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座標系の導入

直線座標と射影写像

$n$次元射影空間$P^n$の直線$l$とその上の枠 $[p_0,\ p_{\infty},\ p_1]$がある. このとき$l$の直線体 $K(p_0,\ p_{\infty},\ p_1)$が定まる. これは直線$l$の点から$p_{\infty}$を除いた点の集合に体の構造を入れたものである. この体は命題45により, 枠 $[p_0,\ p_{\infty},\ p_1]$のとり方によらず同型である. つまりひとつの抽象体としての係数体$K$が定まる. $\theta$を同型写像 $\theta:K(p_0,\ p_{\infty},\ p_1)\to K$ とする. $K(p_0,\ p_{\infty},\ p_1)$は集合としては 直線$l$の点から$p_{\infty}$を除いたものである. よって$\theta$$l$の点$p_{\infty}$を除いた点集合と$K$の一対一対応を定める. この対応も同じ$\theta$で表す. $\theta$を直線$l$座標系$p_{\infty}$でない$l$の要素$p$に対応する$K$の要素$\xi=\theta(p)$を 点$p$のこの枠に対する非同次座標という.

それに対して $\xi=x_1(x_0)^{-1}$となる $K$の要素の組$(x_0,\ x_1)$$l$同次座標という. $x_0,\ x_1$がともに0でないとき直線$l$上の点$p$$(x_0,\ x_1)$に, 点$q$$(x_1,\ x_0)$に対応するとすれば, $p$$q$は体 $K(p_0,\ p_{\infty},\ p_1)$の要素として, $pq=qp=p_1$を満たす. 一方,ただちに確認できるように, 命題46の写像$x\to x^{-1}$$p_0$には$p_{\infty}$が, $p_{\infty}$には$p_0$が対応する. よって$l$の点$p_{\infty}$に対しては同次座標$(0,\ x^1)$ を対応させると定めることは自然であり, これによって$l$上のすべての点に対して,その同次座標が定まる. 2つの組 $(x_0,\ x_1),\ ({x_0}',\ {x_1}')$が同じ点の同次座標であるための必要十分条件は, ${x_0}'=x_0\lambda$ ${x_1}'=x_1\lambda$となる0でない$K$の要素$\lambda$が存在することである.

$K$の要素を成分とする2次元ベクトル空間を$K^2$とする. $K^2$から$(0,\ 0)$を除いた集合を${K^2}^*$と表す. ${K^2}^*$の要素の間に同値関係〜を

\begin{displaymath}
(x_0,\ x_1)〜({x_0}',\ {x_1}')\quad :\quad
\exists \lambda\ ;\ {x_0}'=x_0\lambda,\ {x_1}'=x_1\lambda
\end{displaymath}

で定める.このとき直線$l$の点と 集合${K^2}^*/〜$の要素の間に一対一対応が成り立つ.

直線の一次変換

直線$l$に座標系$\theta$が与えられたとき, 体$K$の要素 $\alpha_{00},\ \alpha_{10},\ \alpha_{01},\ \alpha_{11}$に対して $l$から$l$への写像

\begin{displaymath}
(x_0,\ x_1)\mapsto (\alpha_{00}x_0+\alpha_{01}x_1,\ \alpha_{10}x_0+\alpha_{11}x_1)
\end{displaymath}

を直線$l$一次変換という. 同一の集合間の写像を変換ということが多く,この場合も「一次変換」ということが慣習である. $\alpha_{00},\ \alpha_{10},\ \alpha_{01},\ \alpha_{11}$の表す一次変換と 0でない数$\lambda$による $\alpha_{00}\lambda,\ \alpha_{10}\lambda,\ \alpha_{01}\lambda,\ \alpha_{11}\lambda$の表す一次変換は同じ$l$の変換である.

一次変換を非同次座標で表す.$x_0\ne 0$のとき

\begin{eqnarray*}
&&(\alpha_{10}x_0+\alpha_{11}x_1)(\alpha_{00}x_0+\alpha_{01}x...
...}x_1(x_0)^{-1}\}
\{\alpha_{00}+\alpha_{01}x_1(x_0)^{-1}\}^{-1}
\end{eqnarray*}

となる.これも一次変換という. ただし $(\alpha_{00}x_0+\alpha_{01}x_1)^{-1}=0$となるときは体の要素ではなく, $l$$p_{\infty}$になる.

逆に非同次座標で$p_{\infty}$を除く$l$の点$p$に対する$\xi=\theta(p)$に対し

\begin{displaymath}
\xi\mapsto(\gamma\xi+\delta)(\alpha\xi+\beta)^{-1}
\end{displaymath}

が与えられれば,これから同次座標の一次変換が一意に確定する.

$K$が可換体の場合は,いわゆる一次分数変換である.

直線の射影変換

この一次変換が射影幾何の写像として重要であるのは, 次の命題が成立するからである.

命題 49        直線$l$に座標系$\theta$が与えられたとき, $l$から$l$への写像が射影写像であることと, 一対一の一次変換であることは同値である. ■

証明      一対一の一次変換$\varphi$をとる. 上に述べたように,一次変換を同次座標で考えることと,非同次座標で考えることは同値である.

\begin{displaymath}
\varphi(\xi)=(\gamma\xi+\delta)(\alpha\xi+\beta)^{-1}
\end{displaymath}

とする.

\begin{eqnarray*}
(\gamma\xi+\delta)(\alpha\xi+\beta)^{-1}&=&
(\gamma\alpha^{-...
...lpha^{-1}-(\gamma\alpha^{-1}\beta-\delta)(\alpha\xi+\beta)^{-1}
\end{eqnarray*}

となり,$\varphi$は命題46の演算

\begin{displaymath}
x \mapsto x+p,\
x \mapsto p\cdot x,\
x \mapsto x\cdot p,\
x \mapsto x^{-1}
\end{displaymath}

に分解される.これらはすべて射影写像であったので, $\varphi$は射影写像である.

逆に$l$から$l$への射影写像$\varphi$をとる.

$l$ $p_0,\ p_1,\ p_{\infty}$は 同次座標で $(1,\ 0),\ (1,\ 1),\ (0,\ 1)$で表される. $\varphi$によるこれらの像を $(a_0,\ a_1)$$(b_0,\ b_1)$$(c_0,\ c_1)$とする. $l$上の相異なる3点である. これに対して,一次変換

\begin{displaymath}
\varphi':(x_0,\ x_1)\mapsto (a_0hx_0+c_0kx_1,\ a_1hx_0+c_1kx_1)
\end{displaymath}

で定めると, $\varphi'$ $(1,\ 0),\ (0,\ 1)$$(a_0,\ a_1)$$(c_0,\ c_1)$にうつす.

さらに

\begin{displaymath}
a_0h+c_0k=b_0l,\ \quad
a_1h+c_1k=b_1l
\end{displaymath}

となる0でない$l$が存在するように$h$$k$をとることができることを示す.

$b_0=0$または$b_1=0$のとき. $b_0=0$なら,$(a_0,\ a_1)$$(c_0,\ c_1)$は異なる点なので $a_1=c_1=0$ということはない.よって $a_1h+c_1k\ne 0$となるように$h$$k$をとることができ, このとき$l$が存在する.$b_1=0$のときも同様である.

次に$b_0\ne 0$かつ$b_1\ne 0$のとき. この条件は

\begin{displaymath}
{b_0}^{-1}(a_0h+c_0k)=l={b_1}^{-1}(a_1h+c_1k)
\end{displaymath}

より

\begin{displaymath}
({b_0}^{-1}a_0-{b_1}^{-1}a_1)h=-({b_0}^{-1}c_0-{b_1}^{-1}c_1)k
\end{displaymath}

となる.もし ${b_0}^{-1}a_0-{b_1}^{-1}a_1= 0$なら ${b_0}^{-1}a_0={b_1}^{-1}a_1=t$とおくと $a_0=b_0t,\ a_1=b_1t$となり$(a_0,\ a_1)$$(b_0,\ b_1)$が異なる点であることに反する. よって ${b_0}^{-1}a_0-{b_1}^{-1}a_1\ne 0$.他も同様なので このような0でない$h,\ k$をとることができる. このとき$\varphi'$$(1,\ 1)$$(b_0,\ b_1)$にうつす.

$\varphi$$\varphi'$はともに同じ3点を同じ3点に移す射影変換である, 定理6と注意3.2.5から非同次座標で表せば$K$の内部自己同型 $\xi \mapsto \lambda\xi\lambda^{-1}$ しか違わない.これ自身一次変換であるのでこれを$\varphi'$に結合してもやはり $\varphi$は一次変換である.□

注意 3.2.7        枠を動かさない射影変換は,非同次座標で $\xi \mapsto \lambda\xi\lambda^{-1}$となるのであった. これを同次座標で表せば

\begin{displaymath}
{x_1}'{{x_0}'}^{-1}
=\lambda {x_1}{x_0}^{-1}\lambda^{-1}
=(\lambda {x_1})(\lambda{x_0})^{-1}
\end{displaymath}

だから

\begin{displaymath}
(x_0,\ x_1)\mapsto (\lambda x_0,\ \lambda x_1)
\end{displaymath}

となる.体が可換でなければ,これは一般には$(x_0,\ x_1)$と一致しないが, $(1,\ 0)$$(1,\ 1)$$(0,\ 1)$は動かさない.


二次行列表現

$K$が可換の場合, 一次変換は

\begin{displaymath}
\vecarray{x_0}{x_1}\mapsto
\matrix{\alpha_{00}}{\alpha_{01}}{\alpha_{10}}{\alpha_{11}}
\vecarray{x_0}{x_1}
\end{displaymath}

$2\times2$行列で表される.一対一対応であるということは 逆行列をもつということである. 逆行列をもつ$2\times2$行列は積に関して群をなす. これを$GL(2,\ K)$と記し,一般線型群という.

$(\alpha_{ij})\in GL(2,\ K)$ $(\beta_{ij})\in GL(2,\ K)$に対応する射影変換が 等しいことはある$K$の要素$\lambda\ne 0$があって

\begin{displaymath}
(\alpha_{ij})=\lambda(\beta_{ij})
\end{displaymath}

となることが必要かつ十分である. これは同値関係である.$GL(2,\ K)$のこの同値関係によって類別して得られる群を $PGL(2,\ K)$と記す. これが直線の射影変換群である.

射影空間の座標系

射影枠

$n$次元射影空間$P^n$の一般の位置にある$n+2$個の点の組 $\mathscr{F}=[a_0,\ a_1,\ \cdots,\ a_n,\ u]$$P^n$, あるいは射影枠という. 点 $a_i\ (0\le i \le n)$基本点$u$単位点という.

一般の枠では, 直線$a_i\vee a_j$上の直線体を定めるのに$a_i,\ a_j$のいずれを原点,示点にとる こともできる.それでこのように枠の点を原点,示点の区別のない形でとる.

点の成分

直線 $a_i\vee a_j\ (0\le i<j\le n)$に対して, 残り$n-1$個の基本点の張る$n-2$次元部分空間を $(a_i\vee a_j)^*$で表す. $(a_i\vee a_j)^*$に含まれない点$p$に対して,点

\begin{displaymath}
p_{ij}=(a_i\vee a_j)\cap (p \vee (a_i\vee a_j)^*)
\end{displaymath}

を点$p$の辺$a_i\vee a_j$上の成分という. $[a_i,\ a_j,\ u_{ij}]$は直線$a_i\vee a_j$の枠である. したがってこの直線上の点$a_j$を除く点$p_{ij}$と直線体$K$の要素の対応が定まる.

注意 3.2.8        各直線上の成分はこのようにして定めることができる. しかし各直線の座標の入れ方は基本点をどのように並べるかの自由度がある.しかし全体としての統制はとれなければならない. そのためにいくつかの準備をしなければならない.

面の成分

基本点のうちの$r$ $a_{i_0},\ \cdots,\ a_{i_r}$で張られる部分空間を$\alpha$とする. $\alpha$に含まれない基本点で張られる部分空間を$\alpha$補面といい,$\alpha^*$と表す. $p$$\alpha$に含まれないとき $p_{\alpha}=\alpha\cap(p\vee \alpha^*)$を 点$p$$\alpha$への成分という. $[a_{i_0},\ \cdots,\ a_{i_r},\ u_{\alpha}]$$\alpha$の枠となる. これを$F$に関する面$\alpha$上の枠という. 混乱しないときは,単位点の成分$u_{\alpha}$も添え字をはずして $u$と書くこともある. あるいは適宜$u_1$などのようにして$u$の面上の成分であることを示すこともある.

$a_i\vee a_j$上には枠 $[a_i,\ a_j,\ u]$ $[a_j,\ a_i,\ u]$が定まり, 直線体$K(a_i,\ a_j)$$K(a_j,\ a_i)$が定まる.

折返し

$F$に関する2次元空間の枠 $[a,\ b,\ c,\ u]$をとる. ただし$a,\ b,\ c$は基本点である.

1点$a$に対して$a$を通る2辺$l=a\vee b$$g=a\vee c$の間の射影写像 $\gamma:l \to g$

\begin{displaymath}
\gamma=\pi_{gh}(b)\circ\pi_{hl}(c),\ h=a\vee u
\end{displaymath}

で定義し,枠$\mathscr{F}$に関する$a$のまわりの折返しという. この折返しによって枠$[a,\ b,\ u]$は枠$[a,\ c,\ u]$ にうつり,直線体の同型 $K(a,\ b,\ u)\to K(a,\ c,\ u)$を引き起こす. この証明はここでは省略する.

定義から逆写像$\gamma^{-1}$も折返しである. これらは配景写像の合成で射影写像であり, 折返しおよびそれらの合成写像も枠から枠への射影写像である.

定義 22 (基本写像)        $P^n$の枠 $\mathscr{F}=[a_0,\ a_1,\ \cdots,\ a_n,\ u]$をとる. 2辺のあいだの写像 $\varphi:a_i\vee a_j \to a_k\vee a_l$であって, 枠$\mathscr{F}$の2次元面上の折返しを有限回結合して得られるものを 枠$\mathscr{F}$に関する基本写像という. ■

命題 50        枠 $[a,\ b,\ c,\ u]$の基本点まわりの折返しを $\gamma_1:a\vee b\to a\vee c$ $\gamma_2:c\vee a\to c\vee b$ $\gamma_3:b\vee c\to b\vee a$とし, 任意の点$p\in a\vee b$に対して $p'=\gamma_3\circ\gamma_2\circ\gamma_1 (p)$とおくと, 体$K(a,\ b)$において$p'=p^{-1}$である. ■

証明      単位点のそれぞれの辺上の成分を$u_1$などのように表す. $p=a,\ b,\ u_1$のとき.

\begin{eqnarray*}
&&\gamma_3\circ\gamma_2\circ\gamma_1 (a)=\gamma_3\circ\gamma_...
...rc\gamma_1 (u_1)=\gamma_3\circ\gamma_2 (u_2)=\gamma_3 (u_3)=u_1
\end{eqnarray*}

よって成立する.

$p\ne a,\ b,\ u_1$とする. $p_1=\gamma_1 p$ $p_2=\gamma_2 p_1$とおく. 6直線 $\{cb,\ cp',\ cu_1,\ ca,\ cp,\ cu_1\}$は 4直線 $a\vee u$$a\vee p_2$$b\vee u$$b\vee p_1$でつくられる四辺形によって四辺性六辺である. したがって命題42によって 6点 $\{a,\ p,\ u_1,\ b,\ p',\ u_1\}$は四角性六点. 直線体の積の定義から$p\cdot p'=u_1$である. □

命題 51        $P^n$の枠$\mathscr{F}$に関する辺上の二つの枠 $\mathscr{F}_1,\ \mathscr{F}_2$をとる. このとき枠$\mathscr{F}$に関する基本写像 $\varphi:\mathscr{F}_1\to \mathscr{F}_2$は一意に定まる. とくに $\mathscr{F}_1,\ \mathscr{F}_2$が同じ辺上にあるとき, $\mathscr{F}_1=\mathscr{F}_2$なら恒等写像, $\mathscr{F}_1\ne \mathscr{F}_2$つまり基本点の順序が逆なら点$p$を直線体での逆元$p^{-1}$にうつす. ■

証明      $n=2$の場合は命題50より成立する. $n>2$の場合を示すために次の補題を示す.

補題 13        $P^3$の枠 $\mathscr{F}=[a,\ b,\ c_1,\ c_2,\ u]$に属する二平面 $a\vee b\vee c_i\ (i=1,\ 2)$上の枠を $\mathscr{F}_i=[a,\ b,\ c_i,\ u_i]$とする.折返し $\gamma_i:a\vee b \to a\vee c_i$をとる.このとき 写像 $\gamma_2\circ{\gamma_1}^{-1}:a\vee c_1\to a\vee c_2$は 枠 $\overline{\mathscr{F}}=[a,\ c_1,\ c_2,\ \overline{u}]$ に関する$a$のまわりの折返しと一致する. ■

証明     $a\vee b=l$$a\vee c_i=l_i$$a\vee u=g$$a\vee u_i=g_i$ $a\vee \overline{u}=h$とおく.

\begin{displaymath}
\gamma_i
=\pi_{l_ig_i}(b)\circ\pi_{g_il}(c_i)
=\pi_{l_ig_i}(b)\circ\pi_{g_il}(c_1\vee c_2)
\end{displaymath}

である.写像

\begin{displaymath}
\psi=\pi_{hg}(b)\circ\pi_{gl}(c_1\vee c_2):l \to h
\end{displaymath}

をとる. $s_i=(c_1\vee c_2)\cap(g_i\vee g)$とおく.

\begin{eqnarray*}
\psi\circ{\gamma_i}^{-1}
&=&\pi_{hg}(b)\circ\pi_{gl}(c_1\vee...
...}(b)\\
&=&\pi_{hg}(b)\circ\pi_{gg_i}(s_i)\circ\pi_{g_il_i}(b)
\end{eqnarray*}

$x_1\in a\vee c_i$をとり.

\begin{displaymath}
x_2=\pi_{g_il_i}(b)(x_1),\
x_3=\pi_{gg_i}(s_i)(x_2),\
x_4=\pi_{hg}(b)(x_3)
\end{displaymath}

とおくと, $x_1,\ x_4,\ s_1$は共線なので,

\begin{displaymath}
\pi_{hg}(b)\circ\pi_{gg_i}(s_i)\circ\pi_{g_il_i}(b)=\pi_{hl_i}(s_i)
\end{displaymath}

が成り立つ. ところが $i,\ j=(1,\ 2),\ (2,\ 1)$ に対して3点$u_i,\ u,\ c_j$は共線であるから$s_i=c_j$である. この結果, $\psi=\pi_{hl_i}(c_j)\circ\gamma_i$となり,

\begin{displaymath}
\pi_{hl_1}(c_2)\circ\gamma_1=\pi_{hl_2}(c_1)\circ\gamma_2
\end{displaymath}

より

\begin{displaymath}
\gamma_2\circ{\gamma_1}^{-1}=\pi_{l_2h}(c_1)\circ\pi_{hl_1}(c_2)
\end{displaymath}

である. □


命題51の証明      $P^n$の枠 $\mathscr{F}=[a_0,\ \cdots,\ a_n,\ u]$ に属する任意の辺上の枠 $\{a_i,\ a_j \}$に対して基本写像

\begin{displaymath}
\varphi_{ij}:a_i\vee a_j \to a_0\vee a_1
\end{displaymath}

を次のように定める.

1)     $(a_i\vee a_j)\cap(a_0\vee a_1)\ne \emptyset $のとき.

2辺 $a_i\vee a_j,\ a_0\vee a_1$を含む$F$の2次元面$\alpha$をとり, $\alpha$上の枠に関する基本写像を$\varphi_{ij}$とする. $n=2$のときの一意性から$\varphi_{ij}$は一意に定まる.

2)     $(a_i\vee a_j)\cap(a_0\vee a_1)= \emptyset $のとき.

$\{a_0,\ a_i,\ a_j \}$と枠 $\{a_0,\ a_1,\ a_j \}$ に関する折返しの結合により$\varphi_{ij}$

\begin{displaymath}
\varphi_{ij}:
a_j\vee a_i \to a_1\vee a_i \to
a_1\vee a_j \to a_0\vee a_j\to a_0\vee a_1
\end{displaymath}

で定める. このように$\varphi_{ij}$を定めると,$F$の任意の2次元面上の枠 $\{a_i,\ a_j,\ a_k\}$に関する折返し $\gamma:a_i\vee a_j \to a_i\vee a_k$に対して, 補題13より $\varphi_{ik}\circ\gamma=\varphi_{ij}$つまり $\gamma=\varphi_{ik}^{-1}\circ\varphi_{ij}$となる. これから折返しの結合で得られる任意の基本写像 $\varphi:\{a_i,\ a_j\} \to \{ a_k,\ a_l\}$に関しても $\varphi=\varphi_{kl}^{-1}\circ\varphi_{ij}$ は一意に定まる. □

座標系

以上の準備によって射影空間$P^n$の座標系が定義される.

$P^n$の枠 $\mathscr{F}=[a_0,\ \cdots,\ a_n,\ u]$が与えられている. その係数体を$K$とし,直線体 $K(a_i,\ a_j,\ u)$または $K(a_j,\ a_i,\ u)$から$K$への同型$\theta_{ij}$が指定されている. このとき,写像 ${\theta_{kl}}^{-1}\circ\theta_{ij}:a_i\vee a_j\to a_k\vee a_l$$\mathscr{F}$に関する基本写像であるとき$\mathscr{F}$と写像$\theta_{ij}$の組 $\{\mathscr{F},\ \theta_{ij}\}$$P^n$非同次射影座標系という.

命題51により,いずれかの$\theta_{ij}$を決めれば他は一意に定まる. よって$\theta_{ij}$をすべて同じ$\theta$で表して混乱しない. 座標系を $\{\mathscr{F},\ \theta\}$のように表す. $\theta$の決め方は二通りあり,その結果,枠$\mathscr{F}$に対して二通りの非同次座標系が定まる.

命題 52        $P^2$の座標系 $\{F,\ \theta \}$ $F=\{a,\ b,\ c,\ u\}$が与えられている. $P^2$の点 $p\ (\not \in b \vee c)$ $a\vee b,\ a\vee c,\ c\vee b$への 成分を $p_1,\ p_2,\ p_3$とする. $p\not \in a\vee c$のとき, 同型 $\theta:K(a,\ b),\ K(a,\ c),\ K(b,\ c)\to K$に対して $\xi=\theta(p_1)$ $\eta=\theta(p_2)$ $\zeta=\theta(p_3)$とおけば, $\eta=\zeta\xi$である. $p\in a\vee c$のときは$\theta$$K(c,\ b)\to K$にとると同様である. ■

証明     $p=a$なら$\xi=\eta=0$$p_3$$b\vee c$$c$以外の任意の点でよい. $p\ne a,\ p \not\in a\vee c$とする. 基本点$a,\ c,\ b$まわりの折返しを $\gamma_1:a\vee b\to a\vee c$ $\gamma_2:c\vee a\to c\vee b$ $\gamma_3:b\vee c\to b\vee a$をとる.

$a,\ u,\ p$が共線なら $p_2=\gamma_1(p_1)$なので $\eta=\xi,\ \zeta=1$より成立.

$b,\ u,\ p$が共線なら $p_1=\gamma_3(p_3)$なので命題50 より $\zeta=\xi^{-1}$かつ$\eta=1$より成立.

その他の一般の場合, ${\gamma_1}^{-1}(p_2)={p_2}'$ $\gamma_3(p_3)={p_3}'$とおくと,同型 $\theta:K(a,\ b)\to K$に関して
         $
\xi=\theta(p_1),\
\eta=\theta({p_2}'),\
\zeta^{-1}=\theta({p_3}')$
である.4直線$a\vee p$$a\vee u$$b\vee p$$b\vee u$で定まる四辺形に関して 6直線
         $
\{c\vee b,\ c\vee {p_2}',\ c\vee p_1,\ c\vee a,\ c\vee {p_3}',\ c\vee u\}$
は四辺性六辺である.

この結果,6点 $\{a,\ {p_3}',\ u_1,\ b,\ {p_2}',\ p_1\}$ は四角性六点である. よって積の定義から体 $K(a,\ b,\ u_1)$において ${p_3}'\cdot {p_2}'=p_1$.つまり$K$において $\eta=\zeta\xi$が成り立つ. □

同次座標

$\mathscr{F}$に対して非同次座標系の決め方は二通りある. その一方を明示的に指示し, 次のように$P^n$の非同次座標とそれに基づく同次座標を定める.

同次座標を定義するために,座標集合を準備する. 体$K$$n+1$個の要素の組 $\mathrm{\bf x}=(x_0,\ x_1,\ \cdots,\ x_n)$から $(0,\ 0,\ \cdots,\ 0)$を除いた${K^{n+1}}^*$の, 同値関係

\begin{displaymath}
\mathrm{\bf x}〜\mathrm{\bf y}\quad \iff\quad
\exists \lambda(\in K) ;\mathrm{\bf x}=\mathrm{\bf x}\lambda
\end{displaymath}

による商集合 ${K^{n+1}}^*/〜$座標集合という. $K^{n+1}$の要素は $(x)=(x_0,\ x_1,\ \cdots,\ x_n)$のように表す. これは類の代表であり,

\begin{displaymath}
(x_0,\ x_1,\ \cdots,\ x_n)
=(x_0\lambda,\ x_1\lambda,\ \cdots,\ x_n\lambda)
\end{displaymath}

である. また同じ $(x_0,\ x_1,\ \cdots,\ x_n)$で座標変数を表すこともある.

$P^n$に射影座標系 $\{\mathscr{F},\ \theta\}$ $\mathscr{F}=[a_0,\ \cdots,\ a_n,\ u]$が与えられている.

$p$$a_0$の補面${a_0}^*$に含まれないとき,$p$の辺 $a_0\vee a_i\ (i=1,\ 2,\ \cdots,\ n)$への成分を$p_i$とし, $\theta:K(a_0,\ a_i)\to K$による$p_i$の像を, $\theta(p_i)=x_i$とする.そして $(x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n)\in K^n$を点$p$非同次座標という.またこのとき $(1,\ x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n)\in {K^{n+1}}^*/〜$を点$p$同次座標という.点$a_0$の同次座標は $(1,\ 0,\ 0,\ \cdots,\ 0)$である.

さらに$p\in {a_0}^*$のときは,直線$a_0\vee p$上の第3の点$q$をとり, $q$の非同次座標が $(x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n)$であるとき, $(0,\ x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n)\in {K^{n+1}}^*/〜$を点$p$の同次座標と定める.


この定義が意味をもつためには,$q$のとり方を変えても, $(0,\ x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n)$ ${K^{n+1}}^*/〜$の要素として 同じ類となることを確認しなければならない.それを示す.

直線$a_0\vee p$上の点 $q,\ q'(\ne a_0,\ p)$をとる. その非同次座標を $(x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n)$ $({x'}_1,\ {x'}_2,\ \cdots,\ {x'}_n)$とする. $q,\ q'\ne a_0$なので, $x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n$のすべてが0ということはない. 順序を入れかえ$x_1\ne 0$とする.このとき${x'}_1\ne 0$も成り立つ. $x_2,\ \cdots,\ x_n$の中で0でないものがなければ,一意性は明らか.0でないものがあればそれを$x_i$とする. 3点$p,\ q,\ q'$の面 $a_0\vee a_1\vee a_i$への成分を それぞれ $p_i,\ q_i,\ q_i'$とする. 4点 $a_0,\ q_i,\ q_i',\ p_i$は共線で, $p\in {a_0}^*$より $p_i\in a_1\vee a_i$

     面上の枠 $[a_0,\ a_1,\ a_i]$に関する点$q_i,\ q_i'$の非同次座標が $(x_1,\ x_i)$ $({x'}_1,\ {x'}_i)$である. ここで$K(a_1,\ a_i)$から$K$への同型写像$\theta$をとり, $\xi_i=\theta(p_i)$とおくと,命題52から $x_i=\xi_ix_1,\ {x'}_i=\xi_i{x'}_1$となる.

この結果, $x_i{x_1}^{-1}={x'}_i{{x'}_1}^{-1}$. これから ${x_1}^{-1}{x'}_1={x_i}^{-1}{x'}_i$. この値を$\lambda$とおけば $\lambda\in K,\ \ne 0$ ${x'}_i=x_i\lambda$ $i=1,\ 2,\ \cdots,\ n$で成立. つまり $(x)=(0,\ x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n)$ $(x')=(0,\ {x'}_1,\ {x'}_2,\ \cdots,\ {x'}_n)$ ${K^{n+1}}^*/〜$の同じ類を表す.

基本点の座標

基本点$a_i$の同次座標を

\begin{displaymath}
(a_{ik})=(a_{i0},\ a_{i1},\ \cdots,\ a_{in})
\end{displaymath}

とする.これは$i$成分のみが1で他は0,つまり $a_{ik}=\delta_{ik}$となる. 記号$\delta_{ik}$

\begin{displaymath}
\delta_{ik}=
\left\{
\begin{array}{ll}
1&(i=k)\\
0&(i\ne k)
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

を表す.同次座標は ${K^{n+1}}^*/〜$の類の代表で表している. だから$(a_{ik})$は0でない任意の$\lambda$倍を除いて定まる.


これで射影空間$P^n$の同次座標が定義された. これを枠$\mathscr{F}$によって定まる同次座標系といい, 同じ記号 $\{\mathscr{F},\ \theta\}$で表す.


部分空間の方程式

命題 53        $P^2$の同次座標が与えられている.それを $(x_0,\ x_1,\ x_2)$とする.$P^2$の直線は一次方程式
\begin{displaymath}
u_0x_0+u_1x_1+u_2x_2=0,\ \quad u_i\in K,\ (u_0,\ u_1,\ u_2)\ne (0,\ 0,\ 0)
\end{displaymath} (3.1)

で与えられる. いいかえると,$P^2$の直線に対して,方程式(3.1)が存在し, その直線が(3.1)を満たす$P^2$の点 $(x_0,\ x_1,\ x_2)$の集合となる.  ■

証明      座標系を $\{\mathscr{F},\ \theta\}$とし, $\mathscr{F}=[a,\ b,\ c,\ u]$とする.

直線$l$が枠の辺と一致するとき. 同次座標の定義から3辺 $b \vee c,\ a\vee c,\ a\vee b$の方程式はそれぞれ

\begin{displaymath}
x_0=0,\ x_1=0,\ x_2=0
\end{displaymath}

である.

直線$l$が頂点$a$を通り$b,\ c$を通らないとき. $\theta(l\cap(b\vee c))=u(\in K)$ $\theta:K(b,\ c)\to K$$l$上の点の非同次座標を $(\xi_1,\ \xi_2)$とすれば,命題52から $\xi_2=u\xi_1$であるから,$l$の方程式は同次座標で $x_2=ux_1$となる.他も同様で$l$$\mathscr{F}$の一つの頂点を通るとき,その方程式は

\begin{displaymath}
x_i=ux_j\ (i,\ j=0,\ 1,\ 2)
\end{displaymath}

となる.

直線$l$$\mathscr{F}$のいずれの頂点も通らないとき. $l$と辺の交点 $r=l\cap(b \vee c)$ $s=l\cap(a \vee c)$をとる. $\theta:K(b,\ c),\ K(a,\ c)\to K$に対して $u=\theta(r),\ v=\theta(s)$とする. $l$上の点$p$ $p'=(c\vee p)\cap(a\vee r)$をとり,それらの枠 $\{\mathscr{F},\ \theta\}$に関する 非同次座標を $(\xi,\ \eta),\ (\xi',\ \eta')$とする. 命題52から$\xi'=\xi$$\eta'=u\xi$である.

4点 $r,\ p,\ p',\ b$を頂点とする四角形から,体$K(a,\ c)$の和の定義より $\eta=\eta'+v$,これから$\eta=u\xi+v$である.同次座標になおして $l$の方程式は

\begin{displaymath}
x_2=ux_1+vx_0
\end{displaymath}

となる.

逆に方程式(3.1)は以上のいずれかの形に変形でき, 直線を表す. □

命題 54        $P^n$に射影座標系が定まっている. 相異なる2定点$(y),\ (z)$を通る直線$l$は, 媒介変数 $\lambda ,\ \mu(\in K)$を用いて

\begin{displaymath}
(x)=(y)\lambda+(z)\mu
\end{displaymath} (3.2)

と表される. いいかえると集合として

\begin{displaymath}
l=\{\ (x)\ \vert\ \exists \lambda,\ \mu\ \in K;(x)=(y)\lambda+(z)\mu\ \}
\end{displaymath}

である. ■

証明      $l$上の点が等式(3.2)の形に表されることを数学的帰納法で示す.

1)     $n=2$のとき. $(x),\ (y),\ (z)$は命題53の直線の方程式を満たす.

\begin{eqnarray*}
&&u_0x_0+u_1x_1+u_2x_2=0\\
&&u_0y_0+u_1y_1+u_2y_2=0\\
&&u_0z_0+u_1z_1+u_2z_2=0\\
\end{eqnarray*}
まず $u_0u_1u_2\ne 0$とする. $z_0\ne 0$としてよい. $z_1\ne 0,\ z_2\ne 0$のときも同様である. $\lambda_1=z_0^{-1}x_0,\ \mu_1=z_0^{-1}y_0$とおくと

\begin{eqnarray*}
&&u_0x_0+u_1z_1\lambda_1+u_2z_2\lambda_1=0\\
&&u_0y_0+u_1z_1\mu_1+u_2z_2\mu_1=0
\end{eqnarray*}

よって

\begin{eqnarray*}
&&u_1(x_1-z_1\lambda_1)+u_2(x_2-z_2\lambda_1)=0\\
&&u_1(y_1-z_1\mu_1)+u_2(y_2-z_2\mu_1)=0
\end{eqnarray*}

さらに$(y)$$(z)$は異なるので, $y_1-z_1\mu_1\ne 0$としてよい. $y_2-z_2\mu_1\ne 0$のときも同様である. $\mu_2=(y_1-z_1\mu_1)^{-1}(x_1-z_1\lambda_1)$とおくと

\begin{displaymath}
u_1(x_1-z_1\lambda_1)+u_2(y_2-z_2\mu_1)\mu_2=0
\end{displaymath}

を得,

\begin{displaymath}
u_2(x_2-z_2\lambda_1)=u_2(y_2-z_2\mu_1)\mu_2
\end{displaymath}

これから

\begin{displaymath}
x_2=y_2\mu_2+z_2(\lambda_1-\mu_1\mu_2)
\end{displaymath}

$\lambda=\mu_2$ $\mu=\lambda_1-\mu_1\mu_2$とおけばよい. また

\begin{displaymath}
x_1-z_1\lambda_1=(y_1-z_1\mu_1)\mu_2
\end{displaymath}

より$x_1$も同様の関係を満たす.さらに, この結果,方程式の線形性より $x_0,\ y_0,\ z_0$も同様の関係を満たす.

$u_0u_1u_2=0$のとき. $u_0=0$とする.上記証明ですべて$u_0=0$とおいてそのまま成り立つ. $u_0=0,\ u_1=0$のとき.このとき直線の方程式は$x_2=0$となり, 点の同次座標は $(x)=(x_0,\ x_1,\ 0),\ (y)=(y_0,\ y_1,\ 0),\ (z)=(z_0,\ z_1,\ 0)$である. $y_0,\ y_1,\ z_0,\ z_1\ne 0$とする.$(y)\ne (z)$より ${z_0}^{-1}y_0-{z_1}^{-1}y_1\ne 0$なので,

\begin{displaymath}
\lambda=({z_0}^{-1}y_0-{z_1}^{-1}y_1)^{-1}({z_0}^{-1}x_0-{z...
...y_0}^{-1}z_0-{y_1}^{-1}z_1)^{-1}({y_0}^{-1}x_0-{y_1}^{-1}x_1)
\end{displaymath}

とおく. $(x)=(y)\lambda+(z)\mu$となる.実際

\begin{eqnarray*}
&&y_0\lambda+z_0\mu\\
&=&
y_0({z_0}^{-1}y_0-{z_1}^{-1}y_1)...
...1})^{-1}\{(z_1{z_0}^{-1}x_0-x_1)-
(y_1{y_0}^{-1}x_0-x_1)\}=x_0
\end{eqnarray*}

同様に $y_1\lambda+z_1\mu=x_1$も成立する. また $y_0,\ y_1,\ z_0,\ z_1$に0があるときも, 同様に$\lambda,\ \mu$をより簡単に構成できる.

2)     $n-1$では成立とする.

$n$のとき.枠を $\mathscr{F}=[a_0,\ \cdots,\ a_n,\ u]$とする. 必要なら基本点の順を替え,$(y)$$(z)$を通る直線$l$は 辺$a_0\vee a_1$と交わらないとする. $l$上の点$(x)$をとり,3点の補面${a_0}^*$への成分, および補面${a_1}^*$への成分もまたそれぞれ共線であり, 補面は$n-1$次元なので,仮定から

\begin{displaymath}
x_i=y_i\lambda+z_i\mu\ (i=1,\ 2,\ \cdots,\ n),\ \quad
x_j=y_j\lambda'+z_j\mu'\ (i=0,\ 2,\ \cdots,\ n)
\end{displaymath}

となる媒介変数 $\lambda,\ \mu,\ \lambda',\ \mu'$が存在する. これから

\begin{displaymath}
y_k(\lambda-\lambda')+z_k(\mu-\mu')=0\ (k=2,\ \cdots,\ n)
\end{displaymath}

ここで $\lambda-\lambda'\ne 0$とする. これは2点$(y)$$(z)$の補面 $(a_0\vee a_1)^*$への成分が一致することを意味している. つまり$a_0\vee a_1$$(y)$で張られる面と補面 $(a_0\vee a_1)^*$の交わりと,$a_0\vee a_1$$(z)$で張られる面と補面 $(a_0\vee a_1)^*$の交わりが一致する.この点を$p$とする. $(y),\ (z)$がともに面 $a_0\vee a_1\vee p$ 上にあることになり,$l$が直線$a_0\vee a_1$と交わらないという仮定に反する. よって $\lambda=\lambda'$$\mu=\mu'$となり,$n$の場合も成立した. 一般に$n\ge 2$で成立する.

逆に等式(3.2)の形に表される点 $(x)=(y)\lambda+(z)\mu$

\begin{eqnarray*}
&&u_0x_0+u_1x_1+u_2x_2\\
&=&u_0(y_0\lambda+z_0\mu)+u_1(y_1\...
...
&=&(u_0y_0+u_1y_1+u_2y_2)\lambda+(u_0z_0+u_1z_1+u_2z_2)\mu=0
\end{eqnarray*}

より直線上$l$にある. □

われわれは,命題31において任意の体$K$上の射影空間の存在を示した.

それをもとに,命題32で射影幾何の同次座標による解析的表示を得た. 命題32で直線の表示を構成したが, 本命題によって,直線はつねにこの形に表示される. よって,射影空間の構成ということに関して, 命題31のモデル以外のモデルは存在しない.

超平面の方程式

命題 55        $P^n$の超平面は,

\begin{displaymath}
u_0x_0+u_1x_1+\cdots+u_nx_n=0,\ u_i\in K,\ (u_0,\ u_1,\ \dots,\ u_n)\ne (0,\ 0,\ \cdots,\ 0)
\end{displaymath}

と,座標系の一次方程式1個で表される. ■

証明      一般に$r$次元部分空間が$n-r$個の1次方程式の連立で定まることを示す. $r$次元射影空間$P^r$はその定義から一般の位置にある $r+1$個の点 $(y)^i\ (i=0,\ 1,\ \cdots,\ r)$によって確定する. 2点$(y)^0,\ (y)^1$を通る直線は $(y)^0\lambda^0+(y)^1\lambda^1$で表され, この直線上の点と点$(y)^2$で定まる部分空間の点は $(y)^0\lambda^0+(y)^1\lambda^1+(y)^2\lambda^2$で表される. これを順次構成することにより, $P^r$上の点$(x)$$r+1$個の媒介変数 $\lambda^i\ (i=0,\ 1,\ \cdots,\ r)$によって

\begin{displaymath}
(x)=\sum_{i=0}^r(y)^i\lambda^i
\end{displaymath}

と表される.成分で書けば

\begin{displaymath}
x_k=\sum_{i=0}^r{y^i}_k\lambda^i,\ \ (k=0,\ 1,\ \cdots,\ n)
\end{displaymath}

$n+1$こ得られる.そのうちの二つ

\begin{displaymath}
x_{k-1}=\sum_{i=0}^r{y^i}_{k-1}\lambda^i\ ,\
x_k=\sum_{i=0}^r{y^i}_k\lambda^i
\end{displaymath}

に対して

\begin{displaymath}
{y^r}_kx_{k-1}=\sum_{i=0}^r{y^r}_k{y^i}_{k-1}\lambda^i\ ,\
{y^r}_{k-1}x_k=\sum_{i=0}^r{y^r}_{k-1}{y^i}_k\lambda^i
\end{displaymath}

として辺々引くと

\begin{displaymath}
{y^r}_kx_{k-1}-{y^r}_{k-1}x_k=
\sum_{i=0}^{r-1}({y^r}_k{y^i}_{k-1}-{y^r}_{k-1}{y^i}_k)\lambda^i
\end{displaymath}

となる. $k=1,\ \cdots,\ n$でこれを行うことにより,媒介変数$\lambda^r$を消去した 関係式が$n$個得られる.この操作をくりかえすことで順次媒介変数が1個消去されるごとに, 関係式が1個減じる. したがって$r$次元部分空間は$r+1$回の操作をおこなった時点で媒介変数を含まない方程式が $n-r$個並ぶ.この連立方程式を満たす点の集合として$P^r$が定まる.

$P^n$の超平面とは,$n-1$次元の部分空間であった. $r=n-1$の場合,係数を左から揃えて媒介変数を減じる操作を$n$回行うことで, 関係式は1個になる. よって超平面は1個の1次方程式で表される. □

超平面は ${K^{n+1}}^*/〜$の類 $(u_0,\ u_1,\ \dots,\ u_n)$で一意に確定する. これを超平面座標という.

$\alpha$$\beta$を二つの超平面とし, その超平面座標を$(v_i)$$(w_i)$とするとき, $n-2$次元部分空間 $\alpha\cap \beta$を含む超平面は, $v_0x_0+v_1x_1+\cdots+v_nx_n=0$ $w_0x_0+w_1x_1+\cdots+w_nx_n=0$と の共有点を含む超平面であるから,

\begin{displaymath}
\lambda(v_0x_0+v_1x_1+\cdots+v_nx_n)
+\mu(w_0x_0+w_1x_1+\cdots+w_nx_n)=0
\end{displaymath}

と媒介変数 $\lambda,\ \mu \in K,\ (\lambda,\ \mu)\ne (0,\ 0)$ を用いて表される.これを言いかえると, $\alpha\cap \beta$を含む超平面の超平面座標$(u_i)$

\begin{displaymath}
(u_i)=\lambda(v_i)+\mu(w_i)
\end{displaymath}

で与えられる.


ここで体$K$に対して逆体$K'$を 集合としては$K$と同じであり,和も同様であるが, $K$の積$*$に対して積$\times$

\begin{displaymath}
a\times b=b*a
\end{displaymath}

で定められる体として定める.$K$が可換体であれば$K'$$K$そのものである.

$n+1$次元座標空間から$P^n$を構成した命題31の構成法にならい, $n+1$次元の座標である超平面座標を用いて$P^*$を構成することができる. ただし,上記の超平面座標の係数$\lambda,\ \mu$が左からかかっていることから, $K$の逆体$K'$を用意し, これを用いて命題31と同様の構成を行うと, $P^*$

\begin{displaymath}
{K'^{n+1}}^*/〜
\end{displaymath}

と同型であることがわかる.

以上より次のことがわかる.

命題 56        射影空間の係数体が$K$であるとき, その双対射影空間の係数体は$K$の逆体$K'$である. $K$が可換なら$K'$$K$と同型である. ■

射影空間の埋め込み

任意の射影空間はそれより大きい次元の射影空間に埋め込める. つまり任意の射影空間は,部分空間と見なせる. これが次のように座標の導入を経て証明される.

命題 57        $n\ge 3$のとき,$N>n$である任意の$N$に対し, 射影空間$P^n$はある$N$次元射影空間$P^N$に埋め込まれる. ■

証明     $P^n$の座標系 $\{\mathscr{F},\ \theta\}$がある.その同次座標を $(x_0,\ x_1,\ \cdots,\ x_n)$とする.この点を必要なだけ0を加えて $N$次元の点 $(x_0,\ x_1,\ \cdots,\ x_n,\ 0,\ \cdots,\ 0)$ と見なせば,これで$P^n$$P^N$に埋め込まれた. □

この結果,例えば次のような命題もまた成立する.

命題 58        2次元射影幾何では次の3条件
(i)
デザルグの定理が成り立つ.
(ii)
直線体をもつ.
(iii)
3次元射影幾何に埋め込める.
は同値である. ■

証明      これは

\begin{displaymath}
(\mathrm{i})\Rightarrow
(\mathrm{ii})\Rightarrow
(\mathrm{iii})\Rightarrow
(\mathrm{i})
\end{displaymath}

の順に明らかである. □

モデルの係数体

射影幾何の公理系を定め,これをもとにして係数体$K$を定めた. 公理系は体を定めるが,その体がいかなるものであるかは定めない.

射影幾何の公理を満たすさまざまのモデルが構成できる. 射影幾何の公理系の外部で体の内部構造は定まる. したがって,その体が可換であるとか,内部自己同型をもつかどうかなどは, 射影幾何の公理そのものからは出ない.

いいかえると,公理から出発したわれわれの方法は, さまざまの体上の射影幾何のモデルに共通なことを公理に抽出し, そこから逆に射影幾何を構成することで, 体の独自性によらない共通の構造はどこまで成り立つのか, 探求してきたことになる.

一方,命題31によって, 体$K$が与えられたとき, ベクトル空間$V^{n+1}(K)$をもとに定義された直線の集合と平面の集合の組$\{P,\ L\}$は射影幾何であることが証明された. 逆にそこから,この射影幾何の係数体をこれまでの論法で定義したとき, それがもとの体$K$と同型であることを,確認しなければならない.

命題 59        命題31で射影幾何であることが示された$\{P,\ L\}$の 射影幾何としての係数体は体$K$と同型である. ■

証明      $P$の部分空間$P^2$上におかれた直線の, 四角性六点にもとづく和と積によって定義された直線体が, 体$K$と同型になることを示す. 注意32によって, $P^2$$V^3$を右からの定数倍を同値とする同値関係での商集合と見なすことができる. 枠のとり方によらず直線体がすべて同型であることはすでに示されている.

そこで$P^2$の同時座標系を $(x_0,\ x_1,\ x_2)$として, 4点

\begin{displaymath}
p_0=(1,\ 0,\ 0),\
p_1=(0,\ 1,\ 0),\
p_2=(0,\ 0,\ 1),\
u=(1,\ 1,\ 1)
\end{displaymath}

による$P^2$の座標枠を$\mathscr{F}^2$とする. 直線$l=p_0\vee p_1$上の枠 $\mathscr{F}^1=[p_0,\ p_{\infty},\ u_1]$

\begin{displaymath}
p_{\infty}=p_1,\ u_1=(1,\ 1,\ 0)
\end{displaymath}

で定め,これによる直線体を $K(p_0,\ p_{\infty},\ u_1)$とする. $K(p_0,\ p_{\infty},\ u_1)$$K$の同型を示す. $K$$l$の一対一写像を

\begin{displaymath}
\varphi\ :\ K\to l\ ;\ x \mapsto (1,\ x,\ 0)
\end{displaymath}

で定める.これは明らかに一対一である. この対応が演算を保存する,つまり $(1,\ x,\ 0)$$(1,\ y,\ 0)$の 定義21にもとづく和と積の対応点が

$\varphi(x+y)=(1,\ x+y,\ 0)$ $\varphi(xy)=(1,\ xy,\ 0)$になっていることが確認されれば, $\varphi$が体$K$と体 $K(p_0,\ p_{\infty},\ u_1)$の同型を導くものであることが示される.

和と積の定義21の図をもとにこれを確認する. ただし,体$K$の和積と直線体の演算の区別を明確にするため 点 $\varphi(x)=(1,\ x,\ 0)$などを$p_x$のようにおく.


    

\begin{displaymath}
q_4=p_2=(0,\ 0,\ 1),\ q_3=(0,\ 1,\ 1)
\end{displaymath}

にとる.

\begin{eqnarray*}
(1,\ 0,\ -x)&=&(1,\ 0,\ 0)+(0,\ 0,\ 1)(-x)\\
&=&(0,\ 1,\ 1)(-x)+(1,\ x,\ 0)
\end{eqnarray*}

より $(1,\ 0,\ -x)=(p_0\vee q_4)\cap(p_x\vee q_3)$.これを$q_1$とする. さらに

\begin{eqnarray*}
(1,\ y,\ -x)&=&(0,\ 0,\ 1)(-x)+(1,\ y,\ 0)\\
&=&(0,\ 1,\ 0)y+(1,\ 0,\ -x)
\end{eqnarray*}

より $(1,\ y,\ -x)=(q_4\vee p_y)\cap(p_{\infty}\vee q_1)$.これを$q_2$とする. ここで

\begin{displaymath}
q_2\lambda +q_3\mu =(1,\ y,\ -x)\lambda +(0,\ 1,\ 1)\mu
\end{displaymath}

$l$上にあるのは $\lambda=1,\ \mu=x$のときで

\begin{displaymath}
(1,\ y,\ -x)+(0,\ 1,\ 1)x=(1,\ x+y,\ 0)
\end{displaymath}

なので,これが$p_s$であり,確かに点$p_x$と点$p_y$の直線体の演算における和が $p_{x+y}$に一致することが示された.

     積についても次の順に点を決めてゆく.

\begin{eqnarray*}
q_1&=&(1,\ 0,\ -1)\\
q_4&=&(0,\ -1,\ -1)=q_1+u_1(-1)=(1,\ 0...
...0,\ -1)y+(1,\ 0,\ 0)(-y+1)\\
q_3&=&(0,\ x,\ 1)=q_1(-1)+p_x\\
\end{eqnarray*}

\begin{displaymath}
q_2\lambda +q_3\mu =(1,\ 0,\ -y)\lambda +(0,\ x,\ 1)\mu
\end{displaymath}

$l$上にあるのは $\lambda=1,\ \mu=y$のときで

\begin{displaymath}
(1,\ 0,\ -y)+(0,\ x,\ 1)y=(1,\ xy,\ 0)
\end{displaymath}

なので,これが$p_t$であり,確かに点$p_x$と点$p_y$の直線体の演算における積が $p_{xy}$に一致することが示された.

演算を保存する体の一対一対応は体の同型に他ならない. これで体$K$と直線体 $K(p_0,\ p_{\infty},\ u_1)$が同型となり, 直線体 $K(p_0,\ p_{\infty},\ u_1)$と同型な抽象体として定まる係数体と体$K$は同型である.

以上の議論によって次のことが示された.

定理 7        3次元以上の射影幾何は,その次元と係数体を定めれば同型を除いて一意に確定する. ■

証明      射影幾何の公理1を満たす3次元以上の射影幾何$\{P,\ L\}$はその枠$\mathscr{F}$を定めることによって係数体$K$が定まり,それによって命題31およびその同次座標による表示である命題32において定義された射影空間に一致する. 命題54によって,命題31のモデル以外のモデルは存在せず, 命題59によって,このモデルの係数体は$K$自身である. □

射影変換の定義

共線写像

定義 23        $\varphi$を二つの射影空間 $P^n,\ \overline{P}^n$の間の一対一対応とする.$\varphi$が条件:
$P^n$の3点 $p_1,\ p_2,\ p_3$が共線であるとき,そしてそのときにかぎり,それらの像 $\varphi(p_1),\ \varphi(p_2),\ \varphi(p_3)$も共線である.
を満たすとき,$\varphi$共線写像という. $\overline{P}^n={P^n}^*\ (双対空間)$であるときこれを相反変換 $\overline{P}^n=P^n$であるときこれを共線変換という. ■

射影空間は射影幾何の公理を満たす点の集合$P$と直線の集合$L$の組$\{P,\ L\}$であった. 共線写像$\varphi$は, 二つの射影空間$\{P,\ L\}$$\{P',\ L'\}$において,$P$$P'$の間の一対一対応であり,$L$の直線を$L'$の直線にうつす. つまり$l\in L$に対して

\begin{displaymath}
\varphi(l)=\{\varphi(p)\ \vert\ p \in l\}\in L'
\end{displaymath}

となる. この意味で,共線写像は,射影空間$\{P,\ L\}$$\{P',\ L'\}$の同型写像である. $\varphi$の逆写像$\varphi^{-1}$$\{P',\ L'\}$$\{P,\ L\}$の共線写像となっていることも明らかである.

共線写像は,独立な点集合を独立な点集合にうつし,枠を枠にうつす. また四角性六点を四角性六点にうつす. よって直線体$K(a,\ b,\ u)$ $K(\varphi(a),\ \varphi(b),\ \varphi(u))$の同型を定める.

射影空間$P^n$の共線変換の集合は$P^n$の変換群をつくる. これを $\mathscr{C}(P^n)$で表す.

命題 60        $P^n$の枠を動かさない $\mathscr{C}(P^n)$の部分群 $\mathscr{C}^0(P^n)$は係数体$K$の同型群$A(K)$と同型である. 座標系 $\{\mathscr{F},\ \theta\}$に関する同次座標で $\mathscr{C}^0(P^n)$の変換は

\begin{displaymath}
x'_i=\omega(x_i)\quad (i=0,\ 2,\ \cdots,\ n),\ \omega\in A(K)
\end{displaymath}

で与えられる. ■

証明      $\tau\in \mathscr{C}^0(P^n)$$\mathscr{F}$の各辺上の枠 $\{a_i,\ a_j,\ u_{ij}\}$も動かさない.よって$\tau$が定める直線体の写像は同型である.頂点$a_0$の補面${a_0}^*$に含まれない任意の点$p$の非同次座標を$(\xi_i)$とすれば,$\tau(p)$の非同次座標は係数体$K$の同型 $\omega_i\in A(K)$によって $(\omega_i(\xi_i))$と表される. $\tau$は枠を動かさないので,各$a_0\vee a_i$の係数体で同じ値に対応する点は,$\tau$によって移る点においても係数体の値が同じである.つまり任意の$\lambda\in K$に対し $\omega_i(\lambda)=\omega_j(\lambda)$となり, $\omega_i=\omega_j$が各$i,\ j$について成り立つ.これを$\omega$とする.点$p$の同次座標を$(x_i)$とすれば,$\tau$の同次座標は$(\omega(x_i))$となる. 逆に$K$の自己同型が枠を動かさない共線変換であることは明らか.□

射影変換

定義 24        射影空間$P^n$をより大きい次元の射影空間に埋め込む. これによって$P^n$から$P^n$への射影写像$\varphi$が定義される. これを$P^n$射影変換という. 射影変換の集合も群をつくる.これを $\mathscr{G}(P^n)$と表す. ■

すでに$P^n$の部分空間$P^r$に対しては配景写像の合成として射影写像が定義されていた.注意3.1.2にあるように,$P^n$そのものの射影写像は未定義であった. 直線体と射影座標の存在から,より大きい次元の空間に埋め込むことで,これを定義した.

命題 61        $P^n$の枠を動かさない $\mathscr{G}(P^n)$の部分群 $\mathscr{G}^0(P^n)$は, 直線体$K$の内部自己同型群$I(K)$と同型である. 座標系 $\{\mathscr{F},\ \theta\}$に関する同次座標で $\mathscr{G}^0(P^n)$の変換は

\begin{displaymath}
x'_i=\lambda x_i\quad (i=0,\ 2,\ \cdots,\ n),\ \lambda \in K
\end{displaymath}

で与えられる. ■

この証明に補題を一つ必要とする. 以下において同座標対応は次の意味で用いる.

二つの射影空間$P^r$$Q^r$があり, それぞれ同次座標が定まっているとする. $P^r$の点$p$が座標$(x)$で表されるとき, $Q^r$の点でその座標が$(x)$で表されるものを$q$とする. これによって$P^r$から$Q^r$への写像が定まる. これは明らかに一対一対応である. この写像による点対応を同座標対応という.

補題 14        $P^n$に射影座標系が与えられ, 2直線$l,\ l'$がそれぞれその上の2点$(y),\ (z)$および$(y'),\ (z')$ を用いて方程式

\begin{displaymath}
x_i=y_i\lambda+z_i\mu ,\ \quad
x_i=y'_i\lambda'+z'_i\mu' \quad (i=0,\ 1,\ \cdots,\ n)
\end{displaymath}

で定まっているとする. 直線の媒介変数 $\lambda,\ \mu,\ \lambda',\ \mu'$を用いて $l$$l'$の同次座標 $(\lambda,\ \mu)$ $(\lambda',\ \mu')$ を定める. このときこの同次座標で定まる同座標対応$l\to l'$は射影写像である. ■

証明      座標系 $\{\mathscr{F},\ \theta\}$ $\mathscr{F}=\{a_0,\ a_1,\ \cdots,\ a_n,\ u\}$をとる. 枠の定義から枠の2辺の間の同座標対応は $\theta_{ij}^{-1}\circ\theta_{kl}$となり, これは射影写像である. よって直線 $l:x_i=y_i\lambda+z_i\mu$に対して適当な辺$aj\vee a_k$をとり, 同座標対応 $l\to aj\vee a_k$が射影写像となることを示せばよい. 必要なら番号を変え直線$l$は辺$a_0\vee a_1$の 補面 $(a_0\vee a_1)^*$とは交わらないものとする.

同座標対応を $\psi:l\to a_0\vee a_1$とする. これは $(\lambda,\ \mu)$に対応する$l$上の点と, 枠$\mathscr{F}$に関する$a_0\vee a_1$の同次座標が $(\lambda,\ \mu)$である点を対応させる. これに対して, $(a_0\vee a_1)^*$を中心とする配景写像を $\pi:l \to a_0\vee a_1$とし, これによって $(\lambda,\ \mu)$に対応する$l$上の点が, $(\lambda',\ \mu')$に対応する$a_0\vee a_1$上の点に対応するとする. $\lambda'=y_0\lambda+z_0\mu ,\
\mu'=y_1\lambda+z_1\mu$なる$a_0\vee a_1$上の一次変換を$\varphi$とする. 命題49よりこれは射影写像である.このとき $\psi=\varphi^{-1}\circ\pi$なので,$\psi$は射影写像である. □


命題61の証明      命題47により変換 $\varphi\in \mathscr{G}^0(P^n)$$\mathscr{F}$の各辺の直線体に対しては内部自己同型である.つまり命題60$\omega$$I(K)$にとれる.したがって $(x'_i)=(\omega(x_i))=(\lambda x_i \lambda^{-1})$となり $(\lambda x_i)=(x'_i\lambda)=(x'_i)$である.

逆に$P^n$の任意の直線 $x_i=y_i\mu+z_i\nu$$\varphi$により直線 $x_i=\lambda y_i\mu+\lambda z_i\nu$にうつる.補題14より同座標対応 $(\mu,\ \nu)\to (\mu,\ \nu)$は射影写像である. □

変換の同次座標表現

直線の射影写像が1次変換で表されたように,共線変換,射影変換は次のような線形変換表現をもつ.

命題 62        $P^n$の共線変換群 $\mathscr{C}(P^n)$の変換は 準線形変換式
\begin{displaymath}
x'_i=\sum_{j=0}^n\alpha_{ji}\omega(x_j)\quad \alpha_{ji}\in K,\ \omega\in A(K)
\end{displaymath} (3.3)

で与えられ,射影変換群 $\mathscr{G}(P^n)$の変換は
\begin{displaymath}
x'_i=\sum_{j=0}^n\alpha_{ji} x_j\quad \alpha_{ji}\in K
\end{displaymath} (3.4)

で与えられる. ただしいずれも変換式は同次座標で表された点の一対一対応であるとする.

証明      変換(3.3)が共線変換であることは明らか.

$P^n$の直線 $x_i=y_i\lambda+z_i\mu$は変換(3.4) で直線

\begin{displaymath}
x_i=y'_i\lambda+z'_i\mu,\
y'_i=\sum_{j=0}^n\alpha_{ji} y_j,\
z'_i=\sum_{j=0}^n\alpha_{ji} z_j
\end{displaymath}

にうつる.補題14より同座標対応 $(\mu,\ \nu)\to (\mu,\ \nu)$は射影写像であるから,変換(3.4)は射影変換である. さらに変換(3.4)が一対一対応なので,この形で枠を他の任意の枠にうつすことができる.

射影変換で枠を動かさないもの $\mathscr{G}^0(P^n)$$I(K)$であるから,すべての射影変換は 変換(3.4)と内部自己同型の結合である. 命題61の後半より,それもまた変換(3.4)の形に書ける.

次に共線変換 $\varphi_1\in \mathscr{C}(P^n)$をとる.$\varphi_1$は枠$\mathscr{F}$$\mathscr{F}'$に移すとする. 枠$\mathscr{F}$を枠$\mathscr{F}'$に移す射影変換$\varphi_2$をとる.射影変換は共線変換であるから ${\varphi_2}^{-1}\circ\varphi_1$は枠$\mathscr{F}$を動かさない共線変換であり, $\mathscr{C}^0(P^n)$に属する. よって一般の共線変換は, $\mathscr{C}^0(P^n)$と射影変換 $\mathscr{G}(P^n)$の合成になる. それが変換(3.3)である. □

命題 63       剰余群の間に同型

\begin{displaymath}
\mathscr{C}(P^n)/\mathscr{G}(P^n)\cong A(K)/I(K)
\end{displaymath}

が成り立つ.ただし記号$\cong$は群の同型を表す.■

証明     前3命題とその証明からわかるように,

\begin{eqnarray*}
&&\mathscr{C}(P^n)=\mathscr{C}^0(P^n)\mathscr{G}(P^n)\\
&&\...
...\mathscr{G}^0(P^n)\cong I(K)\\
&&\mathscr{C}^0(P^n)\cong A(K)
\end{eqnarray*}

が成り立つ.そして明らかに $\mathscr{C}^0(P^n)$ $\mathscr{C}(P^n)$の, $\mathscr{G}^0(P^n)$ $\mathscr{G}(P^n)$の正規部分群である. よって群の同型定理から

\begin{eqnarray*}
&&A(K)/I(K)\cong\mathscr{C}^0(P^n)/\mathscr{G}^0(P^n)\\
&=&...
...(P^n)/\mathscr{G}(P^n)\\
&=&\mathscr{C}(P^n)/\mathscr{G}(P^n)
\end{eqnarray*}

である.□

これから射影空間$P^n$の共線変換が射影変換であるための必要十分条件は 係数体が内部自己同型以外の同型をもたないことであるがわかる.

実数体は命題29によって恒等変換以外に自己同型をもたないので,共線変換はすべて射影変換である.複素数体ではそれは成り立たない.

基本定理

次の定理は定理6を射影変換にいいかえたものである.

定理 8        射影幾何$\{P^n,\ L\}$に関する三条件:
(1)
係数体$K$が可換体である.
(2)
$P^n$の枠を他の任意の枠にうつす射影変換がただ一つ存在する.
(3)
$P^n$の同一平面上にある2直線に関してパップスの定理が成り立つ.
は同値である. ■

射影空間$P^n$についての条件(2)を射影幾何の基本定理といった. 直線体が実数体$\mathbb{R}$や複素数体$\mathbb{C}$においては,射影幾何の基本定理が成り立つ.

歴史的には,係数体を実数体とする射影幾何が研究された. この場においては条件(2)が成り立つ. したがって研究の中で射影変換の一意の存在が発見され, これが基本定理とされたのである.

しかし公理系から出発した結果,この条件の成り立つ根拠が明らかになり, 上記3命題の同値性こそが基本定理となったのである.


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2014-01-03