次: 円錐曲線
上: 二次曲面の定義
前: 線型代数の準備
の係数体はこれまでと同様に可換とし,さらにその標数は2でないとする.必要に応じては代数的閉体とするが,それはそれを必要とするところで指示する.以下次元射影空間における次曲面を考えるので,超平面にならえば「超曲面」というべきところであるが,高次の場合も含めて「曲面」で統一する.
定義 29 (極系による定義)
次元射影空間
からその双対空間
への射影写像
が極系であるとする.
の点
に対し
は
の点であり
双対対応によって
の超平面に対応する.
の点集合
を,極系
で定まる二次曲面という.
■
射影空間で枠を選び座標系が定まっているとする.
この座標系に関しては次の対称行列の類で表される.
行列はこの類の代表であると考える.つまり行列は次正方行列を0でない定数倍の同値関係で類別した類の要素を表すものとする.
の座標をとする.
これは縦ベクトルであった.
はの座標で行列との積になる.
これがの超平面
を定める.二次曲面の定義を座標系でいえば,
点がで定まる二次曲面の点であることは,
が再びこの方程式を満たすということである.
つまり
を満たす点の集合がである.
射影写像は一対一対応であり,その行列の階数はである.
ここの部分を一般化し,一般の対称行列によって
二次曲面を定義することができる.
定義 30 (対称行列による定義)
の座標系
がある.
を必ずしも階数が
とはかぎらない対称行列とする.
座標系の方程式
を満たす
の点の集合を二次曲面といい
と表す.
■
これは先の曲系による定義29を含む.
つまりの階数がなら同等の定義である.
今後,この一般化された定義をの定義とする.
線型代数の一般論から,
対称行列に対してが対角行列となるような
可逆行列が存在する.
この証明は『線型代数の考え方』など参照のこと.
これからただちに次のことが結論される.
命題 75
次元射影空間におかれた二次曲面は,
座標系をつまりは枠を適当に選ぶことによって
と表される.
■
系 75.1
が代数的閉体なら
に帰着する.
が実数体なら
に帰着する.
■
は行列の階数である.のとき二次曲面は正則であるという.
あるいはまた非退化であるという.
のときは非正則,あるいは退化であるという.
このときの要素で
となるものは,
の部分空間をなす.
このときこれに対応して,
の部分空間でその要素がとなるものが存在する.
これを二次曲面の特異空間,その要素を特異点という.
二次曲線で特異点の集合が直線であれば
その方程式は因数分解される.
逆に因数分解されれば2直線となる.
例 4.1.1
の
において
とおく.
の階数は2である.
このとき同次座標で
の方程式は
と因数分解される.したがって
は2直線を表す.
注意 4.1.1
代数幾何学においては,曲線の特異点が定義される.
特異点をもたない曲線を
滑らか,あるいは
非特異という.
2次曲線においては,非退化であることと非特異であることが同値である.
この証明などは,『Poncelet's Theorem』[
40]の定理3.2 を参照のこと.
射影空間からその双対空間への射影写像が極系であるとき,
の点に対してはの点でありの超平面を定める.によって定まるの超平面をの極超平面といい同じで表す.の場合は極線という.逆にの要素であるの超平面に対してはの点である.これをの超平面の極という.
の点とその双対空間の点,
すなわちの超平面の上にある点は
に関し共役であるという.
それぞれの座標をととする.
がと共役なら
である.
に対応する行列は対称なのでこれは
と同値である.
よってがと共役なら
がと共役である.
二次曲面上の点は
を満たすので,それ自身に共役,つまり自己共役である.
が定める超平面を点におけるの接超平面という.
のときは接線という.
命題 76
射影写像
を極系としそれが定める二次曲線を
とする.
の直線
がある.
上の点で
上にはない点
に対して,
超平面
と直線
の交点を
とする.
点対
は,
によって決まり
のとり方によらない一定の対合によって対合をなす.
■
証明
とに座標系を定め,それによってが定める行列をとする.
定義28よりは対称行列である.
直線上の2定点とをとり,
を媒介変数とを用いて
と表す.
を直線の同次座標とする.
であるとする.は上の点なので
である.が対称なので
.
よってこの等式は
|
(4.1) |
となる.
これは命題71の等式そのものであり,
その係数
はとによらない.
よって条件を満たす上の2点は同一の対合で対合をなす.
□
証明
(i)
命題76の直線をとし,定点として
2点をとる.これによって点とは対合をなす.
さらに方程式4.1は
となる.この方程式は
を
か
にとっても成り立ち,
この対合に関しては自己対合をなすことがわかる.
命題73よりはを調和に分ける.
つまり4点
は調和列点をなす.
(ii)
点は自己対合点である.
,とし上の点を
とおく.これが上にあるのは
を満たすことであるが,
かつなので
これを満たすのはのみである.
つまり直線とは点のみ共有する.
(iii)
同様にとの座標を,とし,
直線上の点を座標系で
とする.
より
なので,直線はに含まれる.
逆について.(i)は命題73によってとは対合をなし,
命題76によってがと共役なら対合をなすが,
直線上の点でとその対合で対合をなす点は一意なので,
とは共役である.他は明らか.
□
例 4.1.2 上記定理の(i)は,ユークリッド平面では
とも定式化される.
に含まれる部分空間を母空間,1次元直線の場合母線
という.
実数に対してはを超えない最大の整数を表すものとする.
命題 77
複素数体
上の正則二次曲面
は
次元部分空間を含む.
■
証明
系75.1からは適当な座標系によって
と表される.
が奇数のとき.とおく.を虚数単位として
であるから,個の方程式
で定義される部分空間はに含まれる.
の次元は
である.
が偶数のとき.とおく.
同様に
であるから,個の方程式
で定義される部分空間はに含まれる.
の次元は
である.
よっていずれの場合も命題は成立する.
□
本定理は直線体が代数的閉体であれば成り立つ.
の相交わらない次元部分空間をとる.
を通る超平面の集合をとる.
定義14によってこれらは線型基本図形であり,
その基本図形の間の射影写像の概念が有効である.
定義 31 (幾何的定義)
の相交わらない
次元部分空間
に対する超平面束
が射影的であるとき,つまり射影写像
が存在するとき,対応する超平面の共通部分空間の集合
を二次曲面という.■
におけるとは双対的にの直線に対応し,
はそれらの直線上の点の集合に対応する.
においてとが射影的であるということと,
において双対的に対応する直線から直線への射影写像が存在することが同値である.
のとき,とは異なる点であり,
,はそれぞれをとおる直線の集合である.
これを母線束という.
定義30と定義31が同等であることは次のように示される.
証明
(I)
との交点の座標をとすると
であり,媒介変数
,を用いて
と表される.さらに直線
上の点は
媒介変数を用いて
と表される.これがと接しているので
が同次二次方程式として重根をもつ.
よって
である.
よって判別式の条件は
これから
つまりがかに一致するか,
または
これは変換行列が
型の射影写像である.
注意 4.1.2
1)
この対応は明らかに
から
への一対一対応である.
かつ代数的に対応している.
が代数的閉体ならここから射影写像でしかありえないことがわかる.
閉体でない場合を含め示した.
2)
は二次曲線上の異なる2点であればつねに成りたつ.
(II)
の座標をとする.
である.が行列で表されるとする.つまり
とする.の座標をとすると,
の成分には0でないものがあるので,
三つの縦ベクトル
より構成される3次正方行列式について
が成り立つ.これを成分で書き表し整理すれば,
になる.
,
のとき
でを定める.
このとき
で定まる対称行列による二次曲線がに一致する.
□
注意 4.1.3
2次元の場合に3次行列よる定義と古典的定義の同等性が示された.
高次の場合についての二つの定義の関係は今後の研究課題とする.
命題 79
平面二次曲線が2直線に分解されることと,
幾何的定義における射影写像
が配景写像であることは
同値である.
■
証明
射影写像が配景写像であるとする.
双対空間での配景の中心に対応するの直線をとする.
直線とは上の点で交わることを意味する.
またによって直線はそれ自身にうつる.
よってはとそれ自身である.
2直線に分解されるとする.とは互いにうつるので,
2直線になればそのうちの1本はであり,
他方の直線の双対空間での点は配景の中心である.
□
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2014-01-03