, に属する. よって一般の共線変換は, と射影変換 の合成になる. それが変換(3.3)である. □
これから射影空間の共線変換が射影変換であるための必要十分条件は 係数体が内部自己同型以外の同型をもたないことであるがわかる.
実数体は命題29によって恒等変換以外に自己同型をもたないので,共線変換はすべて射影変換である.複素数体ではそれは成り立たない.
射影空間についての条件(2)を射影幾何の基本定理といった. 直線体が実数体や複素数体においては,射影幾何の基本定理が成り立つ.
歴史的には,係数体を実数体とする射影幾何が研究された. この場においては条件(2)が成り立つ. したがって研究の中で射影変換の一意の存在が発見され, これが基本定理とされたのである.
しかし公理系から出発した結果,この条件の成り立つ根拠が明らかになり, 上記3命題の同値性こそが基本定理となったのである.